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45話 遭難確実の決死行

 ユクハちゃんがいるであろう第四層に到達。

 そこでで見たものは、視界が雪で何も見えなくなるほどの猛吹雪だった。

 ここってどこだっけ?

 真冬のトムラウシ山? 吾妻連峰? 薬師岳? いや、八甲田山だったかな?

 そう言えばギルドからここで行方が知れなくなった冒険者たちの捜索とか頼まれていたけど、普通に無理だね。こんな素人目でも遭難確実の危険地帯で、小遣い稼ぎなんて考える奴は死人も同然。

 考えてみれば、小遣い稼ぎで地獄へ行く冒険者は後を絶たない。冒険者たるもの、小銭を見切るいさぎよさも必要なのだ。

 私はギルドから渡された行方不明冒険者のリストをポイッと捨てた。


 「すごい……立って歩けないほどの吹雪なんて、初めてです。こんなところ進めるんですか?」 


 「ええい、俺の熱い召喚士魂で雪など溶かして進んでやる!」


 「『熱い魂』って、ただの比喩表現じゃん。本当に熱いわけないだろ」


 「うーん、ホノウの魂は本当に熱い気がするな。なんかいつも暑苦しいし」


 ともかく私達はマントで体をしっかり包んみ、風から身を守りながら進む。

 幸い雪はあまり深くはなく、順調に歩を進めることはできた。


 「吹雪で何も見えないよ。ユクハって子の場所なんてわからないんじゃない? 闇雲に進んでも見つけるのは無理だと思うよ」


 「それは大丈夫。フレイムポックルって精霊獣の気配が、はるか先の方にもう一つあるんだよ。おそらくそれはユクハちゃんが出したもの。その気配の先にユクハちゃんはいるはずだ」


 「すごい気配察知のスキルだね。なにをやったら気配察知スキルのレベルをそんなに上げられるの?」


 スマホでポチポチっと。

 いったいなんでこんなゲームのスキル獲得みたいなことができるのかは分からないけど。


 「でも、この先にはなにか凄い精霊の気配が……いえ、受肉化した精霊獣ですね。とにかくとんでもないものがいます。この吹雪もそれが起こしているのでしょう」


 「ああ……それが……伝説の……精霊獣……ペギラヴァ……凍結の……魔王……」


 「……ホノウ?」


 妙にホノウの声がかすれている。

 そういえば、さっきからこの騒がしい男が妙に静かだ。

 彼の姿をよく見ると、顔色が紫なうえに目の焦点もさだかではなかった。


 「ホノウ、顔色がすごく悪いよ! 大丈夫なの!?」


 彼は膝から崩れ落ち、雪の上にへたりこみ倒れた。

 それはまるで背負っている荷物に潰されているようだった。


 「ホノウ!」


 「大丈夫だ……と言いたいが、もう手足の感覚がない……寒さで頭も働かんし、目もよく見えん。足手まといはゴメンだ。俺をここに置いてユクハを救ってくれ……」


 「ノエル、緊急避難だ! 転移ゲートを出して!」


 「は、はい!」


 すぐさまノエルは宿屋への転移ゲートを開き、私達はそこへホノウを引きずり入れた。

 彼の濡れた服を脱がせ、毛布を幾重にもまくと、彼はガタガタふるえながらもやっと意識がはっきりしてきた。


 「なんだ、ここは地上か? いったいこれは?」


 「ノエルの『転移ゲート』って魔法だよ。ここにゲートの出口を結んでいるから、いつでもここに来られるんだ」


 「すごい魔法だな。これが黄金級ゴールドランクの実力か。……だったら、俺が大荷物を背負って進んだ苦労はいったい?」


 「それは忘れてよ。それより君でさえこんなザマじゃ、ユクハちゃんはいつまでも持たない。私たちはすぐに戻るから、あとは自分で頼むよ」


 「ああ、俺のことはいい。ユクハを助けてやってくれ。しかしお前たち。あれだけの寒さの中で平気なのか? これも黄金級ゴールドランクの実力というやつか?」


 「……あれ? そういえばボクたち、たしかに寒かったけど普通に行動できてたよね。ホノウみたいにガタガタ震えたりもしないし」


 「そうですよね。あの寒さじゃ、ホノウさんみたいになるのが普通ですよね。私って、寒さに弱かったはずなんですが」


 じつはスキル【寒冷耐性】を私とアーシェラ、ノエルにつけているのだ。

 しかし全員最大のレベル10まで上げたのに、進むにつれてかなり寒さがこたえるようになってきた。

 これほどの冷気をたった一体の怪物が出しているとなると、規格外のバケモノだな。

 ともかく私たちは濡れた服を着替え、ありったけの服を着ぶくれして厚手のマントをかぶり、元の第四層へと戻った。

 まだユクハちゃんの出しているフレイムポックルの気配は追えるが、その気配は少しずつ消えていっている。


 「まずいね。フレイムポックルの炎の気配がどんどん小さくなっていく。ユクハちゃんが危ういってことだ」


 「ユクハって子のところまで、あとどれくらいだ?」


 「もうあと少し。いっきに駆け抜けたいとこだけど、この吹雪がね……」


 もう立って歩けないほど風が強い。

 私たち全員地面に這いつくばって風に頭を向ける耐風姿勢をとりながら進んでいるザマだ。


 「それにあそこには大精霊獣ペギラヴァもいます。あれの注意も引かないようにしないと」


 そう。もう伝説の大精霊獣ともいうべきペギラヴァの巨体が間近に見えるほどに接近している。

 奴が近くなればなるほど、吹雪は威力を増しているのだ。


 「けど、このままじゃ本当に間に合わないな……しかたない」


 私はスマホを取り出した。

 大きくポイントを使って、大技の剣技を修得することにしたのだ。


 スキル【征風大切斬】

 魔法と剣技の融合である魔法剣の一種で、大気の風の力をとりこみ、スキル【大切斬】で一気に解放する技だ。


 「よし、修得完了。アーシェラ、ノエル、これから吹雪を止めるよ。合図をしたら、一気にあっちへ駆け抜けるんだ」


 「ええっ!? 吹雪を止めるって、いったいどうやって……」


 私は中腰に立ち、メガデスを吹雪に向かってかまえた。


 「大気よ……」


 吹き荒れる風に意識を集中。

 その暴風の気を静かにメガデスへ流す。


 「風が……いでいく?」


 「風がサクヤ様のメガデスに集まってきます! 剣士なのに、これほどの風を制御できるなんて信じられません!」


 収束、掌握、そして開放!


 「裂けよ嵐。【征風大切斬】!!!」


 一気にメガデスを振りぬき、風の刃を風の向く方向へ飛ばした。

 そこにはもちろん大精霊獣ペギラヴァがいる。


 ギエエエエエエエエエエエッ


 風の刃が奴に命中した途端、ヤツは大咆哮をあげた。

 そして荒れ狂っていた吹雪もピタリとやんだ。


 「まさか!? ペギラヴァにダメージをあたえた!?」


 「さあ、今のうちだ! ユクハちゃんを助けたら、転移ゲートですぐ逃げるよ!」


 私の言葉でみんなはユクハちゃんの元へと一斉に駆けだした。



 冒頭の山の名前は、遭難事故が発生した雪山です。

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― 新着の感想 ―
[一言] >行方不明冒険者のリストをポイッと捨てた シビアです。 >気配察知 >スキル【寒冷耐性】 >スキル【征風大切斬】 チートですねぇ。サクヤは何者だ? って疑惑が発生するんじゃないか? >ペ…
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