154話 変わる世界
「うおおおおおッ!!」
せまり来る巨腕めがけて最強必殺スキル大切斬を放とうとして、とどまる。
その向こうに、もう片方の手が拳を握り連撃を放たんとするのが見えたのだ。
いけない!
アレに大切斬を使ったら、その次は迎えることが出来ずゲームオーバーだ。
「スキル【竜肢飛び】!」
ズウウウンッ
ズウウウンッ
かわりに大ジャンプスキルを選択して、巨腕の二段攻撃をかい潜る。そしてその腕に飛び乗った。
「ハァハァ。あと、どれだけ死線をくぐれば休めるんだ。だけど……」
このまま弱点の頭まで駆け上ってやる!
最後のダッシュと決めて、巨腕を跳ね跳んで肩を目がけて進んでゆく。
「うおおおおおッ……おおお………ゼイ、ハー、ゼイ、ハー」
だけど、肘までたどり着かないうちに、息切れした。もうすでに体力の限界みたいだ。
「……やっぱりクルよね? こんなノロノロ走りの虫は、ただの的だもんね」
「ヌゥッ」と大きな影がさしたそれは、精霊王の巨大な手の平。もちろん私を、うっとしい蚊のごとくペチャンコにする気満々だ。
「くっ、もう足が役にたたない。覚悟を決めるしかないか」
足を止めてメガデスを構える。こうなったら迎撃しかない。
ブウウウウウウウウンッ
来た! 巨大な張り手が私の頭上に降ってくる。
「くらえっ! スキルだい……」
ズルッ
な、なにィィィィィ!? 足場が動いたせいで、足がすべったァァァァ!!?
「ブウウン」と無情にも頭上に落ちてくる巨大な張り手。
糞ッ、もうイチかバチか飛び降りるしかない――と、思ったときだ。
ズウウウウンッ
その張り手が爆発した。そして舞い降りる六つ首の獣とその背にくっついた女性の姿。
「ユクハちゃん! まだいたの!?」
「上空で待機して様子を見ていたのよ。間に合って良かった。でも、どうして戻ってきたの?」
「また、こっちに厄介小僧が逃げてきてね。とにかく、もう一度アイツを行動不能にしないと逃げるのは難しそうだ。ユクハちゃん、もう一度アイツの頭上へ!」
「――は、無理よ。また風の精霊の支配権を取られちゃったわ。距離をとって降りるしかないわね」
その言葉通り徐々に高度が落ちてゆく。
「しかたないな。ならせめて真琴ちゃんとラムスが逃げる隙を作るか。……おっと」
バシイイイイッ
精霊王は私たち目がけて腕を伸ばしてくる。私はそれをメガデスを回して振り払う。されど高度が落ちるにつれ、ヤツの威力もスピードも上がってきた。
「まずいな。ヤツの腕を振り払うのが難しくなってきた。ユクハちゃん、もっと速く飛べない?」
「風の精霊の加護が足りないわ。今の支配権を維持するので精一杯。こうなったら地上に降りて走った方が速いわ」
「しょうがないな。次の腕を振り払ったら一気に地上に降りて」
私はユクハちゃんの獣部分の背中を後ろ向きに中腰になって立つ。次に精霊王が腕を伸ばしてきたら、最大に破壊するためだ。
ブウウウウンッ
来た! この一撃にすべてを懸ける。
「スキル【大切斬】!!」
バアアアアアアンッ
精霊王の腕破壊成功!
「今だ、ユクハちゃん!」
「ええ!」
「ヒラリ」と地面に着地。あとは魔獣の足を活かして逃げに逃げるだけ。
――と、思ったのだが。
ふいに、いきなり日没が起こったかのように辺りが暗くなった。思わず振り向いてみると――
「え?」
「うそ……」
私もユクハちゃんも頭がまっ白になった。
信じられないものを見てしまったから。
精霊王がその巨体を大きく浮き上がらせて――
ボディプレスをしかけてきたのだ!!!!
「うわああああっ!」
あんなの、どうしようもない。奴の執念勝ちか――
「サクヤさん!」
その呼び声に不振り向くと、真琴ちゃんが駆けてくる!
ええっ!? どうして? 走行バフのせいですごく速いけど、それで私たちを助けるなんて出来っこない!
「今からバフをかけます。これで切り抜けて! 『聞け、戦いの歌を。この音声耳にせば、またたき無敵の勇者とならん。【勇者の凱歌】!!」
その呪文とともに、私たちの体から力がみなぎってくる!
「おおおおっ!?」
「力がわいてくる! これなら何とか出来る!」
「わたしも! 乗ってください。いっしょにやろう!」
私はユクハちゃんの獣部分の背に飛び乗ると、ユクハちゃんは果敢にも迫りくる精霊王の巨体に飛び上がる。
今度こそ最後。これでキメる!
「スキル【大切斬】!」
「【六つ首の魔驚咆哮】!!
ブオオオオオオオオオンッ!!!!!!
私とユクハちゃんの合体技は、竜巻の槍となって精霊王の腹をブチ抜いた。
まさにこれは竜巻大切斬!
下を見ると、精霊王の体は胸に大穴を開けて崩れてゆく。これでやっと……
「うっ!?」
あり得ないものを見た。
精霊王の背にアイツが乗っているのだ。
すっかり忘れていたけど、アイツを追いかけてこの死地に戻ってきたというのに!
「メラ!」
「よう、感謝するぜ。俺だけじゃ、この精霊王をどうにかするなんざ、とても無理なところだった。けど、これだけ弱らせてくれたおかげで、クソ無理な使命を果たせそうだぜ」
マズイ! メラの力じゃ、精霊王の力をとりこむのは無理だったのか。だけど、私たちが弱らせたせいで、それが可能になってしまった! もう、ためらってなんかいられない!
私はユクハちゃんの体を蹴って、メラに急降下をかける。
「メラ! 君を殺す! 絶対阻止してやる!」
「無理だね」
「なんで!? 私ができないと思っている?」
「いいや」
問答にかまわずメラの体を両断。されど、その手ごたえはまるで無かった。
両断されたメラは何事も無かったかのように平然としてる。その断面からは血は一滴も出ていない。
「これは………?」
「もう仕事は終わっているからさ。新世界のはじまりだ」
ゴオオオオウッ
「うわああああっ!」
足元の精霊王の体が急速に巻き上がった。
まるでなにか巨大な力の奔流に呑まれるような、そんな凄まじい感覚を覚える。
私の意識は次第に遠く、かすんでいった――
――「……は、まだ起きないか」
「はい、よく眠っています」
「ええい、叩きおこしてやろうか。アレの説明を早く聞きたい」
「無理はやめてください。あれだけの戦いをしたなんだから、少しは休ませないと」
「あー、けどウチ、ちょっとワクワクしてるわ。アレの探索、はやくしてみたいわ」
「でも、あっちの方角はホノウくんが逃げた先なのよ。心配だわ。見てくる」
「待ちぃや。今のユクハはモンスターなんやで。それも災害級の。一人で行ったら、そこの住民とドンパチはじまるわ」
なんだろう? みんなの声が聞こえる。
そうか、私は気絶しちゃったのか。けっこう無理なバトルを続けてしたせいで、そのまま眠っちゃったんだ。けど、もう起きないと。寝顔見られるのも恥ずかしいし。
「う……みんな」
「サクヤさま!」
「お、起きたか。さっそくだが、アレを見てみろ」
私の側で顔をのぞきこんでいるのはラムスとノエルと真琴ちゃん。そして指さす方にはユクハちゃん、モミジ、ゼイアードがいる。みんな同一方向を深刻そうな顔で見ている。
なにをそんな注目しているのかと、私も見てみると……
「ああっ!? なんでアレがここに?」
「そうだ、オレさまたちが行った、向こうの世界の建物だな」
そう。はるか向こうの彼方には、ビルの摩天楼が連なっている。まるで大都市がそのまま転移してきたかのような光景だ。
真琴ちゃんが小声でこっそり教えてくれた。
「岩長さんが教えてくれました。僕たちの世界とこちら側が繋がってしまったそうです。どうやら、これが魔人王の夢だったようです」
「そんな……これから、どうなっちゃうの?」
「さぁて。こちらの王侯貴族とあっちの政府。どちらも混乱するでしょうね。僕たちもどう動くか、今のうちに考えておかないと」
ああ、もう! どこまでも迷惑なジジイだったな!
夢のために世界を巻き込むんじゃないよ、まったく!
第十章終了です。さすがにちょっと飽きてきたので、しばらく休載します。
新作の『TSラスボス少女』の方を書いていきますので、そちらの方も応援よろしくお願いします。




