43話 凍結の魔王
第三層のモンスターは、コボルトやオークなどの亜人が中心。
そういった存在の話は聞いていたが、この世界で実際に見て戦うのは初体験だった。
もっともダンジョン内のモンスターは、魔石などの魔力によってその姿に造られた幻のようなものなので、実際のそれとは違うらしいけど。
「いよっと! これでお終い。おじさんたち、大丈夫?」
「あ、ああ助かった。お嬢ちゃん、強いねぇ。名前を教えてくれるかい?」
私達はコボルトの群れに襲われている他の冒険者パーティーに遭遇したので、それの助太刀をした。
しかしアーシェラも戦ったのに、私だけ名前を聞かれるとは。
思えば、剣術レベル10に加え剣術スキル30ほどとっている私は、もうとっくに常人の強さではないんだろうな。
「私は【栄光の剣王】のサクヤだよ。こっちはアーシェラで、風を抑えているのはノエル。荷物を持っているのはホノウだ。それにしてもダンジョンのモンスターは仲間が半数以上倒されても戦い続けるんだね。地上のは逃げ出したりするんだけど」
「ああ、ここのモンスターは、ダンジョンに生み出された戦闘幻獣だからな。普段なら、俺達もコボルト相手にここまで苦戦はしないんだが、この異常な風がな……」
「ノエル、もう風を抑えなくていいよ」
「はい。じゃ制御をはずしますね」
ノエルがそう言うと、風が再び「ブワッ」と吹き荒れた。
冒険者のおじさんたちが言うように、今この第三層は何故か常時強風が吹き荒れ続けているのだ。
されどモンスターはそんなことはお構いなしに襲ってくる。
強風の中でする戦闘はあまりに難しいので、戦闘がはじまったらノエルには風を抑えてもらうことにしたのだ。
「やっぱりこの風は異常なの? このダンジョンは初めてなんだけど」
「ああ。この階層には何度も来ているが、こんなのは初めてだ。とにかく俺達はもう戻って、この風のことをギルドに報告するよ」
「じゃあ、このことも言っておいて。風は大気の寒暖差によっておこるんだ。つまりこの先……おそらく下の階層だけど、そこにもの凄い冷気が生まれている。風は地上から下の階層へ吹いていることから、そう考えたんだけど」
「くそっ、いったいその冷気ってのは何なんだ。ここまでの風をおこすものが、このダンジョンに生まれているなんて……いや、もしや四十年前のアレか!? ……まさかな」
え? おじさんたちは何か心当たりがあるの?
それを聞きたかったんだけど、おじさんたちはそそくさと行ってしまった。
まるで怯えて逃げるように見えたのは気のせいか?
「四十年前のアレだと? そんなものがこのダンジョンに出現したら、王都は……いや、この王国は終わりだぞ」
「え? ホノウ、おじさんが言ってたことに心当たりがあるの?」
「四十年前に現れたアレといえば、”魔王”と呼ばれたアレのことに決まっておろう。かつてあったヴォールガング皇国を滅ぼしたという大精霊獣の」
は? なにそれ。
そんなのもヴォールガング皇国とかも、原作に出てきてないけど?
”魔王”といえるのは、魔人王と化したザルバドネグザルのことだし。
「そ、そんなバカな! ヤバイじゃんよ!」
「どどどどうします!? 引き返しますか!?」
ノエルもアーシェラも知っているの?
その魔王ってのを知らないのは私だけかよ。
誰か説明をプリーズ!
ともかく私達は第四層に入る手前まで進み、日も暮れたので、そこでテントを張ってキャンプすることにした。
やはりだが、第四層へ続く階段からはひどい冷気が流れてくる。
そこで召喚士であるホノウは、フレイムポックルという炎の精霊獣をだしてくれた。
それはネズミのような姿だが、背中から常時炎を出していて、近づくとかなり熱い。
「おおー、あったかい。さすが召喚術士さま」
「うむ、炎の精霊獣召喚は俺の得意だからな。攻撃する時には爆発させることもできる。ちょっと魔力を多めに消耗するんでやらないがな」
「第四層では、この子を出し続けてよ。多分、寒さがかなり厳しくなるだろうからね。で、誰か話してほしいんだけどさ。四十年前に出た”魔王”って奴のこと。あ、いや、私もいちおう知ってるけどさ。曖昧な噂ていどだから、ここらで詳しいことを知りたいなって」
うん。まったく知らないことを隠しつつ、その話を聞き出す素晴らしい話術だね。
「じゃあボクから話そうか。それはドルトラル帝国が、当時の強国だったヴォールガング皇国に代わって世界の覇権を握ったきっかけになったことにも関係してるし」
ということで、アーシェラが話してくれたことによると。
この世界は現在ドルトラル帝国が国家間で一強の状態だが、つい四十数年前はヴォールガング皇国という国がドルトラル帝国と覇権を争っていたそうだ。
だがそのヴォールガング皇国は、四十年前のある日、突然消滅してしまう。
のちに”魔王”とも呼ばれる凍結の大精霊獣【ペギラヴァ】の出現によって。
突然にその国に出現した異界の大精霊獣【ペギラヴァ】。
それは虎のような頭部に鋭い大型の牙を生やし、両腕はコウモリの羽となっている二足立ちの魔獣のような姿をしているそうだ。
その恐るべきは、その全身から常時もの凄い冷気を発しており、ヴォールガング皇国をたちまち氷河期に変えてしまったことだ。
もちろんヴォールガング皇国の騎士も魔法師もそれの討伐に挑んだのだが、ヤツの羽から巻き起こす吹雪にみな凍らされ、あえなく皇国は氷河の下に滅んでしまったのだそうだ。
「で、そいつはどうなったの? そんな凄い奴がいたら、人間なんてとっくに滅ぼされていると思うけど」
「その時、そいつを異界へ送り返したのが、若き頃の天才術士ザルバドネグザル様なんだ。それがあの人が、ドルトラル帝国で頭角をあらわすきっかけにもなった事件なんだよ」
ザルバドネグザル……またこの名を聞いたな。
あの人は死んだはずだし、この件に関わっているはずはないけど……何か気になるね。
「なぁ。いちおう聞くんだが、この先も進んでくれるのか? たしかにこの先は危険だ。とても俺の払った四百パルーに見合った仕事じゃない。だが、できるなら一緒に向かってほしい。俺はどうしてもユクハを見捨てるわけにはいかないんだ」
冒険者稼業にはクエスト中に値段に見合った内容でないとわかった場合、キャンセルが発生することがある。
たしかに褒められた行為ではないが、冒険者稼業はこの判断を誤ると、死亡者を出す可能性もあるので仕方がない。
ましてや今回はたった四百パルーの仕事なのに、魔王とも呼ばれた大霊獣に遭遇する可能性があるのだ。
そして私の出した答えは……
「キャンセルなんてしないよ。一緒に第四層へ行こう」
ま、危なくなったらノエルの転移ゲートで地上へ戻ればいいわけだしね。
「い、いいのか!? 本当に!?」
「女の子に冷たい風は毒だからね。寒さで凍えているユクハちゃんは、誰かが温めてあげないと」
「サクヤ、お前ってやつは……よォし、移動中の暖はまかせてくれ! 命燃え尽きるまでフレイムポックルに魔力を注ぎ続けよう!」
「ううっホノウの気持ちに応え、彼女に逢わせるためにあえて危険に飛び込む! サクヤはなんてカッコイイんだ!」
「サクヤ様、素敵!」
みんななにか勘違いしているみたいだね。
その”誰か”とは、なにを隠そうこの私!
いち早くユクハちゃんを見つけ、ホノウを出し抜いてNTRのだ。
もっとも私も鬼ではない。
原作のラムスように、愛し合う二人を引き離すようなことをするつもりはない。
可愛い女の子には裏の恋人がつきもの。
それを、同性の私が担ってやろうというのだ!
優しすぎだな、私って。
イヒヒ……
翌朝。
第四層へ降りた私たちが見たもの。
それは目の前が白で何も見えなくなるほどの猛吹雪であった。
先日、アイデアが出ないで書けないでいるときに、ネットでウルトラQのペギラの画像を見て一目ぼれしてしまいました。そんで、次の敵はこれにしようと。




