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117話 魔城将棋会館

 現場指揮所は指揮車両を中心にいくつものテントが連なり、その間を何人もの機動隊員が忙しなく動き回っていた。その中の『中央指揮所』と書かれた看板のあるテントに入ると、そこでも多くのスタッフが忙しそうに仕事をしていた。

 そこの現場指揮官の竜崎さんは私が来たことを告げられると、快く迎えてくれた。彼の近くにはさっき来ていた補佐の八神さんもいる。


 「咲夜さん、体調はもう大丈夫ですか」


 「はい、休息は十分にとれましたので万全です。これからお仕事を始めますので、どうかよろしくお願いします」


 「では早速向かってください。場所はこの八神くんが案内します。ああ、その前にこれを。高性能集音マイクとワイヤレスイヤホンです。これで指示を出しますので従ってください」 


 イヤホンを耳につけ、マイクを口元近くにセット。ここでの準備はこれだけで良いみたいだ。では早速問題の将棋会館へ出発だ。

 八神さんとテントを出ようとした時、思い出したように竜崎さんが忠告した。


 「それと海外のジャーナリストが来ています。上からのイロイロで現場に入れざるを得ませんでしたが、実は日本の異世界(アナザー)災害の対処を調べにきたスパイなのです。ですから相手をしないようお願いします」


 スパイとわかっているのに現場に入れなきゃならないのか。政治の世界は本当に大変だね。

 だが、よかろう。そのスパイ、どのような手管をもって私の口を開かせるのか。この咲夜の意思を揺らがせるほどの美貌があるのか否や。

 言っておくが、私はシャラーンという篭絡最強女スパイをオトした経歴をもったスペシャル。その私にハニトラをもって挑むは、青山氷雪を渡るにも等しい試練とこころえよ。ではお手並み拝見といこうか。

 八神さんの後をついていき指揮所のテントを出たその時。そいつは出た。


 パシャ パシャ


 「オウ、グレイト! ビッグサーベルガール! リアルトゥルー!!」


 金髪で髭面(ひげづら)のマッチョなオヤジが、いきなり私を小型カメラで「パシャ」「パシャ」撮りやがった。まさかこのオヤジが海外からのスパイ? 嘘でしょ?

 

 このスパイを寄越した愚物は誰だぁ!!!

 スパイといえば要人を篭絡するナイスバディ美女がお約束だろう。それをこんなド汚ねぇオヤジを寄越して秘密を探ろうとか、業界ナメてんのか! ボンドガール持ってこぉい!!


 八神さんは私の前に立ってオヤジをたしなめる。


 「ミスター・ヒュース。彼女はこれから作戦に出ます。どうかインタビューはお控えください」


 「ノウ! 今やめたらどうなる! このはちきれんばかりの熱きパトスは冷め、彼女はこっそり逃げてしまう! 今しかない、今しかないんだぁあ!!」


 よく分かっているじゃないか、糞め。


 「はじめて君を見たときボクの体の中は熱く滾り、ほろ苦くも甘いナニカが(ほとばし)った! 屈強な兵士が次々殺される死霊(ゴースト)悪魔(デーモン)の群れを! 巨大な(ビッグ)サーベルを軽々扱い薙ぎ払う謎の少女! はわはわはわ、そーなのだ! 感動だよ君ィ、感動するよなァ! ボクは残りの人生をこの少女を追うことに捧ぐと誓った!」


 メチャクチャ汚い泣き方している。コイツ、スパイでもジャーナリストでもない、ただの厄介なオタクだよ! どこかの国はナニ考えてコイツを寄越したんだ。


 結局、その迷惑オタクオヤジは護衛の機動隊員に両脇をつかまれ、八神さんは付き添って向こうへ連れ去られた。八神さんが相手しなきゃならないあたり、粗末には扱えない相手ということか。ああ見えて。

 どうか祖国にお帰りいただいて、はるか彼方から私の活躍を見守りください。

 ともかく私は別の隊員が来て将棋会館前へと案内された。


 高級そうな石に達筆に彫られた『将棋会館』の看板向こうにそびえるその建物。そこには建物を覆う黒い瘴気が渦巻いていて、一寸先も見えない黒い空間となっていた。

 

 「嫌な気を出しているね。いや、本当にこの気配は……」


 この気配はまるで人間の強烈な執念のような感じがする。すごく気持ちが悪い。ともかく、この最強最硬結界の味を見てみよう。

 二歩下がりメガデスを高く掲げ火の構えをとる。


 ズバシャアアッ


 渾身の飛び上段斬り。瘴気は一瞬霧散したものの、すぐに新たなそれが生じて、まったくの元通りに戻ってしまった。感触もたいしたダメージを与えたように思えない


 「たしかに堅い。ま、お兄ちゃんと真琴ちゃんの手に余るほどだからね。これくらいはあるか」


 すぐさまイヤホンから竜崎さんの声が聞こえる。


 『ダメですか? 咲夜さんでも』 


 「いいえ、今のは感触を確かめただけです。たしかに堅いですが、メガデスの力を最大限に引き出せば突破は可能と見ました」


 『おおっ!』


 「次の一撃、本気で斬りこみますが………結界にはどうやら修副作用もあるようです。破っても中に入れる人数は限られるので人員の選別をお願いします」


 『了解しました。突入の人数は絞りましょう。すぐにはじめていただいて結構です』


 どうやら選別で送れることはないようなので、ふたたびメガデスを上段構え。


 「スーハー、スー…………はぁあッ!!」


 肺に空気を満たし、弓を深く引き絞るよう全身にタメを作り、最大限の威力を発揮する瞬間をはかり放つ。


 「スキル【破城(はじょう)斬嶽剣(ざんがくけん)】!!」


 裂ぱくの気を吐き、スキルを乗せた斬撃は雷鳴となって魔城の門を震わした。


 バリバリバリィィィッ


 強烈な音が鳴り響き、瘴気が晴れたその先には将棋会館の正面入り口があった。されど瘴気は早くも復活しつつあり、通れるのはほんの二、三分の間だけだろう。


 「突入します。想定通り通れる時間は長くありません。突入班を入れてください」


 『了解。状況と行動の報告は綿密に。人質の保護は隊員に任せ、咲夜さんは脅威の排除に専念してください』


 さて、正体を見せてもらうよ。引きこもりの魔人さん。

 子供たちを魔物にした報い、キッチリ受けてもらうからね。


 咲夜は完全に自分の性別忘れているね。女に女スパイのハニトラなんて来るはずないのに。

 それはともかく次回からいよいよ将棋バトル。とある将棋漫画のカッコよさに痺れ、とある声優が好きになってしまって、その二つを無理やりねじ込んで始めたこの話。マジ設定考えるのが大変だった。

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― 新着の感想 ―
咲夜は自分の性別忘れているけど、この人物がスパイ? なら大した演技だ。 >その二つを無理やりねじ込んで始めた  そんな制作裏話ですか!?
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