24話 作戦第二段階
近衛騎士の男、モブのつもりだったけど、かなりキャラが立っちゃったんで、主人公のライバル的キャラにすることにしました。
それに伴い、名前もカッコ良く変更しました。
ドルトラル帝国軍陣地より少し離れた場所の街の城壁前。
私達三人は街に戻ることもせずに、そこで休憩。
レムサスさんにすれば、街の命運を担って出てきたのに戻る顔がないって所かな。
普段は見せない激しい怒りでロミアちゃんをなじっていた。
「ロミア様! 自分が何をしたのか分かっているのですか!? この交渉にはリーレット領全領民の命運がかかっていたのですよ!」
「うん」
「たしかにここは敵地。女性である以上、捕らえられそういった事が起こる可能性はあります。とはいえ、ここは短剣を置いてでも交渉に臨む場面でした。なのに踵を返して戻ってしまうとは何事ですか!」
「うん」
「ロミア様のせいでリーレット領の全領民は皆殺しだ! 皆にこのような結果を知らせることなんて出来ない! 館へも戻れませんよ!」
「うん」
「ロミア様、お願いです。引き返して、どうかもう一度……」
「レムサス、あのね。私、お父様が亡くなられた知らせを聞いたとき、悔しかったよ」
「……自分も同様です。キンバリー様は、私が生涯かけて仕えるに足ると思えたお方でした。ですが、キンバリー様の役割を引き継ぐことこそ、かのお方に報いることでは?」
「ふふっ、変なの」
ロミアちゃんは妖しく笑った。
「お父様の役割は、帝国のやつらを殺すことなのに」
「い、いえ、それは違います! キンバリー様の領主としての役割は、リーレット領を守り発展させることです。ロミア様、復讐に身をこがしてはなりません。どうか今一度辛抱して、領主のとしての本分に立ち返ってください」
「無理だよ。そんな辛抱はケビンのときに使いはたしちゃった。今の私はこんななんだ」
いまのロミアちゃんに、前に見せた次期領主としての聡明な才女みたいな顔はないってことかな。
たしかに今のロミアちゃん、さみしそうなただの女の子に見えるよ。
「……それで、これからどうするのです。ただリーレット領を終わらせただけですか?」
「まさか。サクヤ様には何か考えがあるみたいだよ。あえて決裂させたのも作戦通りだし」
レムサスさんは、はじめて私を見た。
「サクヤ様? どういうことです。まさか、この先があると?」
「ええ、そうです。交渉をしたいのは帝国軍も同じ。こっち以上にね。すぐに帝国軍から何か言ってきますよ」
正確にはザルバドネグザルが、だけどね。
ザルバドネグザルが司令として全権限を任されているのは、このリーレット領攻略だけ。
この後のゼナス王国攻略のための司令は、かませ犬的な何とかいう皇子がやってきて赴任するのだ。
つまり、ザルバドネグザルが司令として自由に行動したり命じたり出来るのは、その皇子が来るまでの短い間だけなのだ。
彼の目指す魔人王になるための儀式は、それまでにやらなければならない。
作中では独り言で説明しながらザルバドネグザルは焦っていたよ。
【鬼畜勇者ラムスクエスト】
こういった敵方の裏事情も丁寧に描いてくれるのだから、良いシナリオだね。
タイトルはアレだけども。
「サクヤ様、説明してください。いったいどういう……」
「ああ、待って。ちょうど来たようです。お待ちかねのアレが」
遠くから馬の蹄が響く音が聞こえてきた。
やがてその方向から、騎士を乗せた二騎の馬が駆けてくるのが見えた。
先ほどのアーシェラちゃんと『ものすごく強い近衛騎士』だ。
「待ってくださぁい、リーレット領代表の方々ぁ! こちらは元帥閣下の使いとして、みなさんをお迎えにあがりましたぁ!」
二騎は私達の前に来ると、アーシェラちゃんはちゃんと下馬して騎士の礼をしたのに対し、男の方は馬に乗ったまま。
「ああ糞っ、元帥閣下の慈悲深さは底なしだぜ。救いようのない小娘領主とその哀れな領民に、生き残るチャンスを与えてくださるってんだからな。感謝するんだな」
「もう! ゼイアード先輩はまたそんな」
ロミアちゃんは、また女領主の顔になって騎士の男を睨みつける。
「いきなりやって来て、身に覚えのない恩を押し付けるとは無礼な騎士ですね。私に誰に何の感謝をしろと言うのです」
「お前さんの街で、いきなり”祭り”をさせねぇ元帥閣下のやさしさに対してさ。ったく、お前さんは俺が世の中のキビしさを教えてやろうと思ってたのによ」
ああ。中世のこういった都市攻略戦は、兵士が略奪暴行するのを許していたんだよね。
まさか近衛騎士なんて身分の方まで参加するとは思わなかったけど。
「それは感謝をしておきましょう。ですが行った先で、また同じやり取りをするのではないでしょうね?」
「身体検査も特別にナシだそうだ。はやく来な。ザルバドネグザル元帥がお待ちだ」
「今度はちゃんとガマンしててくださいね。ボクも略奪の光景とか見たくないんで」
感動! アーシェラちゃん、原作通りボクッ娘だ!
この子の『ボク』でご飯三杯はいけそうだよ。
ともかくそんな訳で、私達は二人の騎士の先導で帝国陣地に戻ることになった。
原作チートな私にしてみれば「すべては予定通り」。
だけどレムサスさんは口を半開きにして、この成り行きを「信じられない」といった顔で見ていた。
「サクヤ様、これはいったい? わかっていたのですか、こうなることを?」
すると前を行く近衛騎士の男は「ピタリ」立ち止まり振りかえった。
「……『サクヤ』?」
ヤバッ! なんかじっと私を見ている!
レムサスさん、名前を出すタイミングが悪い?




