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147話 ラムスのオルバーン探訪【ラムス視点】

 「うーわ、なんだこりゃ。オルバーンはずいぶん帰ってなかったが、まさかここまでブッ壊れていようとは」


 オレ様は焼け野原になった広大な農地を見渡して思わずつぶやいた。懐かしくもない故郷の光景は、とにかくヒドイものだった。


 「せやな。これもサクヤはんの言っていた災害級モンスターの仕業なんやろか。恐ろしいやっちゃな」


 隣でモミジも目を丸くしている。王国でも屈指の肥沃な土地と名高いオルバーン領がこの有り様だからな。そりゃ驚くわ。


 「ふへ? サクヤ様、いたんですか?」


 オレ様の背中で寝ていたはずのノエルも声を出す。サクヤの名前に反応したかな。


 「まだだ。見つけたら教えてやるから、まだ寝ていろ。帰りも世話になるのだからな」


 「ふぁい。グー」


 リーレットからこのオルバーンまで転移ゲートを連続して使用したため、ノエルはすっかり魔力欠乏症だ。オレ様の背中で寝かせて少しでも回復をはかっている。


 「とにかくメガブリセントへ行ってみるか。サクヤはその周辺の難民キャンプに居るとあったからな。アイツに会って、これを引き起こした原因を聞くとしよう」


 「はいな。ラムスはん、案内よろしく。王都をもしのぐ大都会と言われるメガブリセントか。この目で見れるのは楽しみやわ」


 だがメガブリセントは別の意味で楽しみ満載な場所になっていた。

 オレ様たちがメガブリセントの大きな街壁を見通せる高台まで来てみたものは恐るべきものだったのだ。


 「うわあああああっ! なんやアレ! あの街にだけ災害が集中して起こってるわ!」


 メガブリセントの街壁の中に雷は絶え間なく降り注ぎ、炎は強風に乗って荒れ狂い、地鳴りは絶え間なく鳴り響き、間欠泉は吹きあがる。さながら災害のオンパレードだ。


 「”災害を引き起こすモンスター”か。まさかこれほどのバケモノとはな。それで、そのサクヤはどこだ」


 ――「戦っているよ、あそこでな。あの災害の嵐がそれだ」


 ふいに後ろから聞いたことのある声がした。その声の方を向くと、そこには見知った狼獣人だ。


 「お、お前ゼイアードではないか。こんなところで何している。いやお前のことなんて、どうでもいいか」


 「ラムス。それにそっちに居るのはモミジ。背中のはノエルだったな。アルザベール城からの一別以来か。サクヤがリーレットに鳥を飛ばしたって話は聞いたが、よくこんな短時間でオルバーンに来れたな。っと、羊娘を背負っているのはそれが理由か」


 「そうだ、転移ゲートを連続で使い繋いで来た。それより説明しろ。どうしてオルバーンがこんなに荒れている。それにサクヤがあそこで戦っていると言ったな。随行しているオルバーンの兵力はどの程度なんだ?」


 「兵なんざいねぇよ。マコトってアイツの連れと、オルバーン家の従家魔法師がついてっただけだ。荒れている理由はもちろん、たった一体の災害級モンスターのためだ。そいつにほぼ無策でやり合うってんだから、狂気の極みだ」


 「マコトはんがいるんかい。やっぱりサクヤはんが急に消えた理由は……そういう事やな」


 サクヤは、また向こうの世界に呼び戻されたのか。向こうの世界も魔族の跳梁が激しいからな。


 「しかしサクヤとはいえ、かなり無茶なことをしたな。いったいどうしてロクな準備も兵もナシにそんなヤバイ奴に挑んでいるのだ」


 「聞かせてやる。ま、ざっとこれまでの経緯を話すとだな――」


 ゼイアードが語った内容はすさまじいものだった。ヤバイ情報が満載すぎる。


 「なんやて! ユクハが………その魔獣? 大魔獣に変えられているやて!?」


 「それにユリアーナがそれの黒幕か。まさか、ここにアイツがいるとはな」


 と、背中のノエルがうめくような声をあげて目を覚ました。


 「ううっ………あそこには……とんでもない数の精霊が集っています。あのままでは………空間が裂けてしまう」


 「空間が裂ける? どういった状況だ、それは」


 「要は激ヤバになるって事や。ウチもなんとなく分かる。あのメガブリセントの中が、とんでもない異空間になってるってな」


 「チッ、だがそこにサクヤはいるんだぞ。どうするんだ」


 「いや待て。嵐が…………やんだ?」


 突然、地鳴りも雷も炎の渦もピタリと止んだ。さっきまでの轟音が嘘のようにメガブリセントは静寂に包まれている。


 「………勝負はついたらしいな。果たして、どちらが勝者となっているやら」


 「――行くか。オレ様たちはサクヤを連れ帰りに来たのだ」


 「ユリアーナが勝っていたらどうする? 魔獣のユクハは本気でヤバイ。逃げらんねぇぞ」


 オレ様は背中のノエルをゆする。


 「ノエル、転移ゲートは使用できるな? 向こうで危うい目にあったら、すぐ展開するのだ」


 「はい………サクヤ様は無事でしょうか。あの空間の中で生きていられるのか」


 「ユクハのことも心配や。サクヤはんが助けていたらええんやけど」


 ともかく嵐がやんだのなら、そこを見なければ始まらん。オレ様たちはメガブリセントを目指して歩きはじめた。

 途中、人はいないが、やけに生活臭のある集落らしきものをいくつも見た。メガブリセントを目指してきたが、街に入れなかった連中のキャンプ地跡だ。

 そこを越えて街門をくぐり、いよいよメガブリセント内に足を踏み入れる。


 「中は外以上にひでぇ。これじゃ貴族筆頭も見る影もねぇな」


 壮麗だった街並みは見渡す限る崩れ燃え落ちていた。親父の貴族趣味が煮詰まったようなその街は大っ嫌いだったが、こうも崩壊した様を見せつけられると妙に腹立たしい。


 「さて、どこへ行くか。メガブリセントは広いからな。どこで戦っていたのやら」


 「街の中心近くです。精霊の気配が多く集まっている方向を追えばいいですから、私には分かります」


 「おっ、頼むでノエルはん。それじゃ急ぐとしようや」


 だが、しばらく歩き進んだ頃だ。オレ様たちは妙な音に足を止めた。

 それは「ピピッ……ピピッ………」といった規則正しいカン高い妙な音だった。


 「なんだこの音は。まぁ、正体をつきとめている暇はないか。先を急ぐぞ」


 「いや、そうもいかん。どうしてこの音がここに……これは電子音やないか!」


 モミジの叫びで、ようやく思い出した。そう言えば、向こうの世界で似たような音を聞いたな。機械から出る音だったか。


 「さすがにコレは放っておけん。ラムスはん、悪いが寄り道させぇや」


 「仕方ないか。オレ様も気になるし、音の正体を見るくらいはいいだろう。だが見るだけだぞ。キサマがそれをいじると言うなら、オレ様たちは先を進むからな?」


 「わぁっとるわ。一番大事はサクヤはんとユクハや。そこんところ忘れたりはせぇへんよ」


 「チッ、俺もつき合うしかねぇか。ったく音がなんなんだよ」


 音の出どころを追っていくと、そこは一般家庭の住居の家。いや、そう偽装してあったであろう家の中であった。屋根が吹き飛ばされ壁が半壊し、中身がむき出しに露出したことで、中のモノの音が漏れ聞こえてきたのだ。


 「なんやて!? なんでコイツがここに」


 「おっ、これは山賊どものアジトにあったヤツではないか。こんな所にもあったのか」


 それはクード・ガジェル山賊団アジトのウドバルト砦地下にあった巨大な魔導具(アーティファクト)であった。中央に描かれた魔方陣を囲うように大きな機械が据え置かれた謎のシステムである。

 

 「この音………たぶん起動しとる。いったい何が起きるんや?」

 

 


 

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― 新着の感想 ―
この魔導具、クード・ガジェル山賊団のアジト地下にあった物も含め、一体何者が何故設置したのか。そろそろ解明しなきゃね。
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