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44話 ダンジョンの猛吹雪【ユクハ視点】

 わたしはユクハ・マーメル。

 召喚士の修行をしているかたわら、この世界最大のダンジョン【奈落の道】で第四層までのガイドをして生活の糧を得ています。 

 さて本日もダンジョンガイドのお仕事。

 お客さんは、地方からやってきた冒険者パーティー【世界の踏破者】。

 そのパーティー名のように、あらゆる世界中のダンジョンを見てまわるのが目標だそうです。


 「では、三日かけてダンジョンの第四層までを案内します。出てくるモンスターはDランクまでですが、第四層は大きな地底湖があり、水棲モンスターが出ますので注意してください。ちなみにそれは倒すと氷を作るのに役立つ水の魔石になるので、高く売れます」


 「おおっ、じゃあそれで冒険費用を稼ぐかな。水棲モンスターなら故郷でたくさん狩ってきたからな」


 このお客さんらは冒険にはよく慣れている人達で、予定通り二日目には第四層まで到達。

 さらにモンスター狩りの腕もよく、わたしが手助けするまでもなく順調に道程を進んでいきました。

 ですが最終目的地の地底湖のモンスター頻発地帯に来て、大いにモンスターを狩っている最中のことでした。

 いきなり気温が大きく下がり寒くなりました。


 「なんだ? やけに寒くなったな。ガイドさん、この時間になるとこうなるのかい?」


 「いいえ、こんなことは初めてです。少し時間は早いですが帰りますか?」


 「いや、ならもう少し続けるよ。もう少し路銀は欲しいし、寒さくらい我慢するさ。上には太陽も見えているし、すぐ暖かくなるだろう」


 だけど小一時間ほどたったころです。

 気温は暖かくなるどころかますます下がり、さらなる異変がわたし達をおそいました。


 「うわっ雪!? やけに寒いと思ったら、雪まで流れてきた!?」


 「どうしてダンジョンに雪なんか!? 上は晴れているのに!?」


 ダンジョンの上方に狭く見える空からはたしかに太陽が見えていて、地上は晴れていることを示していました。

 なのに、この第四層にはいきなり冬がきたような異常気象がおこっています。 


 「みなさん、引き返しましょう。仕事がらこの第四層までのことはそれなりに詳しいのですが、ダンジョン内だけの雪なんて初めてです。安全が確認できません」


 「そ、そうだな。よし、帰還するぞみんな! ガイドさん、道案内を頼んだ」


 「わかりました。ではこの第四層にある緊急避難用の避難小屋まで案内します」


 そうして帰還の途についたのですが、遅かったと言わざるを得ない状況になってしまいました。

 どこから流れてくるかも不明の雪は、ますます猛威を増し、ついには歩くことすら困難になってしまいました。

 折り悪く【世界の踏破者】のみなさんは体が濡れたまま移動してしまったので、体温が急激に低下しています。


 「ううっ、雪がどんどん来る。これはもう吹雪だ。いったい、このダンジョンで何がおこっている!?」

 「さ、寒い! 尋常じゃなく寒い! 凍えそうだ!」

 「風で飛ばされる! 耐風姿勢をしっかりとって進むんだ!」


 濡れてツルツル滑る岩は歩きにくいうえに、風で飛ばされないようはって進むので、なかなか思うように進めません。

 さらに地底湖の水も強風で飛んできて、わたし達の体を容赦なく濡らしていきます。


 「ダメだ! もう日が暮れるのにまったく進めない。それにもう体力も限界だ」


 「体が冷えて体力を奪われているんです。どこか風をしのげる場所をさがしてビバークしましょう。私は炎の霊獣を出すことができます。それで今夜は凌ぎましょう」


 ダンジョンのくぼみになっている部分の雪をどかし、そこに天幕を張って即席の休憩所を作りました。

 みんなで輪になって体を寄せ合うと、その中心に炎の霊獣フレイムポックルを召喚します。

 すると暖かくなり、やっと安げる場所となりました。


 「おおー! すごいな、あんた召喚術士か。助かったよ。こっちは炎系の術士がいないんで、こんなときに体を温めることが出来ないんだ」


 「ええ。今夜は体をゆっくり休めて、明日帰りましょう」


 やっと一息つけたかと思いましたが、状況はまたまた悪くなっていきました。

 フレイムポックルに目いっぱい魔力を注ぎ込んで火力を上げているのに、気温がどんどん下がり続けていくのです。

 さらに風も強くなっていき、天幕が吹き飛ばされそうです。


 「おい、もっと精霊獣の火力を上げてくれ! 寒くて寝られん」


 「もう攻撃時くらい火力を上げているんです! この寒波があまりに異常です!」


 「なんだって? たしかにこれは異常だ……ハッ! まさかこれは、あの四十年前のあの大精霊獣が現れたんじゃないだろうな!」


 ゾクリ

 その言葉で、わたし達の心は恐怖におののきました。

 四十年前突如として現れ、当時の強国だったヴォールガング皇国を氷河の下に消滅させた伝説の大精霊獣。

 その名は【ペギラヴァ】。

 そうだ、これほどの冷気を発生させる存在はそれしか考えられません。

 もともと最初の出現時も、なぜそれが現れたのか今だに解明されていないのです。

 いま突如として再出現してもおかしくない、とみなが気づいてしまいました。


 「じ、冗談じゃないぞ! そんなものがこの近くに出たなら、オレたち全員生きて帰れないぞ!」

 「もうダメだ! 急いでこの場を離れるんだ! ここにいたら凍らされるぞ!」

 「待って! 全力でフレイムポックルに熱を上げさせているのにこの程度です! ここから出たら生きていられませんよ!」


 そのとき、ひと際大きな強風が吹きました。

 それはわたし達を覆っているマントの屋根をたやすく吹き飛ばし、はるか彼方へと運び去ってしまいました。

 そして風の吹いた先の向こうに見たのです。

 二本脚で立つ巨大な怪物の影を。

 それは獣の頭部に口元には大きな牙が生え、両腕はコウモリの翼のようになっています。

 あれが伝説の大精霊獣【ペギラヴァ】!

 雪と強風をまともに受ける形となったうえ、その姿を見た冒険者さん達はパニックになってしまいました。


 「うわあああっ、ペギラヴァが来たぞおおおっ!」

 「逃げろ! 出口はこっちだああっ!」


 冒険者さんたちは散らばるように走っていき、強風で紙屑のように飛ばされていきます。

 寒さでも幻覚って見るんですね。

 わたしももうお終いだと悟りました。

 この寒さと風では、どうやっても逃げられません。

 わたしはあまりにフレイムポックルに魔力を与え過ぎたせいか走ることができず、ただフレイムポックルを抱えてうずくまるだけでした。

 たのみの炎の精霊獣を抱えても、容赦なく打ちつける吹雪の前にどんどん体は冷えていきます。


 「ホノウくん……」


 雪原にわたしの師匠のホノウくんの姿が浮かんで、わたしに笑いかけてきました。

 だけど次の瞬間、彼は消えてただそこには雪と大精霊獣の巨大な影があるだけでした。

 ああ、もう一度だけ君にあいたかったな。

 ずっと好きだったんだよ。

 意識は朦朧とし、フレイムポックルのかすかな温かさだけが、最後に感じたすべてでした―――





◇ ◇ ◇


 ふと、人肌のあたたかさで目がさめました。

 見回すと、そこはダンジョンではなく、どこか地上の宿屋のような場所。


 「わたし……助かったの? ペギラヴァのいたあんな場所からどうやって……って、えええっ!?」


 自分の姿を見ると、わたしは裸でベッドの上で毛布にくるまっていました。

 それだけでなくその隣には、見知らぬ黒髪の裸の女の人が!?


 「あ、ユクハちゃん。意識を取り戻したんだね。よかった」


 「あ、あの、わたし、いったいどうしてこんな? その……お姉さんは……」


 「じゃ、目覚めたところでオトそうかな」


 彼女はわたしに覆いかぶさってきました!?

 ままままさか女同士で!? なんでいきなりセ〇クス!?

 お姉さんいったい誰!?


 


 


 

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― 新着の感想 ―
[一言] >目覚めたところでオトそう 多分地上に移動して、速やかにオトす作業に入る。サクヤもやるねぇ。
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