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150話 精霊王の怒り

 「ひぃやぁああああ! 嫌じゃ嫌じゃああッ!」


 汚ねぇ悲鳴をあげ巨大な手に掴まれてはるか空の上に釣り上げられるユリアーナ。私たちはそれを茫然と見上げたまま。

 我に返ったのは、いまだ耳にあてたままのスマホからお兄ちゃんの声が聞こえた時だ。 


『ちっ、精霊王か。真正の神より格落ちだから出現しただけで死ぬリスクは無い。それでも神に限りなく近い存在だ。さっさと逃げろ。その靄の無い場所ならヤツは存在できない』


 元創造神様のありがたい忠告だ。聞き入れなきゃバチが当たる。本物が物理的に。


 「真琴ちゃん、ユクハちゃんの居る場所で転移ゲートだ。ホノウも急いで」


 「わかりました。急ぎましょう」


 「くっ、だが間に合わん。また来たぞ!」


 ふたたび空から巨大な手が広がって落ちてきて、私たちを掴みとらんとしている。


 「真琴ちゃん、スマホを。お兄ちゃんから忠告があったら教えて。私は迎撃する」


 真琴ちゃんにスマホを投げて渡すと、落ちてくる巨大な手を狙い必殺最強スキルで迎え撃つ。


 「うおおおッ 大切斬!」


 ズガアアアアンッ

 巨大な手はコナゴナに散る。

 しかし精霊王の肉体は妙に手ごたえが薄い。しかも砕けた手は、その場で再生をはじめている。メガデスの魔法破壊能力でも時間稼ぎがせいぜいか。


 「真琴ちゃん、急いで!」


 しかし真琴ちゃんは必死なのに、転移ゲートの構築がうまくいっていない。


 「だ、ダメです! ゲートを構成しようとしても、魔力が靄に吸収されてしまいます。転移ゲートを作れません!」


 「な、なんだって!?」


 ってことは足で逃げなきゃなんないのか? でもユクハちゃんはどうしよう? 


 「うわあああ! こんどは精霊王の足が来たぞ!」


 「なっ!?」


 目の前にあった巨大な柱のような足が空へ持ち上げられ、それを踏み下ろさんと私たちの上で静止している!

 さすがの私も、最強スキルの大切斬を一分以下の間隔でもう一度、なんて出来やしない。

 されど巨大な足は、無慈悲に私たち目がけて踏み下ろされる!

 ダ、ダメだぁ! 踏み潰されたぁぁ!!



 ――ズウウウウウウウウンッ

 巨大な質量が地面を揺らす音が下から聞こえた――

 下?


 「え……空? なにが起こったの?」


 目を開けてあたりを見渡すと、そこは空の上。

 どうやら踏み潰されてはいないようだけど、あの一瞬に何が?

 私を釣り上げているものが何かをよくよく見てみると、それは大きな獣の口!

 さらに隣には真琴ちゃんもホノウも、同様に獣の口に咥えられて空を飛んでいる。


 「え、えええええっ!? ユクハちゃん!」


 「サクヤさん、懐かしいです。こんな姿になってしまいましたけど」


 「ユクハ。おまえ……意識が戻ったのか」


 「たぶんユリアーナ様がいないせいだと思います。あのお方がいると、頭がぼうっとして何も分からなくなってしまって」


 そうか。アイツはそうやってユクハちゃんを操っていたのか。


 「うっ、マズイ! また来た、巨大な手だ! ユクハちゃん、逃げて!」


 グラッ

 しかしユクハちゃんは、とつぜんバランスを崩したように失速して降下しはじめる。


 「いけないっ、風の精霊が言うことをきかなくなったわ。精霊王の令が私より上位なんだ!」


 な、なんだってええええ!!


 ブウウウウウウウウンッ

 さらに無慈悲に巨大な柱のような腕が振り回され、私たちを叩き潰さんとせまり来る。


 「アレは私が迎撃する。ユクハちゃん、離して! その後は着地に全力集中!」


 獣の口が開けられた瞬間、ユクハちゃん下半身の魔獣の体を蹴って跳躍。


 「スキル【大切斬】!」


 ブオオオオオオンッ

 渾身の最大スキルを叩きつけて腕の破壊に成功。無事なユクハちゃんは降下をはじめる。

 だけどまだだ。今度は足で踏み潰そうとするに決まっている。

 そして着地にやっとのユクハちゃんは避けられず、みんな踏み潰されてしまうだろう。


 「そんなこと、させるか! スキル【竜肢飛び】!!」


 砕いた精霊王の腕の密度の濃い部分を見切り、そこを足場にして大ジャンプ。

 怒れる精霊王の顔を見ながらさらに上へ。


 「本当に悪い。私もユクハちゃんも悪いヤツの企みに巻き込まれただけなんだ」


 だけどそんな言葉で私たちを許しはしないだろう。

 だから、あくまで抵抗する。

 精霊の王様相手に、どれだけ不敬だとしても。


 「スキル【稲綱落とし】!」


 ボォシュウウウウウッ

 精霊王の頭上から渾身の唐竹割り。

 不死不滅の存在とはいえ、頭を破壊されれば簡単に復活は出来ないだろうと考えたのだ。


 「うえっ、ユリアーナ?」


 砕いた精霊王の頭部の中に、ユリアーナのなれの果てを見た。

 それはまるでなにかに作り変えられている最中のような、溶けた体をしていた。


 「アンタに罰を与える役目は私じゃないらしい。これでお別れだ」


 「貴様も同様の運命をたどる。やがて陛下が……」


 落下の最中なので、会話は途中で途切れた。

 まだ意識があるらしい。魔人の生命力が、より地獄を味わう形に作用してしまったようだ。

 まぁ気にする余裕はない。私も着地に全神経を使わないとお陀仏だ。


 スタンッ

 着地した場所には真琴ちゃん、ホノウ、そして魔獣になったユクハちゃんが待っていた。

 うーん、さんざん苦労させられた強敵だっただけに、ここまで味方になってくれていると妙な気分だ。


 「ふぅ、とうとう精霊の神様まで斬っちゃった。でも、死んではいないみたいだね」


 いまだ倒れることも塵になって消えることもなくたたずむ精霊王の巨体を見上げてつぶやく。さっきのように恐ろしく動くこともないが。


 「修復中です。再生に全てのリソースをあてているので動けないのでしょう」


 ユクハちゃんの解説で、しばらくは大丈夫だとわかった。ようやく一息つける。


 「ユクハ、久しぶりだな。大変な目にあっていたみたいだな」


 「うん……ホノウくん、また会えてうれしいよ」


 二人の間に感慨深い空気が流れる。ようやく苦労がむくわれた気分だ。

 と、真琴ちゃんがおずおずと言う。


 「えーと、みなさん。悪いんですけど、早く逃げろと怒鳴られて………いえ、思います。精霊王の再生はかなり早いので、逃げ切るためには休んでいる暇なんてない……と思います」


 おっと、お兄ちゃんの忠告だ。たしかにここで油断する奴は愚か者だね。


 「そうだな。また動き出したら、さすがに生きていられる自信はないぜ。ユクハ、とにかくお前の体を戻す方法を考えるのはあとだ」


 「うん、メガブリセントを脱出するには向こうの門から出るのが一番はやいよ」


 そそくさと移動を始めた私たち。しかし数歩進んだところで私は足が止まった。また、あの気配がしたのだ。


 「みんな、止まって! 向こうに新たな魔人の気配がする」


 しかし不思議だ。さっきまで不穏な気配なんか無かったのに、いきなり現れたような感じだ。


 「ユリアーナの仲間か? しかしずいぶん遅れて来たものだな……ユクハ?」


 「あ、ああ……」


 ユクハちゃんの様子がおかしい。ブルブル震えて、恐怖にすくむように頭を抱えている。


 「ユクハちゃん。もしかしてあの新たな魔人のことを知っているの?」


 「あの気配………あのお方に違いありません。私をこんな姿にした、人類最大の恐怖……」


 ――ザルバドネグザル!?


 「………そうか。たしかに、あの気配は感じたことがあるよ。でも、なぜアイツがここに?」


 アイツはリーレット領のララチア山で自分を殺し続けているはず。それがいきなりこにに来るなんておかしい。しかし危機を前に理由なんて考える奴はバカだ。


 「またユクハちゃんを操られたら、今度こそ終わりだ。しかたない。向こうの門を目指すのはあきらめて、別方向から脱出しよう」


 「あの、サクヤさん。岩長さんが話したいことがあると」


 忙しいけど無視するわけにはいかない。ホノウ、ユクハちゃんを先に進ませ、真琴ちゃんの陰に隠れながらお兄ちゃんとスマホで会話する。


 「お兄ちゃん、どうしたの。逃げろって忠告なら、いま実行してる最中だけど」


 「いや、お前は逃げるな。ザルバドネグザルがそこに来たことで、ようやく見えた。奴の目的は精霊王との接触だ」


 ああ、またまた最悪な任務の予感。それを断れば、またまた最悪な未来が待っていると言うんだよね? わかっているよ。パターンだからね。

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― 新着の感想 ―
>またまた最悪な任務の予感。>パターンだからね。  今作はそういう作品だからねぇ。
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