22話 ザルバドネグザル暗殺計画
ロミアちゃんとイチャコラしている間に、日は暮れて夜になった。
その間に帝国軍は領都まで来てしまい、この街をグルリ包囲してしまった。
レムサスさんは朝までにロミアちゃんを説得してほしいと頼んできたので、助っ人にラムスとノエルを部屋に呼んだ。
「それでサクヤ、オレ様がロミアに何を話せというのだ? 『降伏するも逃げるも好きにしろ』としか言えんぞ。まぁ冒険者として仕事なら受けてやるがな」
「わたしはロミア様に何か言える立場じゃありませんしね。こんな立派な部屋に入っていいのでしょうか」
たしかに、誰かの説得なんかできる二人じゃないね。
ま、じつは用件は、ラムスの言うようにクエストなんだけども。
「じつはお二人を部屋に招いたのは、その仕事を依頼するためです」
ロミアちゃんは二人の前に立つと居住まいを正して淑女の礼をした。
その所作は綺麗で美しく、思わず二人は見惚れている。
実はためしにロミアちゃんのスキル【演舞】をレベル2に上げてみたのだ。
うん、彼女の職業の【役者】は交渉に役立ちそうだね。
「ふん、聞いてやる。依頼はやはり『おまえを安全な場所へ逃がせ』か?」
「いいえ、討伐クエストです。目標は【帝国軍元帥ザルバドネグザル】」
「…………は?」
そこで、私は説明役をロミアちゃんから代わった。
「ここからは私が話すよ。作戦は、ロミア様は朝になったら降伏の交渉として帝国軍の陣地へ赴く。そこに私もついて行って、ザルバドネグザルを討つ。簡単でしょ?」
あっけにとられるラムスとノエル。
やがてラムスは心底呆れたように言った。
「バカだ! 穴だらけで、まるで作戦になっておらんわ!」
「そ、そうです! サクヤ様、ぜったい無理です! ノエルは止めますよ!」
ラムスは「フーやれやれ」と頭を振る。
「まったく女二人で何を話してたかと思いきや。おいバカ、説明してやる。まず帝国軍の陣地中枢に武器など持ち込めるはず無かろう。徹底的に身体検査をされるに決まっている。ましてや、お前のメガデスなど論外だ」
うん。メガデスがなきゃ、私なんてそこらの兄ちゃんにも勝てないよね。
「それにザルバドネグザルを討てたとして、帝国軍ド真ん中からの脱出はどうするつもりだ? まさかそいつを倒したなら、命はいらんとでも言うつもりか?」
「言わないよ。命は懸けても命を捨てないのが冒険者だ。もちろん、このクエストでも生還するつもりだよ」
「ほう、あくまでやるつもりか。ではオレ様の言った問題に、どう対処するつもりだ?」
「それはね」
私はノエルの後ろにまわって、その肩を「ポン」と叩いた。
「このノエルの【空間魔法】を使ってだよ」
「は、はあああ?」×3
「ちょ、ちょっとサクヤ様! わたし、空間魔法なんて使えませんって!」
「だから、これから覚えてもらうんだよ」
「おいサクヤ。まさかお前、魔法師はどんな魔法でも使えるとでも思ってないか? 空間魔法は才能だけで使える魔法じゃないんだぞ」
「ええ。それは高位魔法に属するもので、それを使える術者の元で何年も修行をして、術式を少しずつ継承していくものだとか」
ふーん、そんなに大層なものだったの。
ポイント消費は他の魔法と変わらないのにね。
私はスマホを取り出し、カメラ機能にしてノエルを見ると、彼女のステータスが表示された。
ポイントは前回のクエストで取った虎ゴーンとフレスベルク、それに道中で襲ってきたモンスターの分を合わせて660ポイント。
これを使ってノエルに空間魔法をレベル10まで上げる。
するとスキル欄に【転移ゲート:消費50】が現れたので、それを取る。
「はい、これで空間魔法修得完了」
私は実験にいい物はないかと部屋を見回すと、棚に高級そうな小瓶が飾ってあるのを見つけた。
私はそれを取って、ノエルに差し出す。
「ノエル、この小瓶の中の空間を目いっぱい広げなさい」
「だから出来ませんって。まぁ奴隷ですし? 命令ならやってみますけども……あ、あれ? なんか出来そう……ええっ!? 何で出来ちゃうの!!」
私は背中からメガデスを抜いて、その小瓶の口に差し込む。
すると私の背丈ほどもある大剣がスルスルとその小瓶の中に吸い込まれていき、メガデスはその小瓶の中に収まって消えたように見えた。
「うおおおっ!! そんなバカな!?」
「ま、まさか、本当に空間魔法!? ノエルちゃん使えるの!?」
「これで武器持ち込みの件は解決したね。それじゃ今度は脱出の件だね。ノエル、空間魔法の【転移ゲート】をやってみなさい」
「い、いや、それはいくら何でも!」
「それって、『魔法の秘奥義』って言われてるヤツだよね? それを使える魔法師は国家レベルで保護されるんだよ。いくら何でも、それをノエルちゃんが……」
「すみません、できちゃいました」
ロミアちゃんの部屋のとある空間が、切り取られたように別の景色になっていた。
その向こうには、私達の宿屋で借りている部屋があった。
「うおおおおっ!? どうなってんだぁぁぁっ!!!」
「サクヤ様、これはいったいっ!?」
「これで脱出の件も解決だ。さてラムス、まだ無理だって言う?」
ラムスは転移ゲートの向こうの宿屋の部屋をしばらく見つめて考えていた。
しかし、やがて大きな唸り声をあげた。
「うおおおおおっ キタキタキタあああ!!! ついにオレ様が冒険者レベルを超え、国家レベルの真の英雄となる時が! 侵攻してきた帝国軍の総大将を討てば、王国でのオレ様の名声は不動のものとなるのだ!」
うんうん、やる気になってくれて嬉しい。
ぜひ英雄になって、他のターゲットの女の子たちにも会いに行ってね。
「それじゃ、みんな。朝までに計画を詰めるよ。完璧な形で計画を実行して生きて帰るんだ!」
「おおっ! 待ってろよザルバドネグザル!」
「みんながんばろうーっ!」
「あの……何でわたし、習ったこともない空間魔法が出来ちゃったのか説明して欲しいんですが……いえ、いいです」
そして翌日朝。
運命の降伏交渉が始まる。
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