143話 ゼイアード爆裂!! 眠れ友よ
「おいっ! その戯言、本気か!?」
私の宣言に食ってかかるゼイアード。
「もちろん。私はユクハちゃんを助け出す」
「ふざけんじゃねぇ! あの最強モンスターを殺さずに制圧? 出来っこねぇだろ! そんな無茶につき合う奴なんざいねぇぞ!」
「ああ。たしかにこんな無茶は誰も巻き込めないな。だから私は一人でやる。ま、真琴ちゃんには最後に手伝ってもらうけど」
「ふわっ? ぼくがどうしました?」
近くで寝かせていた真琴ちゃんがムクリ起き上がる。
よし、これで今からユクハちゃんの奪回に行ける。
「寝起きで悪いけど、急いで支度して。詳しい話は歩きながらしよう」
さて、これから最強魔獣になったユクハちゃんとやり合うことをどう説明したものか。勝算というえば、彼女との思い出で考えついたアレだけ。うまく納得させられるかなぁ。
「待てよ」
ゼイアードがユラリと私の前に立った。そしてスラリ剣を抜く。
「だったら俺を殺してから行きな」
つきつける切っ先は殺気をはらみ、目つきは鋭くギラリ私を睨みつける。
真琴ちゃんはそれを見て目をシロクロ。
「え? え? なんでこの人とこんな険悪になっちゃったんです? ぼくが寝ていた間に何が?」
「うん、もうちょっと寝てて」
どうやら、まだゼイアードとの話は終わってないみたいだ。
「その目は本気だね。殺気も痛いくらいだ。本当に、こんな事で死んでもかまわないって言うの?」
「悔しいが、俺らはみんなお前に期待している。あの絶望的な力を持った怪物も、お前ならどうにかしてくれるってな。だから無駄に死なせるワケにはいかねぇんだよ! たとえ命張ってもな!!」
「別に自殺したいワケじゃないよ。でも討伐軍なんかを編成してたら、ユリアーナも自分の兵隊を呼び寄せる。それに政治工作や謀略なんかもしかけてきて、戦乱は何十年にもおよぶだろうね。今しかないんだよ。悲惨な戦乱の時代をくい止められるのは」
「言いわけ並べてるようにしか聞こえねぇな。たった今殺されかけた相手に挑んだところで、勝ち目なんかあンのか? あの娘をバケモノにされた怒りで、早まってるだけじゃねぇのかよ」
うん、たぶん図星。いろいろ理屈を並べても、ゼイアードの指摘が一番近い。
だけど私は世界を救うより、大好きなあの娘を救うために戦いたいんだよ。
「………しょうがない。やろうか」
背中に背負ったメガデスを結わえているバンドを外し、鞘ごとそれを地面に落とした。
ガシャリ音をたてて倒れるメガデスをみんな不思議そうな目で見ている。
「おい、どういうつもりだ? 新しい技か何かか?」
「素手で相手をする。素手で君を殺さず制圧し、そこをどいてもらう」
拳法のようなスタイルで構えをとって宣言。君の試練に私の方が命を賭けよう。
「ナメてんのか? 今の俺に冗談もかけ引きも通用しねーぞ」
「ナメてなんかいないさ。死ぬかもしれないって予感はある。でもね。これが出来なきゃ、とても今のユクハちゃんを殺さず制圧なんて出来やしない。負けたら潔く君につき合うさ」
「フン、その言葉、忘れるな。腕の一本くらいは覚悟しろよ」
そして素手で構える私と剣先をつきつけるゼイアードは対峙する。
ああ、怖いな。剣がないと、戦闘って、こんなに恐いものだったんだ。
でも感謝するよ、ゼイアード。おかげで、いざ本番の時に足がすくんで動けなくなるなんて事態は避けられそうだ。
「んじゃ行くぜ。ハンデ戦だからな。タイミングくらいは教えとかねぇと、恰好つかねぇ」
剣先を斜め下に構えゼイアードが動く。
狼獣人の俊足を生かした強襲スタイルだ。
合わせて私も動く。
剣術スキルなしに彼より先手をとることは不可能だ。
ゆえにスキル【見切り】を極限に研ぎ澄まし、後の先を狙う。
キュピーーン
すれ違い一閃。
勝負は、ただ、その一瞬。
すべての決着はそれでついた。
プシュウッ
「……痛い」
私の肩からイキオイよく血潮が噴き出す。
【見切り】も防具も【プロテクション】も突き破って私に剣を届かせた。
強くなったね、ゼイアード。
「サクヤさん!」
「もうよせ、サクヤ。君の負けだ」
真琴ちゃんとホノウが私に寄ってくる。
「俺のためにそんな無茶をしようとするなら、もういい。アイツも……あんな姿で多くの人を殺したくはないはずだ。だから………アイツを死なせてやってくれ」
「良い傷もらっちゃった。でも、勝ちもいただいた。アイツはすでに制圧されている」
「なに?」
「あれ? ゼイアード、どうしたんだろう」
ゼイアードは中腰の前かがみで股間をおさえている。とても勝負の時にするような態勢ではない。これぞ私の剣術以外のスキルの成果。
「クッ! おいサクヤ! お前、なにをした? おさまんねぇぞ、コレ!」
そう。今ゼイアードの下半身は象さんが大あばれ。
「ええっ? こんな時にビンビンになってるの? 人前でいきなりクルとつらいよね」
「いや、サクヤのしわざか? なにをしたんだ?」
「頬と顎を指先でかすめた。それだけで私は相手の性感を数倍に高めることが出来るんだよ。これぞスキル【エロテク】。これで私に勝算があることに納得してくれたかな?」
「なに? まさか、これで挑むつもりか?」
「そう、その通り!」
ズババンッと胸を反らし指を天に掲げて私は宣言する。
「ユクハちゃんをメロメロのアヘアヘの、ああんダメぇ状態にして制圧する! あの娘のエロ秘孔はすべて熟知している。私がユクハちゃんに触れる間合いまで詰めれば、それで勝ちだ!」
「「「な、なんだってぇえええッ!!!?」」」
みんな感動のあまり声も出せず静まりかえる。
最初に我にかえったのは、股間を押さえているゼイアードだった。
「そ、そんなアホな目論見でアレに挑もうってのか? 上手くいくワケねぇだろ! どう考えても爆死確定だ!!」
「フッ、そんな前かがみで文句言っても説得力ないね。私のエロテクの威力で、君もそのザマだ」
「糞ッ、まだ勝負はついちゃいねぇぞ!!」
ふたたび剣を斜め下に構え、さっきのように突進するゼイアード。
でも、さっきのような殺気も無ければスピードもない。構えも隙だらけだ。
ズボンのふくらみがブルンブルン震えて走りにくそうだし。
――ゼイアード。
さっき死をも覚悟して、私の前に立ちはだかった君はカッコ良かったよ。
こんな終わらせ方が申し訳ないくらいに。
「あたあッ!! 奥義【怒張爆裂破】!!」
いや、こんな奥義ないって。
エロテクの絶妙なタッチで、わがまま象さんの先っちょを軽く撫でただけ。
「は、はわッ!? あびゃああ!!!」
ブショウウウッ
オス臭い液をまき散らしゼイアードは逝った。
眠れ強敵よ。君の屍を越えて私は行く。
熱い心クサリでつないでも今は無駄!
邪魔する奴は指先ひとつでダウン!
ずべて溶かし無残に飛び散る!
あの娘との思い出を守るため旅立ち明日を捨てる。
ほほ笑み忘れた彼女を見たくはない。
ユクハを取り戻せ!!




