104話 地下施設で這い寄る者【モミジ視点】
ウトバルド砦地下施設。
そこには巨大な地底空間が広がっていて、山賊には似つかわしくない大がかりかつ精緻な魔導具が据えられておったんや。
山賊共のゴタゴタが片づいたら、もちろんウチは調査開始。一通りの調査を終えると、調子にのって設備を自分好みに改造しまくっているのが現在や。
「ふぅ、こんなもんやな。さて。この魔導具ちゃんがウチの想定通り動くか、さっそくテストといこうやないか。テストついでにここらの死体も片づけられる。じつに効率的な実験やぁ!」
近くにある暗殺屋連中の死体を運ぶために、魔導具から出てそれらが散乱している場所に行ってみた。けど、そこには異変があった………いや、なかったんや。
「死体の数が足らん? いったいこれは?」
ここにはサクヤはんがいてこました暗殺屋集団の死体が計八体。そのはずやったが、そこには三体しかなかったんや。誰も来た様子ないはず……いや、作業で集中してたんやったな。しかし誰か来たんなら、ウチに声くらいかけるはずや。
「もしやこの暗殺者ども………」
その可能性を思いついた瞬間、首筋に答えが降ってきた。
――「動くな」
それが正解だったというように、いきなり背後から組まれ、首筋にナイフを当てられた。さらに周囲から四人の人影が音も無く実体となって現れおった。
後ろのナイフ野郎と合わせて計五人。消えた死体とピッタリ同じや。
「あんたら、死んでおらんかったんやな。たしかに死んだと思うたのに大したモンや」
ここらの死体は事前に錬金鑑定眼で調べて、確かに死亡と確認済み。それを潜り抜けたんやからホント大したもんや。
「けど、あっちのお仲間はん三人は生き返らんかったようやな。リスクある仮死術というわけや。死んだフリまでスキルあるんかい、暗殺集団はんは」
するとナイフが「ギリリ」と深く首元に食い込んだ。
「余計な詮索はするな。娘、こちらの質問にすべて答えられたなら生かして帰してやる」
なーに言ってんのや。暗殺稼業モンがそんな甘い始末のつけ方するわけないやろ。ま、今すぐ動かれても困るし合わせるけどな。
「わ、わかったわ。何でも答えるさかい、このナイフもうちっと離してくれんか。痛うてしゃべれんわ」
懇願しながらナイフをナデナデ。
「ナイフにさわるな。貴様に許された行動はこちらの質問に答えることだけだ。まず、金貨はどこだ。誰が持っている?」
金貨? ああ、たしかカバン一杯の金貨を手に入れたって、ラムスはんが上機嫌やったな。
「ラ、ラムスはんや! なんでも秘密の場所に隠しておく言うてたで」
「サクヤとやたら共に居る男か。して秘密の場所とはどこだ? 心当たりは?」
食いついてきたな。そろそろ行こかい。
「ああ、知ってる。知ってるで! ラムスはんは迂闊やさかいな。『秘密の場所』言うても、ウチにはバレバレや」
「余計な自慢はいい。さっさと言え」
うしろの暗殺屋はん、ますますナイフをウチの首元に深く食い込ませる。
それに合わせ、自ら首をナイフに押し付け前に飛び出す!
パキャアッ
乾いた音とともにナイフは簡単に砕け散った。
「「「「なっ!?」」」」
錬金魔法【物質変換術】
物質の性質を魔力によって変化させる錬金術師特有の魔法。
ナイフをいじくり回していた間に、その性質を脆いものへと変えておいたんや。
「ホイ、おみやげや!」
連中の一瞬生まれた心の隙を逃さず、素早く煙玉を出して地面に叩きつける。
モクモク煙が発生し、暗殺連中はそれに巻かれる。
ウチ特製の酸素を奪う性質をもった煙や。さすがの暗殺者連中も苦し気にうめき、煙ん中からよろめくように這い出る。
「逃がしてもらうで! バイバイきーん」
ノロマ連中を尻目に煙の範囲からすでに素早く離脱。さっきまで、いじくり回していた魔導具の方へと走ってゆく。
「オノレ逃がさん!」
暗殺屋共は素早く態勢を立て直すと、ウチの背中目がけて追ってくる。
ウチはというと、魔導具の真ん中を走りぬけ、その端にまで到達すると走るのをやめる。懐から実験用の小さな魔導具を取り出すと、制御盤に向ける。
「ポチッとな♡」
瞬間魔導具が起動。設備範囲内の地面が光ると、追いかけてきた暗殺屋集団はすべて消え失せた。
「うん、起動も早いわ。さて、座標は……あの辺りやったかな。極短距離転移実験の結果はどうやろな」
設定した座標のあたりに行ってみとると、やはりあいつらは居った。
岩の中にめり込み、苦し気なうめき声をあげている五人の暗殺集団や。
「どや。アンタらの魔導具、使わせてもろうたで。フム、意識あってしゃべれんのはアンタだけかい。嬉しいで、成果話せる相手が居てくれて。岩んなったヤツラに自慢しても虚しいだけやしなぁ」
感謝こめて奇跡的に頭が岩に飲み込まれんかったヤツの頭をナデナデ。体は岩と一体化し動かせそうにないけどな。
コイツ以外の暗殺屋は体全部が岩と一体化し、体の一部が露出するのみ。まだ生きてんのかは、調べな判別できんな。
「グクッ……なぜ高位技術で創られた次元転移魔導具を貴様ごときが扱える? これを理解できる者が、こんな場所にいるなどありえん!」
「おんなじのを見たことはあるんよ。アルザベール城の地下でな。城まるごと転移させるトンデモなシロモノやった。ウチら、そいつを起動させたお陰で別異世界に飛ばされたんよ」
この魔導具の正体は次元転移装置。とりあえずはここの世界のみの転移を実験するつもりやが、全開にすれば別世界にも転移可能なシロモノや。
「魔界帰りの者か。たしか錬金術師のモミジ!」
「そや。ま、魔界やないけどな。向こうの世界はオモロイもんぎょうさんあってな。コイツ使えば、また向こう世界に行けるかもと思うて、いろいろイジらせてもらったで」
「だ、だが制御盤からは離れていたはず。あの位置から起動など出来るはずがない! それに起動が早い。早過ぎる!」
「”リモコン”いう技術や。これも向こうじゃ珍しない技術やからオドロキやな。起動早いんは、向こうの技術組み込んでみたんや。”半導体”っちゅう名前らしいで」
ウチが買いあさった大型の機材なんかは持ってこれんかったけど、リュックにしまっておいたコレだけは持ってくることができた。この精緻なカラクリ、複製とか出来るんやろか。
「さて、いちお聞いとこか。こんな山奥の砦に転移陣とか何のために作ったんや。それにコレはタダの転移陣やない。異界につながるためのモンやな? これで何するつもりやった」
「…………さてな。所詮われらはここまで。ゴーメッツ様。何の成果も果たせず壊滅したこと、申し訳なくあります。どうか後の栄光を……」
そいつの首がガクリ落ちた。今度こそ人生終了。
「ま、そやろな。けど作動実験、生物影響実験、障害物内転移影響実験。まとめて出来ただけでヨシとしよか。さて、記録記録。偉大な功績は地道なデータ蓄積の先にあるんや」
さっそく記録用紙を持ってきて、暗殺屋おっちゃんらを調べはじめるウチなのであった。
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