127話 転移陣の闖入者
竜崎さんに詳細な事情を聴くと、すでに彼らはかなりのことを知っており、その裏とりのためにお兄ちゃんや私に話を聞きたいそうな。
マズイ。私とお兄ちゃんは公務員じゃないから守秘義務なんてないし、公務執行妨害にも引っかからない。それを突かれての突撃インタビューか?
「くそっ、なんでテレビなんかがオレたちを嗅ぎつけた? とにかく予定変更だ。咲夜、すぐにお前を向こうへ送る」
「はい? いくら何でも危険すぎじゃ?」
「オレはここの警官のフリをして脱出する。しかしアーマーは竜崎に預かってもらうとして、湯雪とお前とメガデス全部はトランクに入りきらん。よってお前を向こうに送って身軽になるのだ」
「茜ちゃんをトランクに入れて逃げるの? ううっ、本当にあの娘はフビンな」
「時間との勝負だ。余計な情を挟んでいる暇はないぞ。真琴、どこか人気のない場所を探せ。少しの時間でいい」
「は、はい! ううっ、咲夜さん話すとちょっとの間もないなんて」
しばらくして真琴ちゃんが見つけた場所は鳩森八幡神社。将棋会館から一分ほどのところにある場所で、夜ともなれば暗く危ない場所なので警官も配備されていない。
「いい場所だ。神社なんかあったのは有難い」
「今、将棋会館内の人質救出にてんやわんやですからね。そっち方面が重点的になるんで、こんな所には誰も来ません。でも巡回が来ないとも限りませんので急いでください」
「よし、咲夜は急いで向こうの服に着替えろ。真琴は周囲の警戒。誰かきたら教えろ」
着替えといっても寝間着だったので、アーマーを脱いだらすぐに終わった。メガデスを背負って準備完了。
「着替えたよ。いつでもオーケー」
「真琴、周囲に誰もいないな?」
「誰もいません。今なら多少の目立つ術を使っても気づかれませんよ。チャンスです」
「私の気配察知でも周囲に人は感じない。やろう」
「ようし、人避けの結界はいらんな。咲夜、そこに立て。おっと、スマホを忘れるところだった。持っていけ」
お兄ちゃんは懐からスマホを出して私に渡した。そういや私も忘れてたな。
「次から呼び出すときはコレにメール入れてよね。いきなりこっちに呼び出されたら、さすがに怒るよ」
「たしかに今回は悪かったな。詫びと仕事の報酬で500ポイント分のリソースを入れておいた。好きなスキルに使え」
「ふうん、ありがたく使わせてもらうよ」
「よし、はじめるぞ」
お兄ちゃんは印を組んで呪文を唱え術式展開。私の周囲に転移陣が現れ、そこからまばゆい光があふれる。向こうへのゲートが開かれていく。
ああ、茜ちゃんにも挨拶しておきたかったな。大きな秘密を抱える身としちゃ、これ以上仲良くはなれないんだけどさ。
「それじゃ真琴ちゃん、二十日後にまた会おうね。今度はゆっくり話したいな」
「はい。こんなこと言っては何ですけど、咲夜さんとお仕事出来るの、すごく楽しみです」
「うん、それじゃあ…………なッ、気配がいきなり!?」
今この瞬間まで感じなかった私たち以外の何物かの気配を、突然感じた。
突然、私の目の前にいきなり誰かがしゃがんだ状態で現れた。
「なぁ!? なんでお前がここに!?」
「テメェ! どうやって、ここまで接近した? 糞ッ、術は止められない!」
それは海外ジャーナリスト、じつはスパイとかのオタクのオッサンだった。
糞、こんな奴にここまでの接近を許すとは!
「ハーイ、サクヤさん。ぜひお話うかがいたくてサンジョーいたしマシタ。どうかインタビューお願いシマース。平凡なハイスクールガールがいかにアナザー世界に行き神秘の力を手にシタカ? いま秘められたストーリーが語られるゥゥッ! イエーーッ」
「誰が語るか! アンタ、ただのスパイのフリしたクソ迷惑なイカレオタクじゃないね? いやこれ『ただの』なんて言えるほど普通か? じゃなくて! いったいオマエ何者だ! ……ハッ、お前? もしかしてメラ?」
反射的に気配を探ると、前にゲーム世界で取り逃がした不良少年の気配を感じた。
オタクジャーナリストは「ニヤリ」と笑った。そして立ち上がるとその姿は変容し、十代の少年の姿となった。金髪おかっぱのよく知る不良少年メラの姿に。
「こんな変化の術を覚えたのか。でも、どういうつもり?」
「俺も異世界ってところに連れていってくれよ。見てみてぇんだ」
転移陣から溢れる光の中、私とメラは剣呑な雰囲気のまま対峙する。最高潮に高まる警戒心で無意識にメガデスに手をかけると、慌てたようなお兄ちゃんの声が飛ぶ。
「咲夜、今殺るなよ。ここで死体なぞ作ったら、向こうでどんな化学反応がおこるか分からん。そのまま、そいつも送るしかない」
コイツの思惑通りってことか。くそう、癪だ。
――「このヤロ! 咲夜さんから離れろ!」
「真琴ちゃん!?」
突然、真琴ちゃんが飛び出してメラを羽交い締めにした。いや、嬉しいけどそれはマズい!
「おい真琴……転移陣が発動してるんだぞ。お前まで向こうに行ってどうする?」
「え? …………ご、ごめーーん!」
うわあっ! おひとり様の召喚陣に三人も入ったらどうなっちゃうんだ! 無事に向こうへ着けるの?
「ヒャハハ、団体旅行ってか。アンタ、咲夜さんと組んで悪魔バスターやってた白い兄ちゃんだな。楽しくやろうぜ」
「お前は黙れ!」
向こうに着いたらどうしてくれよう。それだけは楽しみだよ、メラ!
「くっ、座標がズレた! 人数が増えたせいか? とにかくお前らの安全に集中する。そいつのことは向こうで何とかしろ!」
ヤバイお兄ちゃんの叫びが不安を増大させる。その言葉を最後に、私たちは光に包まれる。もう何も見えない。
くそう、メラめ! 向こうについたら覚えていろよ。




