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125話 裏・魔人将棋勝負【岩長視点】

 「始まったな。将棋勝負なんて不得手なことに咲夜(アイツ)の命がかかっちまったが、大丈夫なのか?」


 「ええ。先手はとれたし、持ち時間二分以内のルールもあっさり通りました。この状況でHppyBellに勝てる知能は人間人工問わず存在しません」


 「フン、魔人では?」


 「さて。魔人の知能というものは計測されたことはありませんからね。その意味で、これは興味深い対局になりそうです。魔人の知能というものが、どの程度AIにせまれるのか」


 まったく嬉しそうに。その魔人が友人だってこと忘れてんじゃあねぇのか。ま、これくらい知識欲旺盛な方が異世界研究には向いているんだろうが。

 さて序盤。駒組みの最中、咲夜は魔人から『仮面を送られた者には恩義がある』という言葉を引き出した。これによって永井を魔人にした者はヤツのごく身近な者だということが判明した。


 「さすが咲夜さんですね。【悪魔の仮面(デモン・マスク)】の出どころが永井さんの近親者か友人ということが判明しました」


 「だな。アイツもなかなかやる」


 すると八神はイキオイよく叫んだ。


 「管理官、その調査はぜひ僕にやらせてください。永井さんを魔人にしたヤツ、ぜったい許せません!」


 「そうですね……いえ、ダメです。私と八神くんも永井さんの友人です。つまり容疑者の枠に入ってしまうので、別の者にまかせなければなりません」


 「………そうですか。残念です。せめて結果は最初に教えてくださいね」


 元気な若造だ。しばらくその仕事で飛びまわってりゃ、静かでいいのに。


 そして局面は進み、序盤もおわりにさしかかる頃。

 ふいに魔人は、咲夜がAI使用で指していることを指摘した。


 ばれた! ………いや、コイツ相手なら遅かれ早かれか。

 だが直後、動揺すら見せず簡単にAI使用を認めたコイツには不気味さを感じる。


 「竜崎、評価値はどうなっている?」


 「50対50(イーブン)。すごいですね、魔人になった永井さん。序盤とはいえAI相手に互角」


 「つまり勝つ確率もイーブンということか?」


 「いいえ。まだ駒組み中ですからね。上級者ならこの段階まで互角ということもあり得ます。しかし盤面が複雑になれば差は開いてくるはずです」


 だといいがな。妙な胸騒ぎがする。

 パチリ………パチリ………


 「評価はどうだ。開いたか?」


 「今だイーブン。すごい、たった二分の脳内シミュレーションでAIと互角だなんて」


 「チッ、盤面はどうだ。お前の目から見て今の展開は?」


 「わかりません。見たことない展開すぎて、いったいどうなっているのか。本気でAIに勝つつもりなら、私に理解できるような局にはならないということでしょう」


 「そうか……」


 妙にイラつく。予感しているのか? この先のなにかに。


 パチリ……パチリ……


 「ああっ!」


 「どうした?」


 「ついに評価値が動きました! 45対55。信じられない、AI相手に優勢になるなんて!」


 「負けるのか? 咲夜は」


 「い、いえ。あえて隙を作り攻めさせている段階なのかもしれません。この劣勢も計算通りなのか、それとも想定外なのか………人間の私たちには知ることは出来ません」


 チッ、だが人間にもAIにも知ることの出来ない勝負の行方も、オレになら知ることは出来る。

 やるか。スキル未来視――


 ――「やはりか」


 盤面の未来を見た結果。やはり咲夜は敗北寸前。

 おそろしいヤツだ。104勝無敗のAI相手にすら勝つとは。まさに将棋の魔人!

 ただ、こちらの馬も桂も相手陣の中で生きている。なにかヤツの手を遅らせる手があれば、逆転も可能なはず。


 パチリ……パチリ……パチリ……


 「また……評価値が下がりました。40対60……そんな……」


 ダメだ。いくらオレが考えても、ここでどうにか出来る方法など思いつかない。

 ………ならば現場にまかせるしかないか。


 「4七角」


 オレが指示を出し咲夜が指した瞬間、すかさず連絡をいれる。


 「咲夜、今、評価値でこちらの勝率が下がり続けている。ヤツがここまで完璧に指しまわしていたことを考えれば、ミスも期待できん。要はこのまま終局までいけば、お前は負けるということだ」


 「岩長くん、なにを?」


 竜崎がなにか言っているが無視だ。それどころではない。


 「だがそれは一手ないし二手のわずかな差だ。こちらは、このまま最善手を指示することしか出来ない。しかし現場のお前なら――わかるな? 以上だ」


 打てる手はこれだけだ。向こう世界で修羅場を渡ってきた咲夜の経験を信じる。それしかない。


 ――『トントン』


 すぐに『了解』の合図が送られてきた。たったそれだけの返答。


 「冷静でいやがる。なんてヤツだ。絶体絶命だってのに」


 ならば、このまま進めるだけだ。

 パチリ……パチリ……

 そしてまた、しばらく経った頃だ。


 「うわあああっ!」


 「ガタッ」と大きな音がした。そちらを見ると、竜崎が椅子からすべり落ちておののいていた。


 「30対70……バカな! AIが有機生物の脳に負ける? シミュレーション勝負でコンピューターを凌ぐ生物……そんなものの存在を認めろというのか」


 はじめて見たぞ、コイツが恐怖におののく姿なんて。

 コイツの恐怖のツボはわからん。ルルアーバに首を落とされた直後も元気に現場指揮とってやがったクセに。


 「管理官!」


 八神はじめ有象無象のヤツラが助け起こそうとする。チッ、手のかかる。


 「よせッ手を貸すな! 竜崎、自分で起き上がれ」


 オレの言葉に、皆あぜんとして固まりながら見つめている。


 「オレは将棋AIというものを、よく知らん。だから見たままを判断する。お前もさっさと頭を切りかえろ」


 「シン」と静まり返った後。ユラリと竜崎は力無く起き上がる。


 「……そうですね。立場として許されない失態を見せました。八神くん、大丈夫です。自分で起きます。このデータは、これからの魔族研究において重要なサンプルとなります。しっかり記録しておいてください」


 「よしっ、続けるぞ。結果がどうあれ、オレたちには最後まで進む義務がある。思考を止めるな」


 パチリ……パチリ……


 「だんだん私にも終局図が見えてきました。マズイですね。もし永井さんが失着しなければ………咲夜さんは負けてしまうでしょう。なにか方法は……」


 「すでに手はうった。アイツは冷静だった。ならば信じるだけだ」


 「6飛成、5三銀、3三角、同桂、同桂成、同玉、2五桂、4三玉、5二銀……ダメだ、どう攻めても相手の詰みの方が早い!」


 切り替えの悪いヤツだ。将棋勝負にはすでに負けている。

 ならば別の戦いに持ち込まねば勝てん。咲夜ならそれが出来る。


 パチリ……パチ………


 「終局です………すみません。咲夜さんを犠牲にしてしまった」


 うなだれる竜崎に声をかけず、オレは黙って駒を置いた。


 パチリ

 

 竜崎は目を見開いてそれを見た。


 「………バカな!! なんだ、コレは!!?」


 


 

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― 新着の感想 ―
>私と八神くんも永井さんの友人です。つまり容疑者の枠に入ってしまう  このあたりの文章いいねぇ。 次回、いよいよ魔人将棋の勝負がつく!? だけでは終らないだろうけど。 まずサクヤがどうやって“勝つ…
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