36話 王都へ出発
魔蜘蛛という魔界のモンスターを倒したおかげで、ようやく王都へ出発できるようになった私達。
城壁の中にいたロミアちゃん達と再会すると、改めてみんなにアーシェラを紹介した。
「……というわけで、新しく【栄光の剣王】に入れることにしたアーシェラです……ええと?」
「よろしく………あははっ、やっぱ視線が痛いね。でも本心から、このサクヤについていきたいと思っているよ」
「はぁ。ま、連日サクヤ様に可愛がっていただけていましたし? 離れられなくなったんだよね? そういう顔してるよ、アーシェラちゃん」
え? そのため息はどういう意味なのロミアちゃん。
アーシェラも顔真っ赤だ。
「ですよね。うー悔しい!」
そんなにくっつかないでノエル。
そんな『自分のもの』アピールしなくても、あなたの優しいご主人様だから。
「まったくサクヤよ。きさま、腕は良いのに女好きが過ぎるぞ。だがあの蜘蛛を両断して倒したことに免じて許す! この件もあわせて王都でウワサを広めれば、ますます英雄の地位は不動のものとなるのだ!」
女に見境ないレズだと思われるのは、すごい不本意だよ。
クエストのせいで、仕方なくやっているのに。
でもラムスのこの逞しさだけが私の救いだな。
いろいろな意味で私のリーダーはラムスしかいない。
「ともかく、あの魔界蜘蛛がいなくなり街道の安全が見通せたので出発ができます。【栄光の剣王】のみなさま、ロミア様の護衛をよろしくお願いいたします」
「はいっ、まかせてください」
レムサスさんの言葉に送り出され、私たち王都訪問団の馬車は出発した。
一度はあきらめた日本帰還だけど、もう一度クエスト達成を目指そう。
そして私をこの世界に送り込んだヤツに会って真意を質してやる!
ところで王都にはターゲットの女の子が三人いるんだけど、気になるのは錬金術師【モミジ・ルルペイア】にからむメガデスの件。
原作では【契約剣メガデス】は彼女のおじいさんが作ったものなのだ。
魔人王ザルバドネグザルを倒すために、その剣を使わせてもらおうとすったもんだした挙句の果て。
メガデスを使わせる代わりに、お目付け役としてモミジがついて来ることになったのだ。
でもメガデスはいま私の手にあるわけだし、あっちのメガデスはどうなっているんだろう?
◇ ◇ ◇
その様子を城壁の上から見下ろす二人の男達がいた。
一人は帝国軍もと元帥ザルバドネグザル、もう一人は元近衛のゼイアードであった。
「フム、なかなか面白い見ものじゃった。ここで【聖者の石】を取り返せなんだのは残念じゃが、まぁよい。魔蜘蛛を一体呼び寄せた甲斐はあったものじゃ」
その言葉通り、一体だけ魔蜘蛛がここに戻ってきたのは、ザルバドネグザルが呼び寄せたからであった。
「ああ。王都へ向かうためにも、サクヤはアレの討伐を命じられる。その戦いで消耗したところを狙うってのが作戦だったがよ。まさかこうまで鮮やかに倒しちまうとはな。本当に人間かよ? サクヤって女」
「人間じゃ。奴とは少しばかり触れたことがあるが、その身から出る気配は人外のものではなかった。まごうことなく人間じゃ」
「だったら何であんな小娘が魔蜘蛛をブッた斬るほど強えんだよ! あの娘の剣術スキルはレベル5や6じゃきかねぇぞ。それほどの修行をした跡もねぇし、剣術スキルだけが異様に伸びているって感じだ」
「さすが戦闘に優れた”狼人”じゃな。核心を突いておる」
「なに?」
「あの娘は剣術スキルを特殊な方法で伸ばしたのじゃろう。修行などではない未知の技術でな」
「なんだと……?」
スキルというものは、その分野における修行なり研鑽なりの結果で伸びていくというのが常識だ。
だが、たしかにあのサクヤという娘の体は、ヤツの剣術スキルに見合った修行をしたようには見えねぇ。
いや、そもそもどれだけの修行をすれば、魔蜘蛛を個人で倒せるだけのスキルレベルを上げられるってんだ?
「…………なぁるほどね。考えてみりゃ、どう考えても修行はねぇわな。信じられねぇが、たしかにそんな方法でもなきゃ説明がつかねぇ。ザルバドネグザル、【聖者の石】とやらの他にその方法も狙うんだろう?」
この仕事、楽しくなってきやがった。
この俺も剣術レベルを上げて強くなってみてえ。
「無論じゃ。ワシの知らぬ未知の技術というものには興味がある。ゼイアード、ここはこれまでじゃ。奴らに先んじて王都へ向かうぞ」
「はぁ? 道中で襲わないのかよ。あちらは貴族の一行。警戒厳重なお屋敷にでも入られたら、手出しできなくなっちまうぜ」
「あれだけの強さを持つ相手をどうにかする手段をここに持ち合わせてはおらん。王都には情報収集や工作のための術具を隠してある場所がいくつかある。作戦はそれを使ってじゃ」
「ごもっとも。それじゃ王都に先に入って、奴らを迎えますか」
ザルバドネグザルとゼイアードもまた、王都へ向かう。
そこに破壊と混乱をもたらすために。
ここまでを第一章としました。
次から第二章の王都編になります。




