148話 謎の魔導器は起動する【ラムス視点】
ゼイアードは胡散臭そうに装置を見てため息をつく。
「やっかいなオモチャ見つけちまったな。そこの錬金娘が好きそうだ」
「安心してええで。コレはもうイジリ倒しとるから、そこまで惹かれんよ。ただ、どうしてコレがここにあるかが気になるわ」
そうだ。たしかにコイツはモミジのオモチャになっていて、使用方法も機能もすべて解析済みなのだ。
これは召喚装置。転移装置としても使えるが主目的はそれ。召喚陣を錬金技術でより強化し、人間では不可能なはずの強力な存在でも召喚可能にするというヤバイ魔導器だ。
「だが謎解きをする暇はない。サクヤはどうなったかの方が問題だ」
「けど、コレが起動しとるのは問題や。ちょいと待っとき。ウチが――」
――「サクヤさんなら勝ったぜ」
ふいにオレ様たち以外の声が後ろから来た。振り向いてみると、金髪おかっぱのガキ。しかしその服装は向こう異世界のものであった。
「おまえ………メラとかいうガキか? どうしてこっちに居る」
「サクヤさんが活躍している異世界ってのを一度見てみたくてね。転移の最中、お邪魔させてもらった」
だけど背中のノエルにはコイツが誰なのかなど、どうでも良いらしい。
「そ、それより本当ですか! サクヤ様が勝ったって」
「ああ。ま、勝ったことは勝ったがな。ちょいと困ったことになって途方に暮れている。行って助けてやった方がいいぜ。場所は領主館前だ」
「ご親切にどうも。ラムスさん、急ぎましょう!」
「うむ、さすがサクヤだな。急ぐぞ!」
「はいな!」「よっしゃ、やっと本来の目的だな」
皆が踵を返し、領主館に向かっていっせいに駆けていく――
ピタリ
「む?」
しかし、オレ様の踏み出そうとした足が止まった。
オレ様の意思ではない。が、オレ様の中のなにかが足を止めた。
「あれ? ラムスさん?」
「おい、どうした。急ぐんじゃなかったのか」
「そやで。サクヤはんが助けを欲しがっているなら、急いで行ってやらんと」
「いや……何かがおかしい」
足が止まった理由をよくよく考えてみる。
そう言えばこのメラってガキ、たしか敵側じゃなかったか?
なのにこの親切はおかしい。
そう言えばヤツがオレ様たちに声をかけてきたタイミングは――
「フ……フフッ。メラよ」
「あん? 俺? 俺がどうかしたか」
「やけに親切ではないか。向こうの世界では、お前と敵対してたオレ様たち相手になぁ?」
「あ? まぁ、そんなこともあったか。けど俺はそういう恨みとかは無縁な性質でな。別に気にしちゃいねぇよ。親切もただの気まぐれ。気にさわったのなら無視してくれていいぜ」
「そんなレベルの話をしているのではない! さっきの親切めいた忠告が嘘か本当かなども、どうでもいい。キサマの親切には明らかに目的がある」
「なんのことやら」
「キサマ、オレ様たちがこの魔導機に触れられるのを嫌ったな? オレ様たちをこの場から離すために、あんな話をしたのだ」
「そういや妙な機械があんな? この世界にこんな大がかりな機械があるなんざ驚きだぜ。名探偵めいた推理してるとこ悪いがよ、偶然だぜ」
「トボけおって」
「ったく気分悪りぃ。俺はもう行くぜ。ったく慣れないことするもんじゃねぇな」
ぶっきらぼうに言い捨ててその場を立ち去ろうとするメラ。しかしここで逃がすほど甘くない。
「待てい! もしキサマがこのまま去るというなら、オレ様はここを徹底的に破壊する」
「ええっ!? ラムスはん、それはさすがに。何者が何のためにコレを作ったのか調べんと」
モミジは止めるが、そんなことは知ったことではない。どうせ謎解きをする時間など無いのだ。ハッタリだが、アイツがあくまでトボけるなら本気に変えるくらいの考えはある。
「勝手にしろよ。俺とこことは無関係だ。好きにしな」
「本当に良いのだな? では………」
剣を振り下ろそうとした時、メラはクルリと向きをかえてオレ様の前に来た。
「――ふう、仕方ねぇな。んじゃ俺もアンタらと同行するぜ。別にここがどうなろうと知ったこっちゃねぇがよ。妙な疑いをかけられたままじゃ、気分悪りぃや」
「チッ、あくまでとぼけおって。だが、とりあえずはそれで良いか。おい、モミジ。ここの魔導器を止めろ。そして簡単には動かないよう細工しておくのだ」
「――ハッ! たしかに、ここのヤバげな魔導器動かしたままなんて、あり得んわ。どうして放って行こうとしたんやろ?」
たしかにこの装置の危険性をよく知るモミジが、コイツのことを忘れて行こうとしたのは引っかかる。このガキは舐めないでよくよく注意しておいた方が良さそうだな。
「ほい、終わったで」
作業を終えたモミジは戻ってきて、手のひらにある小さなピカピカ光る石のようなものを見せた。
「この部品が無ければコイツは動かせん。これで何かを召喚される心配はないで」
「よし、では行くか。とんだ時間を食ったが、さっさとサクヤに………」
ゴオォォォォウゥッ
ふいにオレ様たちが向かおうとした方向から巨大な圧力がきた。
まるで何かが爆発したようにも思えるが、そこからは白い靄がかかったように見通しが悪くなっている。
「な、なんだ? サクヤが勝ったんじゃなかったのか?」
全員が一斉にメラを睨みつける。
「俺にもわからねぇよ。俺はたしかにサクヤさんが大魔獣を制圧してユリアーナに致命傷を負わせたのを見た。だがよ。ユリアーナが奥の手でも隠し持っていたってんなら、俺が知るよしもねぇ」
「糞っ、とにかく行くぞ! ノエル、転移ゲートはいつでも出せるようにしておけ」
「はいッ! 急いでサクヤ様の元へ行ってください」
「チッ、まだクエスト完了には、ほど遠いようだな」
「ユクハも待っとれよ。ウチが必ず助けたる!」
今度こそ全員が全力疾走。
待ってろよサクヤ。今行ってやるからな!
ドドドドドドドドド………
「――やはり俺は動けない、か。特大級の”話題”が来てくれたおかげで助かっちまった。ルルアーバ、あくまで俺に使命を果たせと言うんだな?」
ただ一人その場に残ったメラはつぶやいた。そして自分の手のひらを見つめる。モミジが装置から抜き出したはずの光る石が、そこにあった。
「まったく、いつの間にどうやって。俺がやったはずなのに、自分でも分からねぇ。しかたねぇ。ロクなことにならねぇのは分かっているが、使命を果たすとするか」
メラは装置の制御盤にまわり、そこを開けて石を戻す。ほどなくして装置は再び電子音をたてて動きはじめた。
「――うん? ああそうか。あのエロゲ主人公、一度はスキル【巧みな話術】を破ったんだったな。だったら俺が居ないことにすぐ気がつくか」
スキル【巧みな話術】
このスキルを発動して会話をすると、相手は話している話題以外のことは考えられなくなってしまう。肯定否定は自由であるため見破るのは困難。有効時間は相手の話題への興味度合いによる。
「さぁて魔人王様の最期の賭。成せるか、それとも邪魔されて失敗に終わるか。どちらにしろ俺が手を貸せるのはここまでだぜ。ルルアーバ」
白い靄が深まるにつれ電子音は早くなり、装置は静かに次々起動。中央の魔方陣は妖しく光りはじめるのだった。




