151話 魔人王来たる【ラムス視点】
サクヤのもとへ駆けつけんとしていたオレ様たち。しかし途中イヤな予感がして、メラの野郎が居ないことに気がついた。
「止まれ! ヤツが居ない。モミジ、例の部品はあるか?」
「へ? そら、大事なモンやからな。こうしてちゃんと……あ、ない!」
瞬間、背負っていたノエルを放り出し、抜剣してもと来た道を全力で引き返した。
ドドドドドドドドドドッ
「くぉぉぉの嘘つき小僧があああっ! オレ様の怒りを思い知れええええッ!!!」
メラの姿をとらえると、有無をいわさずヤツに振り下ろす。
しかしヤツは間一髪、それをヒラリとかわす。
「おわああああっ!? なんだ、いきなり剣なんて振り回してきやがって。殺す気か?」
「当たり前だ! オレ様をコケにして生きてられると思うな!」
ブン ブン ブブウウウウウウンッ
やがて他のヤツラも、ここに戻ってきた。ノエルはゼイアードの奴が背負っている。
「おお、あの兄ちゃん。器用に避けるもんやな。おっと、それどころやない。やっぱりあの召喚装置、起動しとるな。いつの間にウチから部品すり取ったんや」
そう、装置はやはり起動していた。やはりこの小僧は、油断のならない野郎であったのだ。
「チッ、ラムスの奴。いくら騙されたとはいえ、あそこで引き返すかね。サクヤはどうすんだ」
「そうですよ。サクヤ様の方が重要なのに」
「いや、ラムスはんのターンは間違いやない。あの召喚装置が動いとるならな。早う止めな」
モミジはそそくさと召喚装置に駆け寄る。
「おい待て! やめろ! ……うわっ危ねぇ!」
モミジを止めようとメラは向かいそうになるも、オレ様の振りまわす剣がそれを許さない。
「やめるワケないやろ。ラムスはん。その小僧、そのまま抑えとき」
「抑えるなど、ナマヌルイことはせん。コイツは絶対殺す! 追い詰めて確実に命を奪ってくれる!」
まぁ、こうは言ったが、コイツには吐いてもらわん事が山ほどある。とりあえずはモミジが装置を止めるまではこうして牽制だ。その後は全員でとっつかまえれば良い。
そうこうしてる間にモミジの作業も完了間近。余裕しゃくしゃくで小僧を見ながら終わりを告げる。
「フフン。油断ならん小僧も、こうなればどーにもこうも出来んようやなぁ? じゃ、止めるで。そーれボチッとな♡」
もったいぶったモミジの指がゆっくり停止スイッチに動く。
しかし甘かった。
モミジはそんな芝居がかった真似など、するべきではなかったのだ。
「………しかたねぇ。コイツはくれてやる!」
「なにッ!?」
メラはいきなり自分の左腕を剣の前に差し出した。当然、オレ様の剣はそれを切断。
「くおおッ、痛ェ! だが、くらえッ」
傷口からイキオイよく飛び出す血しぶきをオレ様に向けた。
「ぶわあああッ!?」
血しぶきの目つぶしをまともにくらって、オレ様の足はたたらを踏む。
まさか!? ここまで根性すえた真似をするとは、思ってもみなかった。
「うわわわわっ!?」
メラはさらにそれをモミジに浴びせ、作業を止めさせる。
オレ様にもモミジにも大きな隙が出来ると、メラはフラフラと装置の作業版の前に立ちふさがる。
「糞っ、俺にこんな真似までさせやがって。使徒なんて本当ロクなもんじゃねぇな」
目についた血をゴシゴシぬぐうと、再び剣を構えなおす。もう、悠長なことはしてられないだろう。
「おのれっ、こうなれば、そんなもの、ブチ壊してくれる! 邪魔するなら、今度こそ殺す。その体では、さっきのように避けることも出来まい」
出血の激しさで急速に顔色が土気色になるメラ。へたり込んで地面に尻をつく。
「ああ、本当にそうだ。コイツは急造品でな。リーレットのモンより、かなり質が悪いせいで時間がかかるそうだぜ。ったく、あれを使い物にならなくしてくれたのは、本当に痛かったんだと」
「…………? 貴様、いったい誰にそんな話を聞いた。どうやら一連の黒幕のようだが」
「いいや、ただの下働きさ。本当の黒幕は、ほれ、やっと来た」
「なにッ!?」
「ヤバッ、来おった!」
召喚装置の中央に何者かが現れた。くそっ、どうしてオレ様たちはこの期に及んで動かなかったのだ?
そこにあらわれた魔物。それは人型でありながら人ではない。人の三倍もの背丈を持ち、全身は白銀色。顔にあたる部分は無表情に固定されがら双眸だけがギョロギョロ動いている。しかしながら、その身は全身が大きく傷ついており、一目でひん死とわかる。
「なんだ、なにを呼び出したかと思えば。ボロボロの魔物ではないか。貴様はこんなもののために、そこまでしたのか?」
だがそいつを見た女どもの様子がおかしい。モミジもノエルも「ああ」とか「いやぁ」とか呻き、恐怖にすくんでいる。
「どうした、お前たち。今さらたった一体の手負いの魔物におびえるほど素人でもないだろう」
「わ、わからんわ! けど、アレを見たとたん知らん恐怖が来たんや。いや、ウチん中のなにかが知っている。アイツは…………」
「ま、魔人王です! どうして知っているのか分かりませんが、アレはそうなんです!」
「なんだと!?」
ギョロリと、その眼がオレ様を見据えた。ボロボロのひん死な魔人にもかかわらず、その圧に身がすくんでしまう。
「ラムス………? いや、メガデスがない。別の存在か………」
オレ様のことを知っている? しかし『メガデスがない』とはどういう意味だ。あれはサクヤの愛剣だろう。
だがそいつは、そう言ったきりオレ様のことなどなかったかのように興味をなくした。そして今度は倒れているメラに目を移した。
「わが使徒よ。汝にはまだ役目が残っている。今しばらく生きるがいい」
メラをヒョイとつまみ肩に乗せる。そしてズシンズシンと足音を響かせて、オレ様たちが戻ってきた方向へと歩み進んでゆく。そして深い靄の中へと消えていった。
その間、オレ様たちは動けなかった。貫禄負けだ。奴の異様な圧におされて、何ひとつ出来なかった。
ゼイアードもノエルをおろし剣を抜いたものの、動くことはなかった。それを無念そうに鞘に戻す。
「ちっ、ラムス。お前が正しかったな。まさか魔人王ザルバドネグザルが来るとは。知っていたのか?」
「知らん。しかしヤバそうな感じに突き動かされて、こっちに戻った。結局してやられたがな」
「どうするんや。ウチらには何も出来へんで」
ヤツが来た以上、なにかヤバイ事をするつもりだろう。しかしモミジの言うとおり、オレ様たちにそれを阻止出来るとは思えない。ならば……
「とにかく後をつける。何をしようとしているか知るのは重要だろう」
「それや! ウチも興味がある。ヤツほどの大物が何しようとしてんのや」
「それにアレが向かう先にはサクヤ様がいます。きっと阻止してくれますよ」
それだ。たしかにこうなっては、サクヤに頼るのが一番だろう。アイツを一度倒したサクヤなら、もう一度倒せるはずだ。ヤツはボロボロだしな。
「行くぞ。距離をとって後をつける。見失うな」
さぁて。荒廃したオルバーンに来てみれば、領都のメガブリセントは壊滅。おまけに妙な靄まで発生している。さらには魔人王まで出現ときた。いったいこの先どうなるのやら。




