113話 悪役業界令嬢
なぜかお兄ちゃんに業界の営業接待を私が受けろと言われて大混乱。
いったい、どういうこと?
「意味わかんない! なんで私が女の子の営業接待とか受けるの? 茜ちゃんのアニメデビューのお世話するお兄ちゃんの権利じゃないの!?」
「オレはそんなクソ重いエロはごめんだ。咲夜、お前が推した女だ。営業接待もお前が受けてやれ」
「いやいやいや! それって営業接待の意味なくない!? お兄ちゃんが茜ちゃんとエッチする気が無いなら、最初っからカラダなんて要求する必要ないでしょ。前提が間違っている!!」
お兄ちゃんは黙って懐からタバコを取り出しくわえ、高そうなライターで火をつけ大きく吸い込んで「フーッ」と吐く。なんなの、その大人の男ムーヴ?
「湯雪は夢のためにカラダを差し出した。そしてオレは湯雪の役のために動く。で、お前は?」
「わ、私? 私も何かしなきゃなんないの?」
「責任ない場所でただ煽るだけか? この卑怯者。正義漢気取りの無責任ヒーロー。ドスケベレズビアン」
「こ……このッ。レズはお兄ちゃんが仕向けた元凶のクセに……ッ!」
でも、なんとなく言いたいことは分かる。
「要するに『私も責任の一端を担え。泥を被れ』って言いたいの?」
「湯雪をアニメ業界に推すことは別に難しいことじゃないし、投資した金を回収することも可能だ。しかしそのクソめんどい仕事を、この忙しい時期に押し付けやがったお前には不満たらたらだ。少しはその正義面を業界の泥で汚してこい」
たしかに茜ちゃんを正義面しながら助けてるようで、実行はお兄ちゃん任せ。『卑怯者』と言われてもその通りだし、こうなったらやるしかない。
「私が茜ちゃんとエッチしたなら、ちゃんとアニメデビュー世話してくれるんだね?」
「ああ。やるとなったら手間も無駄骨も惜しまずやってやる。お前も少しは根性見せろ」
「…………いいよ。茜ちゃんの夢のために私は悪になる。悪役業界令嬢になってやるッ。うおおおおッ!!」
私は茜ちゃんの待つ車中へと突撃した。
私が入ってくると茜ちゃんはビックリ。キョトンとした顔で見つめてる。
「あ、あれ? 妹さん? どうしてここに?」
「咲夜だよ。おぼえておいて。じつは今さっき、お兄ちゃんにあなたの実力を調べるよう頼まれちゃってね」
「あたしの実力を……ですか?」
「そう。アニメ業界に茜ちゃんを推すにしても、あんまりにもヘボだと恥かいちゃうからね。だから最低限の実力があるかどうかを私が審査するわけ。ぐふふ」
「ぐふふ? はぁ、そういうことなら審査してください。実力なら自信あります」
キラーン。かかったわね、仔犬ちゃん!
貴女のエロスレベル、じっくり審査してさしあげるわ!!
「さぁ! この態勢から声を出してみなさい。早く!」
「フフフずいぶんエッチな声じゃなぁい? まさか真面目な審査の最中に感じちゃってるのかしら? 茜ちゃんみたいな清純な子がまさか、ねぇ?」
「うるさいよ! 私の指に耐えながら演技できなきゃアニメデビューの話は無しだからね。ホラホラホラァ!」
「ああん、なんて情熱的なシャウト。今度はロミアちゃんの声でお願い」
「ウフフ……苦しそうね茜ちゃん。でもまだ審査は途中。さぁ地獄の第二審査のはじまりよ!」
「あらあ? もうダウンかしら。こんな根性ナシのクズにはとてもアニメデビューなんてさせられないわね。残念ながら今回の話はなかったことにするわ。お疲れさま」
「ふふッ泣いちゃってカワイイ。そんなにアニメデビューしたいの? だったら、せいぜい根性見せることね。ソラッもう一度だけオーディションしてあげるわ!」
「アハハすごい根性。これなら主役抜擢。キャラソン歌わせて雑誌インタビュー付きでデビューかしら。これに耐えられたらね! ソラソラソラソラアッ!!」
―――ガチャ
ふいに運転席のドアが開いてお兄ちゃんが入ってきた。
「いい加減にしろ。休ませないと湯雪が死ぬぞ」
え?
ハッ! 気がつくと茜ちゃんは虫の息。
「だいじょうぶ………れふぅ……まだまだ……がんばり……ましゅう……」
と、うわ言のように繰り返している。誰がやった!
「【睡眠】」
お兄ちゃんが茜ちゃんの額の前で指を「パチン」と鳴らすと、彼女はそのままスヤスヤ眠った。
「まったく。『少しは業界の泥で汚れてみろ』とは言ったが、ここまで容赦なくやるとはな。わが妹ながらひくぞ。スケコマシ業界ゴロめ」
「ううっ(泣)」
ギュルルルルル
「あれ? お兄ちゃん、どうしてエンジンかけてるの」
「オレはお前に女遊びをさせるために呼んだんじゃない。朝から余計なことばかりで時間を無駄にしすぎだ。ふざけるのものもいい加減にして、現場に行くぞ」
余計なことは、みんなお兄ちゃんが元凶!
なんで私が女の子と楽しみたいがために遅れたことになってんだあああッ!!!
「ちょっと待って! 茜ちゃんはどうするの。このまま連れていく気?」
「しかたなかろう。まさかこのまま返すわけにもいかないし、回復するまで待つわけにもいかん。仕事が終わるまで車で寝かせておくしかあるまい。衣服はちゃんと着せておけよ」
うわあああっ、どこまでも茜ちゃんを巻き込んでゆくう!
そんなわけでパーティー新メンバーを加えつつ、車は現場へ向かうのであった。




