32話 女の子ハンター終了のお知らせ
襲撃の日から、私たち【栄光の剣王】は領主館に泊まっている。
付近にいる魔界蜘蛛の動向次第で次の行動が決まるからだ。
しばらく様子見の日が続いたが、五日目の今日、レムサスさんに私とラムスは呼び出された。
そしてまずは心配だった魔界蜘蛛の情報から教えてもらった。
「あの魔界蜘蛛がいなくなっただと? ふうむ、逃げていく帝国軍のヤツラを追って行ったのかな?」
「ええ、近隣には一体も残っておりません。街に襲い掛かってこなかったことは予想外でしたが、ともかく助かりました」
帝国軍も魔獣蜘蛛も付近から消えた。
これで街の危機はとりあえず消えたけど、これからどうするのかな。
「それでレムサスさん。領主家として、これからどうするんです? 街もずっと安心ってわけじゃないんでしょう?」
「その通りです。魔獣蜘蛛も、いつまたやって来るか知れたものじゃありません。それに現在、この街には何かあった場合に防衛できるだけの兵がいないのです」
「で、オレ様達は何をするのだ? オレ様達を呼んだのは、これから何か仕事をさせるためだろう」
「ご賢察その通りです。これからのことですが、ロミア様には王都へのぼってもらい、国王陛下から防衛をできるだけの兵を借り受ける要請をしていただきます。【栄光の剣王】の皆様には、その護衛をしていただきたいのです」
「ふうむ王都か……いや、まぁいいか。オレ様自身がそこに用があるわけでもないしな」
「そしてラムス様。ロミア様をあなたの実家にも紹介していただきたいのです。このような事態になった以上、あなたの実家から援助をお願いすることも考えております」
「ぐわあああッそれが目的か! オレ様にはオレ様の家に用などない! 悪いが、この仕事は……」
「もちろん引き受けます! レムサスさん。先のことで、あなたを騙すようなことをしたお詫びに、どちらもやり遂げてみせます」
王都には、セリア王女とか他のターゲットの女の子もいるんだよ!
この機会にぜひ行かなくては!!
「ははっ……たしかにアレは肝が冷えましたよ。ですが結果として国王陛下への忠誠も示し、帝国軍の侵攻も阻むことが出来ました。ええ、魔界の魔獣が近くにうろつくようになったとはいえ、良かった……と言えなくもない……ですか」
結果として、あまりよろしくない、だよね。
ポジティブシンキングしようとして必死だね。
「ええい、オレ様を無視して勝手に話を進めるな! オレ様はやらんぞ! オレ様は実家なぞ、とうに縁を切っているのだからな! オレ様の伝手で頼み事などできん! そしてそんな魂胆があるなら、仕事なぞ引き受けんぞ!!」
「いえ貴族の血統というものは、そんな簡単なものではないのですよ。ラムス様はやはりあの家のあのお方の息子であらせられる訳でして……」
どこの家のどのお方のお坊ちゃんか知らないけど、厳格な上流家庭から家出したやんちゃ坊主ってところかね。
しかしこのラムスとも、もうつきあいは長い。
こういった彼の扱い方は慣れているのだ、私は。
「ふふふーん、いいのラムス?」
「何がだ!!」
「私たち【栄光の剣王】はゼナス王国にせまっていたドルトラル帝国軍を全滅させちゃったんだよ。こんな英雄的活躍を、ゼナス王国の中心である王都で知らしめないでどうするの?」
「ハッ、たしかに!! あれは過去にないほどの英雄的歴史的活躍! この活躍は、ぜひ王都すべての吟遊詩人にうたわせ、知らしめねば!!」
「それにラムスの実家も、ラムスのこの活躍を聞けば、すごく驚いちゃうだろうなぁ」
「よォし、今すぐ王都へ行くぞ!! ロミアのやつを呼べえい!!」
うんうん、今日もラムスは絶好調で嬉しい。
「は、はぁ。やる気になっていただけたのは嬉しいですが、今ロミア様はちょっと……」
たしかに気にはなっていたけど、ロミアちゃんがここにいない。
いったい、どうしたんだろう。
やっぱり亡くなったお父さんのことで、毎日泣いているのかな。
「ええい王都へは一刻もはやく行かねばならんのだろう! 何をグズっているか知らんが、さっさと呼べい!」
「い、いやしかし、ロミア様は……」
カチャリ
「やだなぁ、ヘンに気をきかせたりなんかしないでよレムサス」
いきなり部屋の中に入ってきたロミアちゃん。
いつも通りの天使みたいな笑顔で可愛い。
見たところ、変わった様子なんてないけど?
「私ならぜんぜん大丈夫。もう前みたいなワガママ言ったりしないよ。帝国軍のヤツラもメチャクチャになったし、私も領主としての務めをはたさないとね」
…………ロミアちゃん?
「なんだ、ロミアは何ともなってないではないか。まったく、訳のわからんもったいぶりをしおって」
あー、ラムスには分からないかな。
けど私には、何となくレムサスさんの懸念が分かってしまった。
ロミアちゃんからは、何故か圧力を感じてしまうのだ。
彼女は真っ直ぐ私の元へ来ると、顔を近づけてニッコリ。
「サクヤ様、またお願いね。今度は王都まで無事に守ってね」
ゾクリッ
その笑顔の裏の感情が見えてしまった。
ロミアちゃん、すごく怒っている?
「う、うん。まかしといて。必ず無事にロミアちゃん……あ、いや、ロミア様を送るから……」
ロミアちゃんは、私の瞳の奥の心をのぞき込むように見つめて笑っている。
本当にマズイ!
よくわからないけど、私はすごくロミアちゃんを怒らせている!!
私の目の前に突きつけられた笑顔から、とんでもない圧を感じる!!!
「そういえばサクヤ様。帝国軍から連れてきたあの子、ずいぶん気に入ったみたいだね」
…………アーシェラちゃんのこと?
「女の子を敵からさらってきて、自分の女にするなんて男の人みたいだね。さすが英雄さんはやる事が違うなぁ」
あー館にも連れて来て、何とかオトそうと毎夜チャレンジしてるからなぁ。
もしかてあの声がうるさかった?
「でもね。私、女の子をそんな風にいじめる人は嫌いなんだ。それだけ」
そう言ってロミアちゃんは私に背中を向けると、さっさと出て行ってしまった。
……ああ、そういうことか。
「おい待てロミア! 王都へ行く話はどうするのだ!!」
ラムスが叫ぶ中、私はさっきロミアちゃんに言われたことを考えていた。
やっぱり、まずいよね。アーシェラちゃんのことは。
ノエルとも何かと気まずい雰囲気になってきちゃったし。
「…………そろそろ潮時かな」
もしかしたら、あきらめる時期にきたのかもしれない。
もしこの先、どうやってもアーシェラちゃんをオトせないなら。
この世界に住み続ける覚悟を決めようかなぁ。
「女の子ハンターもこれまでか」
サヨナラお父さん、お母さん、お兄ちゃん。それに友達みんなとか先生。




