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115話 居合い無双一閃

 私たちの車はようやく将棋会館近くに到着。すると、すぐさま竜崎さんが数名の機動隊員とともに駆けつけてきた。 


 「お待ちましてました岩長くん。咲夜さんもお久ぶりです。それに………そこに寝ている方は? 検問所からは女性ふたりを伴っているとのことで、真琴さんだと思っていましたが」


 あ、ヤバイ。茜ちゃんのこと、どう説明しよう。


 「万一の秘密兵器だ。咲夜が苦戦するようなことがあれば使う」


 またまたお兄ちゃんのデタラメ弁舌が冴える。茜ちゃん、とうとう秘密兵器にまでされちゃったよ。ただのエロゲ声優なのに。

 これ以上妙な嘘を重ねないためにも、さっさとここの事件を片づけよう。

 私はすでに車の中でボディアーマーを身に付けていて臨戦態勢。トランクからメガデスを取り出し背中に背負うと準備万端。


 「竜崎さん、それで状況は? 検問所で事態が急変したと聞きましたが」


 「ご覧になったほうが早いでしょう。こちらです」


 竜崎さんに案内されて見た現場は戦場だった。

 おびただしいほどの機動隊員が小さな体の敵におそわれ、ジュラルミン製の盾をかざしながら防戦している。されど、盾はグチャグチャに引き裂かれ、身に付けている装備も破壊され、負傷した隊員も看護に回収されないままだ。


 「ちょっと待って! あれって人間じゃない? それも子供だ!」


 そう、この惨状を作っているのは子供たちだった。

 子供とは思えないスピードとパワーで機動隊員たちを圧倒し、次々と負傷に追い込んでいるのだ。


 「ええ、先ほど会館から出てきた奨励会員の子供と思われるのですが。しかしあのように狂暴化しており、しかも怪力俊敏。任務にあたっている隊員にも重傷者が続出しております。子供があのような力を出せるとは思いません。やはりすでにゾンビ化しているのでしょうか?」


 私は子供たちの気配を細かく読み、そして残酷な状態を知る。


 「…………いえ、あの子たちは全員生きています。不定形の魔物に憑依され、あのような力を持ってしまったようです。もっとも、あの動きを続けていれば、やがて完全なゾンビになるでしょうが」

 

 「そうですか。しかしこの厄介な状況、咲夜さんならどうにか出来ますか? すでに多くの隊員が負傷し、このままでは発砲許可を出さざるを得ません」


 「それは…………」


 あれがモンスターなら何も問題はない。あのくらいのスピードの相手は何度も戦ってきたし。

 だけど得物がメガデスじゃ、彼らを殺さずに制圧は難しい。とりおさえるような得物もないし。

 …………覚悟を決めるしかないの? でも私に子供殺しが出来る?


 ――ポンッ


 「フン、厄介な状況だな。ま、咲夜なら問題はない」


 「お兄ちゃん!」


 私の後ろから肩を叩いて代わりに答えたのはお兄ちゃん。


 「本当ですか? ならば、どうかお願いします。やはり子供たちは保護して親元に返してあげたいですから」


 「ただ、それを成すには咲夜の大剣じゃ難しい。竜崎、前に使った聖別した刀は当然持ってきてあるだろう。それを咲夜に使わせるのだ。咲夜ならそれで解決できる」


 「わかりました。すぐに持ってきます!」


 竜崎さんは部下に命令しに行く。その隙に私は小声で文句を言う。


 「お兄ちゃん? 私ならそれで傷つけずに制圧できるって……あのスピードとパワーじゃ、私でも殺さずにとらえるのは難しすぎるよ。無責任なことを言って!」


 「心配するな。そういう術理をもった剣術スキルを作成した。いきなり本番だが、なんとかモノにしろ」


 お兄ちゃんは私にスマホを向ける。たしかに前はそのスマホでスキルを修得出来たけど。


 「あれ? そのスマホで新しいスキルはもう覚えられなくなったんだけど」


 「エロゲで集めたリソースは、もうこっち世界の魔物浸透を抑えるのに全部使わねばならんからな。お前にまわせる余裕はない。が、今は緊急だ。………よしっ、これでいい」


 やがて隊員の一人から長物を受け取った竜崎さんが引き返して私にそれを差し出す。


 「咲夜さん、刀です。どうかこれでお願いします」


 刀を受け取り、自分の中に新たに生まれたスキルの確認をする。

 …………居合い形式のスキルか。そう言えば前に刀の練習をさせられた事があったけど、結局本番では使わず終いだった。だから少し楽しみだ。

 「ヒュッ」「ヒュッ」と居合いで二度ほど刀を抜いて感覚を確かめる。


 「すごい居合いですね。咲夜さんは刀も達人並みだったんですか」


 たった今そうなったんだけどね。


「それじゃ行ってきます。隊員のみなさんには、子供たちを私の方へ誘導するよう言ってください」


 まずは一番近くの、機動隊員が盾をかざしながら必死に防戦している相手の子供の背後にせまり構える。


 「スキル【鬼魄断きはくだち】!」


 ――ヒュンッ


 子供の体数ミリ手前を居合いでかすめる。それだけだった。

 それだけで子供の体は止まり、地に落ちて動かなくなった。


 「みなさん、この子の保護を。おっと次か」


 背後からは新しい狂暴化した子供がすごいイキオイで私に迫ってきていた。

 ただその顔は泣いていた。体を無理やり動かされているのが悲しいのか痛いのか、とても痛々しい。

 それでも感傷的になっては見切りを損なう。集中を切らすな!


「スキル【鬼魄断(きはくだ)ち】!」


 ――ヒュン


 同じように居合いでかすめると空中で動きがピタリと止まり「ドサッ」と地面い落ちる。

 されど一息つく間もなく、子供たちが次々と私目がけて猛スピードで迫りくる。


 「くっ、精神がもつのか? いや、やるしかない!」


 このスキル【鬼魄断(きはくだ)ち】は刀の刃先に精神の刃を作り、それをもって体内の魔物のみを断つスキル。それ故に精神をゴリゴリ削られる上に、居合いの集中もせねばならないので、精神の消耗がハンパない。


 ――ヒュンヒュン


 私も駆け出し、すれ違いざま二人の体を刃でかすめる。

 彼らの体が落ちる音を聞きながら振り向き、上空に飛んだ一名と左右から駆けてくる二名を確認。


 「三方同時攻撃…………魔物にも知恵があるの?」


 いや、考えてしまえば手が遅れる。思考しかけた頭を振り切り、右方の子供に向かって駆けだす。

 されどせまる子供にたいして刀は抜かない。抜けば残る二方から集中攻撃を受ける。

 子供の頭を蹴って飛び上がり、もっとも動きの読みやすい上空の子を狙う。


 ――ヒュン


 子供の体を刃でかすめた瞬間、次に来るであろう左方の子に目を見やる。

 ――早い。

 すでに私の体数メートルまで飛び上がってきている。振り抜いた態勢から刀を戻せない!


 「スキル【龍肢飛び】!」


 その子の頭を蹴ってふたたび飛び上がり、刀を鞘に戻す。

 ふたたび下を見ると、私の蹴りをくらって落ちる子と遅れて飛んできたもう一人が見える。


 「スキル【鬼魄断(きはくだ)ち】!」


 落下しながらその二人の体内の魔物を切る。

 地面に着地すると猛烈な目まいがした。精神の消耗が限界だ。

 されど、あと一仕事。これが終われば倒れていい。


 ――ドサドサッ


 落ちてくる二人の体を死にもの狂いで受け止め地面に放る。優しくないが私も余裕がない。

 

 「………ふうっ」


 ざっと見回したところ、もう狂暴化した子供はいなくなった。

 機動隊も戦闘態勢を解除し、解放された子供の保護や負傷した仲間の救護に勤しんでいる。

 私もやっと体の力を抜き、地面にへたり込んだ。


 「お疲れさまです。凄いですね咲夜さん。さっきまで攻めあぐねていた状況を、わずか到着数分で解決してしまうなんて」


 「いえ、お役に立てて嬉しいです。それより結界を破る作業は、すぐには出来そうにありません。申し訳ありませんが、少し休んでからやらせてください」


 「ええ、もちろんです。その間に隊員に準備と食事をとらせておきます。では、また後で」


 さて、休憩中は茜ちゃんとすごそうかな。あの我がままボディでまったり癒され、そのまま……ぐふふ。

 おっと、またまた悪い妄想が出た。茜ちゃんにはハードな営業接待でヒドイ目に合わせたし。紳士的にいこう、女だけど。


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― 新着の感想 ―
>奨励会員の子供  まあ年齢的にそうなるな。そういえば真琴の弟もいるんだっけ。 >またまた悪い妄想が出た。  完全に“ドスケベレズビアン”ですね。
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