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39話 大ダンジョン『奈落の道』

 この王都の郊外には『世界一のダンジョン』とも呼ばれる巨大なダンジョンがある。

 それが通称『奈落の道』だ。

 現在、地下十二層まで踏破されているがまだまだ深く、下に潜るほどモンスターは強くなっていくので、いまだその全貌はうかがい知ることはできないのだ。 


「ううむ、『奈落』か。オレ様も昔、挑戦したことがあったが、第三層までしか行けなかった。だがサクヤと羊娘がいる今なら、誰も見たことのない階層まで行けるかもな。そしたら、さらなる英雄に……」


 妙なこと考えないでラムス。

 私は女の子ハントで忙しいんだ。

 深い穴ぐらにどれだけ潜れたかの記録なんかで、英雄とかなりたくないから。


 今回このダンジョンに潜るのも、じつはユクハちゃんを狙ってのことだ。

 ユクハちゃんは、このダンジョンで師匠や仲間と修行をする傍ら、ダンジョンのガイドをして生計をたてている。

 原作ではそんなユクハちゃんをラムスが雇ってダンジョンに挑んだことが、彼女が仲間になるきっかけだ。


 「ロミアよ、王への報告はお前ひとりでやれ。オレ様は、これからダンジョンで、新たな英雄伝説を創りに……」


 「国王陛下をお待たせするわけにはいかないね。みんな、ラムス様を馬車に押し込んで。そのまま直行するよ」


 「ぬおッ!? なんだ貴様らぁ!!?」


 ロミアちゃんが言った途端、使用人のみなさんはラムスを丁寧に取り押さえた。

 そして喚くラムスを、あっという間に馬車に押し込んでしまった。


 「……お見事。これって、あらかじめ予想してたの?」


 「うん、ラムス様って宮廷大っ嫌いだから、こうなることは予想済み。陛下の前でも礼とかとらない人だから、本当は行かせたくないんだけどね」


 「私が知っているより、はるかに凄いオレ様野郎だったんだね。それでも行かせなきゃいけないの?」


 「まぁ苦労はするけど、何とか乗りきるよ。それとサクヤ様、【奈落の道】は日の光が差さない所まで潜っちゃダメだよ。装備とかナシに行くのは危険だからね」


 「忠告ありがと。それじゃロミア様。王城のお仕事が上手くいくように、おまじない」


 スマホを取り出してロミアちゃんを映す。

 ロミアちゃんの職業『役者』のスキルの中には『演説』があるので、それをレベル5まで上げる。


 「サクヤ様、それなぁに?」


 「だから、おまじないの道具。それじゃあね。交渉が上手くいくように祈っているよ」


 そうして私達はそれぞれに分かれた。

 手配してくれた宿屋に荷物を置いて武器防具とナップザックを持ったなら、目指すは大ダンジョン。



 ◇


王国郊外の一角に唐突に穿たれた巨大な縦孔。

 それが、ゼナス王国名物である巨大ダンジョン【奈落の道】だ。

 その第一層。

 そこの縦孔周縁部は、長い年月のうちに探索しつくされ、無数のベースキャンプが集まって巨大な地下街路と化していた。

 宿屋、露天、商店、遊びどころといった数多くの店が並ぶその様は、正に繁華街といったところ。


 その街路をくぐり抜け、地下迷宮の入り口前のギルドへとたどり着く。

 ここにはダンジョン絡みの様々な依頼を受け付けたり、臨時の仲間の斡旋なんかもしている。

 中へ入ると、やはり冒険者稼業の荒くれ男達の群れ。

 女の子だけのパーティーには、ちょっと気おくれしてしまう光景だ。


 「さて、どうしたもんかね」


 当たり前だけど、ギルド内だけでこれだけ居る人の中からユクハちゃんを探すのは容易ではない。

 十代の女の子だから居たらすぐ分かるだろうけど、いないなぁ。


 「サクヤ様、どうしたんです? キョロキョロ見回して、誰か探しているんですか?」


 「あ、いや別に。ダンジョンに入る前に、誰か案内役になってくれそうな人はいないかと思ってさ」


 原作では、そのガイドこそがユクハちゃん。

 しかし原作通り、可愛い女の子がガイドの売り込みなんてしてないもんだね。


 「たしかに初めてのダンジョンで案内役は必要だろうけどさ。ボク達はお金ないだろ」


 それもあった。

 本当に原作通りにはいかない。


 「そんなボク達がダンジョンに潜るには、どこかのパーティーの護衛でもやるしかないだろうね」


 うーん、たしかにとにかく潜ってみないことには始まらない。

 仮にも私達はパーティーランク第三位の黄金級ゴールドランク冒険者パーティーだし、そうするか。

 ちなみにその上はアダマンタイト級、ミスリル級。

 

 「そうだね。とりあえず護衛の仕事を探そうか」


 というわけで、ギルドカウンターに行ってみた。

 するとそこには、何やら暑苦しそうな兄ちゃんが必死な様子で受付の職員とやり合っているのを見た。

 いやあの男、原作に出ていたぞ。誰だっけ?


 「何でしょう。依頼のトラブルとかでしょうか?」


 「さあね。関係ないし、とにかく依頼表でも見てみようか。……サクヤ?」


 ああ、思い出した。

 彼はユクハちゃんの召喚術の師匠【ホノウ】だ。

 師匠にしては若いが、とある理由でそうなのだ。

…………そうか。考えてみれば、彼のいる所にユクハちゃんはいるんだよね。


 「あんなもん、いつまでも見るもんじゃないだろう。早く依頼表を見に行こう」


 「見る必要はないよアーシェラ。仕事なら、そこにあるじゃない」


 「え? どこに……って、まさかあの人から!?」


 「ちょっと待ってくださいサクヤ様! あれって見るからに厄介事ですよ。せめて、どんな事で揉めているのかを聞いてからでも!」


 「なんか必死な様子だし、放っておけないよ。助けになってあげようよ」


 「なんという正義の心! サクヤがこんなヒーローだったなんて! ううっ、ボクも体中の血液が沸騰しそうに熱くなってきた。ぜひそうしよう!」


 「ああっ、アーシェラさんが変な方向に行きそうになっている!?」


 うん、私もアーシェラがこんなヒーローだったとは初めて知った。

 考えてみれば、その正義の心でエロテクレベル10にすら耐えたんだものね。


 「行けサクヤ! あの人を救うために!」


 アーシェラの熱い激励を受け。

 私は言い争っているホノウの元へ向かうのであった。

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