129話 壊滅した村
『そうか。メラの野郎には逃げられたか。ああ、追わなくていい。ただし帰ってこられても面倒だ。メラは帰還させずそっちに置いておけ』
「そうする。で、真琴ちゃんはどうする? すぐに戻せる?」
『急な重量変化による不安定化。座標のズレによる安全性喪失。お前らを安定させ安全に到着させるために、かなりのリソースを消耗しちまった。これからの上海作戦が不安になるほどな』
「それは……ご面倒おかけいたしました。つまりすぐには戻せない?」
『そうだ。で、二十日後のことだが、出来るなら転移時はハージマル森林に居ろ。あそこならリソースはかなり節約できる』
「ってことは、まずリーレットに戻らなきゃなんないのか。植生からゼナス王国内なのは間違いないとは思うんだけど、景色が見覚えないものばかりなんだよね。まず近くの街に行って場所の確認からしないと」
『とにかく無事ならいい。真琴は上海でお前と一緒に呼び戻す。それまで、どうにか生きていろ。じゃあな咲夜』
到着早々お兄ちゃんが私たちの安否をたずねてスマホをかけてきた。相談の結果、ともかくリーレットを目指すことが決定だ。みんな心配してるだろうしね。
さて、真琴ちゃんとこれからのことを考えよう。
「メラにお仕置き出来なかったのは痛いけど、しょうがない。到着した途端このニオイだからね」
「本当に。なんなんですかね、この何かが焦げたようなヒドイ臭い」
「もちろん何かが焦げたニオイだよ。問題は何が何に燃やされたかだけど」
到着した途端、火山地帯にでも来たかと思うほどスゴイ焦げ臭がしたのだ。だがそんな場所ではなく、見渡す風景はよくある辺境の荒地。
このニオイが何かといえば、もちろん何かが大量に焼き焦げたニオイ。おそらくはこの先のどこかの村が焼き討ちにでもあったんだろうね。人が大勢死んだ気配もするし。
そっちの方に警戒が向いてしまい、到着早々逃げに徹したメラには逃げられてしまった。くそっ、あんなに素早く動けるようになったのか。
「見たくないものをいっぱい見るだろうけど、確認しないワケにはいかないな。ここがどこで、何が起こっているのか知らないと」
「ですね。生き残っている人がいたら、私の回復術で治して話を聞きましょう」
というわけで、その方向へ歩いてしばらくすると、大きめの村があった。いや、元村か。かつては広大で豊かであったろう畑地は一面焼き払われ、焼け死んだり地面に叩きつけられたり潰されたりでお亡くなりになった方々が何人か散らばっている。
村に入りしばらく歩いても、同様の光景がいつまでも続いてる。
「ひどいものだね。この規模の農村がこうも徹底的に壊滅なんて。モンスターの大量出現かな? いや……」
スタンピードにしてはモンスターの死骸が無さすぎる。興奮しているモンスターは、餌場の街や村ではしばしば餌をめぐって同士討ちをする。そういった死骸がまったく無いところから、その可能性は消える。
では、人間同士の戦争か? どこかの国に攻め込まれ、焼土戦術で穀倉地帯をまるごと消滅させられたとか。
しかしその可能性も問題がある。人間同士の戦いで馴染みの剣や槍、弓なんかでの傷を負った死体がまったく無い。死体はすべて炎で燃やされたか、大きな力で引き裂かれ潰されたか。おおよそ人間の仕業には見えないのだ。これを説明できる可能性はひとつだけある。しかしまさか……
「どうします? 生き残った人達はみんな逃げ出して、誰も残っていないみたいですよ」
「最後に一か所だけ調べてから私たちも行こうか。使えるものが残っているかもしれないし」
なにしろ私たちは旅に必要なものを何も持たずに放り出された身なのだ。ここで多少の装備を手に入れないと、ここからの旅は不安だらけだ。
来た場所は村の北側。村で比較的地位の高いと思われる宅地跡だ。
「ひどいな。これは期待薄かな?」
村長宅と思われる大きな家は見事に屋根からペチャンコで、庭先には損壊激しい死体があちこち散らばっている。家々の残骸にはまだ燻っているものもあるらしく、まだ煙が上がっている。
「真琴ちゃん、大丈夫? 私でも、ここまで悲惨な光景見たのは初めてだし」
「【精神安定ヒール】の連発でなんとか。止めたらヒドイ様をお見せすると思います」
「精神安定ヒール? そんなのあるんだ」
「開発したんですよ。渋谷に現れた麻薬生産の魔人を調査をしたときには、見たくないものいっぱい見ちゃったんだから」
「へぇ、そんなヤツが現れたんだ。そいつはどうしたの?」
「まず私が不良少年のフリして、繋がっている女王と呼ばれる女の子に接触。コマしてオトして魔人の情報を入手。そいつにたどり着いたら【セイクリッド・フレア】で倒して、竜崎さんに連絡して終わりです」
「すごい活躍。もう真琴ちゃんを素人あつかいは出来ないね」
「すごくヨゴレました。女王だけじゃなく、手下の女の子たちともいっぱいシました。麻薬の力で半分魔物化してる娘たちなんですよ」
ああ、そういや真琴ちゃんはエッチした相手を解呪する能力があったっけ。
「もう、思い出さなくていいよ。私もこれ以上は聞かないから。とにかく辺り一通り調べてみよっか」
期待薄かと思われた物資集めだけど、探してみると意外と残っていた。避難によほど慌てていたらしく、どうしても持っていかなければならない物以外は捨てていった感じだ。
「お、ショートソード発見。しかもあまり使っていないヤツ」
「よく死体から抜き取れますね。罪悪感とかないんですか?」
「人間も死体になったら狩りの獲物と同じだよ。ただし自分で襲うのは厳禁。遺品を届ける相手がいる場合なんかも違ったりするけどね」
探し回ったおかげで、一通りの旅装と150パルーの現金を手にいれた。とりあえずこれで村の外に行ける。
だけど発見した成果はそれだけではなかった。とある無事だった納屋の中で、生きた人間を発見したのだ。つまり生き証人ゲット。
それは私たちより少しだけ年下っぽい女の子だ。淡い亜麻色の髪は長く腰まであり、品の良さからそれなりの家の娘だと思われる。
ただしそれなりに高そうな服はメチャクチャに破られ肌が露出し、手足は乱暴に刃物で傷つけられていた。そして下腹部からは破瓜の血がケモノのような異臭とともに流れ渇いている。顔は悔しさで歪んで目を閉じて固まり、涙の痕も渇いていた。
どう見てもレイプ被害者様であらせられますね。ご愁傷様です。




