149話 神おろし
ユクハちゃんは、とにかくエロテク全力でエロエロのアヘアヘにしてイカせまくった。
普段は全力にすると女の子が危険なのでおさえて使っているのを、禁を破り全力だ。その威力はスゴイもので、ユクハちゃんは……規約の関係で描写できないのが残念だ。
さて、ユクハちゃんを眠らせることには成功したのだが、まだ終わりじゃない。
いや、新たな問題が生じたと言うべきか。
「消えた……ユリアーナまで。どこへ?」
さっき見たときは、ユリアーナをおさえるよう頼んだはずの真琴ちゃんとホノウがどこかへ消えていた。しかしまた見回してみると、そのユリアーナまでも消えていた。
「やはりユリアーナの奥の手とみるのが妥当かな。そう言えば、ユリアーナは帝国の莫大な財宝をその能力で隠し持っていると聞いたことがある。言っていたのはルルアーバだっけ」
ならば、ユリアーナの能力は予想がつく。よくよく目をこらし、あたりの空間を注意深く見てみる。すると、空間の一部がかすかに歪んでいる場所があった。
「悪いね。その隠れんぼはタネが割れているんだよ。スキル【雷鳥剣】!!」
ズアアアアアッ
雷鳥剣の斬撃は、なにも無いはずの空間を裂いた。そこから金貨銀貨美術品などが一面に零れ落ち、その中に真琴ちゃん、ホノウ、そしてひん死のユリアーナもいた。
「で、出られた! あの空間から!」
「あっ! 魔獣を倒している。さすがサクヤさん!」
「やっぱり二人が急に居なくなったのはユリアーナの仕業だね」
「ああ、面目ない。ユリアーナに相対したと思ったら、いきなり財宝が満載の空間に飛ばされた」
ユリアーナ自身も守りの手段を持っている可能性を考えてなかった。ま、二人が無事だったから良かったけどさ。
「これでオルバーンの事件も解決。あとはユリアーナの処遇を考えるだけだね……うん?」
戦闘が終わり景色を見回す余裕が出てくると、辺りが妙なことになっているのに気がついた。白い靄がやけに立ち込めているのだ。山岳地帯じゃあるまいし、ちょっと異常だ。
「妾の宝物庫が……壊された。ここまでか」
おっと、景色よりユリアーナだ。ここで詰めをあやまるワケにはいかない。
絶望でうなだれているユリアーナを確保だ。
「そうだね。ユリアーナ、お前をここで断罪はしない。だけどユクハちゃんを魔獣に変えた罪。彼女をあやつってオルバーンを破壊した罪。多くの人々の命を奪った罪は、この後受けてもらうよ」
「フ……フフフッ」
笑った? ああ、人は受けきれない負の感情がいっぱいになると、ドーパミンが過剰分泌されて気持ちよくなるっていうアレか。
「せいぜい今は楽しく笑っていなよ。この後のお楽しみのためにさ」
「この後? そんな未来など無い。おしまいなのだよ。妾も汝もそこの二人もな」
「…………? どういう意味?」
「宝物庫は最後の逃げ場じゃった。陛下の計画から逃れるためのな。汝がここまでやると予想できず、切り札をここで使わざるを得なかった。そして破壊された。やはり戦いを甘く見るべきではなかったな」
「よく分からないな。陛下ってのは、ゼナス国王陛下じゃなくてザルバドネグザルのことだよね。その計画って? 私たちがどうしておしまいなんだ」
「剣王、汝が言った妾の罪にひとつだけ冤罪がある。ユクハを魔獣に変えたのは妾ではない。陛下じゃ」
「ザルバドネグザルだって?」
それじゃ、ヤツが私への復讐のためにそんなことを?
「昨晩使者が来て、陛下がユクハを魔獣に変えた目的は復讐ではない別にあることが知れた。妾はその目的を全力で探った。その結果ユクハと剣王は仕掛け、妾は餌とされる事が知れた」
「私も仕掛け? 獲物じゃなくて?」
たしかにユリアーナが餌にされると思ったなら、あのやる気のなさは説明がつく。
だけど私も仕掛けってのは、どういう事だ? 獲物じゃないなら、ヤツの狙いは別にあるってことか?
――「クッ、これは精霊の亡き骸か? しかし拡散もせずたまり続けている。これは……マズイかもしれん」
ホノウが妙なことを言っている。私もなんとなくだが、ヤバイ状況になっているのを感じている。ホノウは何か気がついたのかな?
「ホノウ、精霊の亡き骸って? どこにそんなのが?」
「そこら一面に見えるだろう。この白い靄だ。精霊は死ぬとその身は塵になり大気にとけて消滅する。しかし今現在、塵になったまま漂っているのだ」
何度もユクハちゃんの魔法を斬ったからね。それってつまり、魔法の素である精霊を斬るということ。自分の身を守るための行為だったとはいえ、罪悪感が出てきた………ハッ!
「ユリアーナ! 私とユクハちゃんが『仕掛け』ってのは、もしかしてこの白い靄を作り出すことが目的か? ザルバドネグザルはいったい何をするつもりだ!」
「陛下の恐るべき計画の一端を知っても、使徒たる妾には逆らうことは出来ん。せいぜいが逃げ場を作るだけであった。が、それも――」
ダメだ。すっかり自閉モードになっている。
やけにザルバドネグザルを恐れているけど、いったいヤツは何をしようとしているんだ?
――ブルルルルルルルルゥ
あ、スマホがマナーモードで振動している。お兄ちゃんだ。
私は真琴ちゃんの側に寄ってスマホの通話ボタンを押す。
「もしもし、お兄ちゃん? なに?」
『すぐその場から離れろ。メガブリセントから出るんだ。今その場は大量の精霊の消滅により、神域に近い状態になっている』
「神域? ってなに?」
『神、具体的にはオレらが住んでいる世界より上位の存在が住む場所のことだ! ええい、早く動かんか!』
「で、それがどうしてヤバイの?」
『全部話さんと動けんのか! いつからそんなノロマになった?』
「ユクハちゃんを置いて行けないよ。いざとなったら、真琴ちゃんの転移ゲートがあるし」
『ちっ、手短に話してやる。納得したらすぐ転移ゲートで行けよ。ザルバドネグザルの目的は、まだ分からん。だが、やろうとしていることの一端は見えてきた。ヤツの狙いは【神おろし】だ』
「神おろし? …………ってなに?」
『文字通り神を地上に降ろす儀式だ。似たような事はこっちの世界でもやっているだろう』
「ああ、なんか新興宗教とかでもやっている映像を見た記憶があるよ。いっぱい煙をたてて不気味な音声を当てて神様っぽい演出してた」
『そっち世界の神おろしはそんなインチキの遊びではない。魔法を使用し本物を降臨させることが可能だ。ただし儀式を行った連中はみんな死ぬがな』
「ええ? なんでそんな不毛なことを」
『狂信者とは、いわば対象に恋焦がれた連中だ。神へ命を捧げた愛なのだろうよ』
「はぁ。こじらせ恋に狂った乙女状態か。悲しい性だね」
『ええい、このニブちんが! 今まさに、その禁断の儀式の真っ最中なのだぞ! このままでは、お前たちは儀式に巻き込まれてオシマイなのだ!』
―――!!
ものすごい悪寒がした。その感覚に突き動かされるように、真琴ちゃんを抱えてその場を跳び退った。ついでにホノウも突き飛ばして三人ゴロゴロ転がってその場を離れる。
そして、その直感は正しかったことを知る。
「な、なんだアレ?」
それは巨大な手。
天空から降って来たそれは今まさに私たちの居た場所へと覆いかぶさっていたのだ。
それはむんずと拳になってふたたび天空へと浮き上がる。
ユリアーナはそれに掴まれ、悲痛な叫びとともに天へと吸い込まれていった。
「あ、ああ………まさか、アレは精霊王? あまたの精霊の死に怒り狂っているのか」
見上げれば、天を突くほどの巨大な人型がそびえ立っていた。




