40話 ユクハの師匠ホノウ
そのユクハちゃんの師匠の兄ちゃんは、周りが迷惑なくらい大声で受付けの兄ちゃんにがなり立てている。
「だから! 予定ではとっくに戻ってきてるはずなんだ! きっと何かあったに違いない。捜索隊のパーティーを出せ!」
「半日程度の遅れはダンジョンにはよくあることです。もう少し待ってみては?」
「バカめ。きさまはユクハという女を知らん。あいつはキッチリとスケジュール通りに侵攻させる天才なのだ。そいつがガイドをつとめるパーティーが今だ戻ってないということは、ユクハ達は何か帰れない状況に陥っているのだ!」
「では個人的に依頼を出しますか? 緊急用に待機している黒鉄級がいます。お値段はかなりかかりますが依頼なさいますか?」
「わかった、依頼する! いくらだ!」
「800パルーです。お支払いできますか?」
「うぐっ……今出せるのは400パルーしかない。だが! 必ずや後で金は作ってやるから……」
「ああ、そういう金銭トラブルになりそうな斡旋はしてないんです。残念ですが依頼はできません」
「きっさまあああっ!! 金は必ず払うと言っておろうがあああっ。このホノウの決意、見せてくれる…」
ポンッ
熱くなっている兄ちゃんの肩に手を置いた。
これ以上は、ギルドを追い出される光景しか想像できないよ。
「お兄さん、ずいぶん熱くなっているね。冒険者をさがしているなら、私達でよければ話を聞くけど?」
ホノウは、私達三人を一目見ると、小馬鹿にしたように「ニヤリ」と笑った。
ま、私ら女の子三人。ただの仲良しグループなパーティーとでも思われているんだろうね。
「フッ、およびじゃないぜお嬢ちゃんたち。ヒヨコどもの出る幕じゃない。俺が頼みたいのは、中層のモンスターも相手にできる腕利きだ。少なくとも黒鉄級以上でなければ……」
「ハイ、これが私達のギルドカード」
見せるは黄金の輝きをもつギルドカード。
ギルドカードは、つけられている鉱石の名に対応するもので作られているので、それを見ただけでどのランクなのか一目で分かるのだ。
「な、何ィィィィ!!!? 黄金だとォォォォ!!?」
「……本物です。リーレット領の冒険者パーティー【栄光の剣王】。Bランクモンスターの討伐記録もあります」
「さてお話、聞かせてくれますか? 熱いお兄ちゃん」
「フ、フフフ。こんなお嬢ちゃん方が黄金級だと? ふざけるなぁぁ!!」
あーたしかに女の子だけのパーティーが黄金級とか変だよね。
……いや、この人には弱気であたっちゃダメなのだ。
だんだん原作で、この人がどういった人だったのか思い出してきた。
「おいおい、まだお嬢ちゃん扱いかい? 兄ちゃん、アンタの目は本当に開いているのかい?」
「サ、サクヤ様? 何か別の人格になっていません?」
いいんだよノエル。この人はこういうキャラが大好きなんだから。
ほら、目が「ギラリ」と光った。
「よかろう【栄光の剣王】とやら! 俺の話を聞くがいい。そして見せてもらおうか、黄金級の実力とやらを!」
「ええっ!? この人、何でこんなに偉そうなの!?」
これも『こういう人だから』としか言えない。
エロゲ【ラムスクエスト】におけるオレ様王子二号キャラだ。
もっともこの二号、ユクハをめぐる争いで、一号であるラムスに負けてしまうわけだが。
じつは原作のラムスがイマイチ嫌いだったのも、女の子に節操のないエロゲ主人公だったことの他に、このホノウとユクハちゃんに絡むエピソードがあったからなのだ。
出てきた当初は、ユクハちゃんはこのホノウに師事している傍ら、彼にほのかな恋心を抱いていた。
だがラムスはユクハちゃんを気に入ってしまい、鬼畜で卑劣な手段で無理やりユクハちゃんを寝取って、自分の女にしてしまったのだ。
哀れ、ホノウはユクハちゃんに『自分はホノウに愛される資格なんてない』とか言われてフラれて、ゲームからフェードアウト。
こういった鬼畜仕様な主人公がいるのも、エロゲの世界さながらだね。
しかし女としては、やはり主人公のこんな行いは、見ていて楽しいものじゃない。
本当にこっちのラムスは問題多いオレ様野郎なだけだけど、ゲームのラムスは鬼畜で非道で腹の立つ……
…………あ、今彼女を狙っているのは私だから、私が同じことしなきゃなんないの?
このホノウの目を盗んでユクハちゃんをNTR?
「俺の名はホノウ・ラーキス。召喚士だ。昨日弟子のユクハが、とあるパーティーのガイドをしてダンジョンに潜っていったのだが、予定を過ぎても帰ってこない。それを探すために一緒にダンジョンへ潜ってほしい」
「ああ、いいよ。アーシェラもノエルもいいよね?」
「もちろん、行くよ!」
「仕方ないですね。初めてのダンジョンでお仕事は不安ですが、がんばります」
「あーそれでだな。俺がいま出せるのは400パルーだけなのだ。もちろん、こんな金じゃ黄金級を雇うのにぜんぜん足りないのは分かっている。だが、残りの金はあとで必ず払う! どうか、ここはこれで……」
「いいよ。400パルーで引き受けよう」
「なっ!? いいのか!?」
「こっちもフルメンバーじゃないからね。黄金級までの働きは出来ないから、それで引き受けるよ。それより救助クエストとなれば時間との戦いだ。さっそく準備にかかろうよ」
「……そういや、アンタ達の名前を聞いてなかったな。教えてくれるか?」
「私は【栄光の剣王】副リーダーのサクヤ・ノハナ。こっちはアーシェラで、この羊娘はノエルだよ」
「フッ、サクヤか。アンタとは仲良くなれそうだ。いい関係を築けそうだぜ」
そうはならないんだよ。
このクエストでユクハちゃんを見つけたとき。
その時に私達の戦いは始まる。




