26話 狼人騎士ゼイアード
十数人切り捨てた先には、ザルバドネグザルら将軍らと、それらを護衛するガード達。
それも切り払おうとメガデスをふるったが、その身にまとう鎧は、かなりの業物。
雑にふるった剣では弾かれたてしまった。
「我らは帝国中枢を守護する【皇国守護壁騎士】! その名にかけてここは通さん!」
「スキル【強震撃】!」
一発の威力を三倍増させる剣術スキルを発動!
バキィッ グシャアッ ドゴンッ
「げっ! これで断ち切れないって、この鎧どんだけ?」
もっとも鎧はひしゃげ、中の内臓を潰して倒したので問題はないわけだが。
しかし、それを見た将軍さん達は驚愕に目を見開いている。
「バ、バカな……最高硬度をほこるアダマンタイトの鎧を破壊するだなんて!」
「あの女の剣、ただの鉄塊じゃないぞ!」
ああ、ファンタジーで最高に硬いというアダマンタイト製だったのか。
どうりで硬いと思った。
おっと、襲撃者が足を止めたらただの的だ。
帝国軍にこれ以上の戦争が出来ないよう、ついでに将軍たちも葬っていく。
「ぎゃあああっ」「ぐばあっ」「げひいっ」
すっかりこんな凄惨な荒事に慣れてしまったね。
日本に帰っても、ただの学生に戻れるかどうか。
だけど今は生きる術を血風で切り開いていくしかない。
ザバアッ ザクウウッ ドガアッ
護衛も将軍もあらかた葬ったあとは、一番の目標のザルバドネグザルのみ。
「これで最後だ! 覚悟!」
―――「やらせねえよ!」
ふいに横合いから、鋭い一撃がきた!
何とか防いでみたものの、思わず足を止めてしまうほどの威力だった。
「お前は……!」
それは、先ほど私を『虎ゴーン臭い』と言った近衛騎士。
だが驚いたことに、兜をはずしたその頭には獣の耳があり、鎧のアンダーガードを外したその腰には獣の尻尾が生えていた。
「あなた、獣人だったの」
「剣奴上がりの近衛騎士、狼人の【ゼイアード】だ。耳と尻尾を出した俺に勝った奴はいねぇ。剣豪サクヤ、やらかしてくれた礼は高くつくぜ!」
「やってみなよ! 狼なんて、あきるほど狩ってきたよ!」
「獣といっしょにすンなよ。獣人にゃ、考える頭も鍛えた技もあるんだからなぁ!」
ザルバドネグザルはその隙にと、新にきた護衛に率いられ逃げ始める。
それを追おうとするも、ゼイアードが立ちふさがる。
「くっ、どきなさい!」
相手を手練れと見て、私は持ちうる限るの剣術スキルをたたきこむ。
二段切り、三段切り、強震撃、雷鳥剣、痺れ切り……
「おおっすげえ技!? ちっ、こちらから攻めるのは無理か」
このゼイアードという男、手練れだ!
メガデスの破壊力と私のスキルを、高い身体能力と戦闘センスで見事捌いている!
「ハッ、速しすげぇパワーだ。だが、その細っこい体が弱点だ!」
ドガアッ
「ぐふッ」
ゼイアードは剣撃の合間をくぐって、私の腹を蹴り飛ばす。
ふっ飛ばされた私は、腹の痛みに思わず片膝をつく。
レベル3のプロテクションでも響くほどの激しい蹴り!
そこにすかさず、二人の護衛騎士が斬りかかってくる気配がした。
その位置を【気配察知】で確認。
ザシュウッ バシュウッ
「ぎゃっ!?」「あぐッ!?」
気配のままに剣を躍らせると、手ごたえの後に「ドサリッ」と倒れる音がした。
そんな私をゼイアードは感心したように見ていた。
「相手も見ずに二人を瞬殺か……強いな。だが、妙だな」
「何が?」
腹の痛みがおさまるまでの時間稼ぎにと、聞き返す。
あー痛い。ナデナデ。
「お前からは強者特有の”威圧”や”凄み”ってモンが感じられねぇんだよ。気配はまるでただの小娘だ。それほどの腕を持ちながら、なぜそんなに薄っぺらい?」
「……薄っぺらくなんかない」
たしかに私は、いつの間にか誰かに最強の剣メガデスを与えられ、謎のスキルまみれで強くなったチート剣士。
だから私自身は『薄っぺらい』と言われても仕方がない。
でもお前達の侵略で、犠牲になった人達の怒りや悲しみ。
そしてロミアちゃんの、すべてを捨てて復讐に立った思い。
それだけは、決して薄っぺらくなんかない!
だけどゼイアードは、私の言葉を何か勘違いしたのか「ニヤリ」と嗤う。
剣を肩に乗せ、片手で「クイックイッ」と手招き。
「ならそれを見せてくれよ。ホラ、かかってきな」
ことば戦ってやつだね。
安い挑発で自分を攻めさせて、ザルバドネグザルを逃がそうって魂胆か。
「あんたの方が薄っぺらいよ。そんな挑発にのるか! 【竜肢飛び】!!」
片足にスキルを発動。
大きく踏み込んでジャンプ!!
「なにっ飛んだ!?」
ゼイアードを飛び越え、高く高く飛ぶ。
【竜肢飛び】は、ただ高く飛ぶだけのスキルじゃない。
もう一つの必殺のスキルを放つための前準備だ。
「逃がさないよラスボス!」
護衛に守られ、逃げ行くザルバドネグザルが下に見える。
そこを目がけ急降下。
「くらいなさい! スキル【稲綱おとし】!!!」
振り向くザルバドネグザルの目は、驚愕に大きく見開く。
とっさに魔法のシールドのようなものを放った。
でも無駄!
【契約剣メガデス】
それはただ物理的な破壊だけでなく、魔法さえも切り裂くからこその最強剣。
バシュウッ
「うおおおおおッ!?」
魔法シールドの破れる音と同時。
ザルバドネグザルの肩にメガデスの刃は落雷のごとく落ちた。
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