146話 吼えろエロテク
ユクハちゃんとぶつかり合う前に「チラリ」と真琴ちゃんとホノウを見る。
二人は心得たようにうなずく。私がユクハちゃんと戦っている間、二人はユリアーナに向かう手筈だ。
ならば後顧の憂いはなし。ただ彼女一人を見据えて突き進む!
「うおおおおおッ!!」
駆ける。駆ける。駆け抜ける。
私がユクハちゃんに向かうと、たちまち巻き起こる雷、炎、突風の魔法の集中。
だけど私も対魔法戦特化のスキルを覚えてきた!
「スキル【聖光魔黒分断覇】!!」
魔法消滅特化スキルに加え、真琴ちゃんにはメガデスにたっぷり加護を入れてもらった。これでどんな強力な魔法であろうと、食い破って突き進んでいける。
立ちふさがる炎の壁を切り裂く。からみつく風も霧散させる。水の竜も片っ端から叩き落す。地面から突きだす岩の剣も壁も砕いて進む。
――!?
ユクハちゃんに一間の間合いまで接近した時だ。ふいに剣先を逸らされる感触がした。
そうか【ソードバリア】だ。ついにそれを自身の防御に使いはじめたか。
「いいよ。私もそれを待っていた。まずは威力偵察といこうか。スキル【雷鳥剣】!」
威力より手数。無数の剣撃を飛ばして、その性能をはかってみる。
私の飛ばした剣撃はあますことなく流され逸らされ一つもユクハちゃんの体には届いていかない。
すごいな。私全力の速攻でも確実に流していく。
おそらくは相当剣に精通した達人の精霊。
ピタリ
雷鳥剣の速攻を止めて構えを変える。
「だいたい分かった。それじゃ本命といこう」
ヒュンヒュンヒュン…………
足を止め、静かに頭上で剣を回す。私最大の剣撃を放つための下準備だ。
「グオオオオオオンッ」
ユクハちゃんは足を止めた私が攻めあぐねたと視て、全力全開の魔法攻撃をみまってくる。
最大級の雷が降り注ぎ、高熱の炎の柱が立ち、地面は崩れ落ちるからは岩の槍が無数に突き上がる。
私はジャンプをして地面の槍から逃れる。しかしそれは私の動きを空中で止めるための補助的な役割。本命の雷と炎の柱が私を襲う。
されど私には敵のエネルギー系の技を自分の刃に変えることの出来る理不尽すぎるスキルがある。あるのだ!
「はアアアアッ、スキル【雷炎大切斬】!!!」
その魔法の威力すべてを刃に変え、ユクハちゃんに逆に返す。
あまりに強大なエネルギーの雷と炎のは刃が魔獣女帝に向かう。
バシュンッ
されどその超絶魔力の刃さえ、ソードバリアは流し逸らしてしまった。私は返された刃の行方を静かに目で追う。
「…………予定通り。ユリアーナ、借りは返させてもらったよ」
「かはっ! バ、バカな………どうして妾が?」
そこには、大きな傷を負いひん死となったユリアーナがいた。
対剣術絶対防御のソードバリアをユクハちゃん自身の防御に使わせ、その反射を利用してユリアーナを狙う。もちろん、その前の雷鳥剣は、反射する方向や角度を見切るためのものだ。策が上手くハマった。
「さすが魔人。あれだけの刃でも、反射で威力が落ちたモノじゃ絶命まではいかなかったか。でも、やっぱり戦いをナメすぎたね」
前のユリアーナなら、ここまで来る間にもっと苦労させられていたと思うんだよね。何に気をとられて、こんなやる気のない状態なのやら。
「まさか………絶対の防壁ソードバリアを利用して妾を狙うとは。まさに剣王」
そして絶対の護衛対象だったユリアーナを傷つけられたことで、ユクハちゃんも混乱して動きが止まった。まさに王手飛車取り! おっと、まだ将棋が頭から抜けないや。
あとはユリアーナは真琴ちゃんとホノウにまかせて――
「…………あれ?」
しかし私は奇妙な光景を目にした。
傷を負ってうめくユリアーナの側に真琴ちゃんとホノウがいないのだ。ぐるり周囲を見回しても、どこにも居ない。二人はどうしたんだ?
しかし大きな咆哮をたてるユクハちゃんに我に返る。
「…………ここで詰めを誤るワケにはいかない。ユクハちゃんを取り戻すには、ここが最後のチャンス」
絶対守護を厳命されてたユリアーナを負傷させられてユクハちゃんは大きく動揺をしている。懐に飛び込む隙は今しかない。
「今行くよ、ユクハちゃん」
私は踵を返して、全力でユクハちゃんの元へ駆けだした。
迎撃の魔法は来ない。どうやら相当動揺は深いみたいだ。
メガデスを背中の鞘におさめ、犬の頭を踏み越えて、ユクハちゃんの体へと取りついた。
やっと、ここへたどり着いた。
「ユクハちゃん………」
久しぶりの彼女の体は、私の記憶にあるそのままだ。
されど彼女の心は魔獣の気配に支配され深く沈んだまま。彼女の気配を読むことでそれを理解した。
「ウオオオオオオオアアアアッ!!」
「っと、感傷にひたっている暇はないか。このケダモノめ。ユクハちゃんの心は返してもらうよ」
シュルン
彼女の体にエロテク特有の指を這わせると「ビクッ」と反応した。
よしっ、イケる。
「あたたたたーーッ ほあたあッ」
「アアーーッ」
ビクンッビクンッと脈打つ彼女の体から、魔獣の咆哮でない、彼女本来の声が出た。顔も心なしか昔の彼女の表情になっていくような気がする。
「なつかしいな。やっと君に逢えた」
君を求めさまよった心が、今やっと終着点にたどり着いた。
そんな気持ちが湧いてくる。
ユクハちゃん。私、男の人を好きになったよ。
そのことを伝えたい。ずっと、いつまでも話したい。
――だから行くよ。君を迎えに。
君を何度も抱いたこの腕が、指が。
君を求め焦がれ、情熱の咆哮をあげている。今こそ――
「吼えろエロテク! 愛を叫ぶ獣のごとく――!!」




