103話 逆襲拠点
「ふうっ。どうにか解放した人達の食事は出し終わったし、寝床も決まったね」
山賊どもの備蓄食料を解放民に配り、消耗の激しい人や女性の方を優先的に戦闘員の寝床を使わせ、丈夫そうな人達は檻の中で寝てもらう。その作業が終了したのは夜遅くになった頃だった。
「お前はほとんど何もしなかったがな。ロミアといっしょに騒がれまくっていただけではないか」
ラムスは不満顔。リーダーになって食事を作ったり寝床を作ったり指示を出したりと大忙しだったラムスには恥ずかしいかぎりだ。
「しょうがないよ。ロミアちゃんは領主として、民に壮健な姿を見せて慰撫しなきゃなんないんだし。私は英雄視する人がやたら居るんだもの。しょうがないからロミアちゃんの護衛することにしたけどさ」
私を英雄視するファンみたいな人達に悪手や会話を求められるのは大変だった。なんでも、私が大扉を破壊して前庭に侵入し何十人もの戦闘員を斬りまくったシーンを、出荷前の檻から見ていたそうだ。
「くそう、羨ましい。オレ様もあんなキャーキャー騒がれたいぞ。吟遊詩人だとかいう奴に歌まで作られおって」
「カンベンしてよ。恥ずかしくってしょうがなかったよ。檻の方じゃまだその歌が鳴り響いてるし」
「ますます羨ましい! まったくクソ雑用させられながら、サクヤの英雄化を見せつけられまくったぞ。地獄のような時間だった。だいたいノエルはどうした⁉ こういうクソ雑用こそ奴隷の仕事であろうが!」
「ノエルは休んでもらっている。さすがに今夜は仕事をさせられないよ」
ロミアちゃんの命を救った一連の行動を考えると、とてもこれ以上の仕事はさせられない。
ロミアちゃんがナイフで胸を貫かれた瞬間、転移ゲートで回収。傷ついた心臓や肺の重要な器官を治癒魔法全力で修復。完全にキャパオーバーだ。
それでなくても、山賊どもに隠れて潜んで生活してた心労もあるだろうし。
「そう言えばモミジもいなかったぞ。アイツはどこ行った!」
「地下施設を調べてる。こんな場所にあれだけ大がかりな魔導具を何のために創ったのか調べないわけにはいかないから、しょうがないよ。よくあんな死体だらけのところに籠れるとも思うけど」
「ええいクソ! アイツらはどうでもいいが、オレ様も活躍して英雄になりたいぞ! どこかに手頃な民を苦しめる悪党でもいないものか。オレ様が華麗にサクッと退治して英雄となりたい!」
そりゃ民を苦しめる悪党はいるよ。ゴーメッツとかユリアーナとか。
けど「サクッ」と簡単に退治できないから、作戦を考えなきゃなんないんだよ。
「まぁ、今後に期待しようよ。そういう悪党と戦う機会はこれからもあるんだし。カバンいっぱいの金貨とか手に入ったんだし、いいことだってあったじゃない」
するとラムスは何故か苦虫を嚙み潰したような顔をした。
「あの金貨はなぁ、使えんのだ。貴族相手の高級店ですら使えん。【白鳳金貨】という、いわば貨幣であって貨幣でない、貨幣の形をした資産なのだ」
「白鳳金貨? なにそれ。貨幣であって貨幣じゃないって何?」
【白鳳金貨】
金貨を特殊な魔法技術で精製した特別な金貨である。普通の金貨が百万円くらいの価値であるのに対し、白鳳金貨は数千万円の価値がある。
使われるのは貴族の事業くらいであり、その所有数によって貴族や商人の信用格付けは変わるので、滅多に使用されることはない。
要するに現代世界の国が保有する金や米国債みたいな扱いらしい。
「まったく正気とは思えん。あんなものをカバンにつめて山賊と取引とは。山賊どもでは、あれが何なのか知っている奴などいないだろうに」
「私も知らなかったしね。で、それをどうする? 使えないんならリーレット家にあげちゃおうか。何かと交換で」
「そうだな………いや、もっと良い使い方がある。何のつもりか知らんが、ゴーメッツは見せ金としてアレを使った。当然、後で取り返す算段だったのだろう。殺し屋どもにクード・ガジェルを殺させた後にな。が、その算段は狂った」
「だから取り返しにくる? 来てほしいけど、本当に来るかな?」
「間違いなくな。あれだけの白鳳金貨を失ったのなら、成り上がりゴーメッツなぞ、ただの庶民の金持ちに過ぎなくなる。貴族の身分を守るためにも、なりふり構わず来る!」
「なら、それを期待して今夜は寝ようか。明日にも来るかもだし………ん?」
「どうしたサクヤ」
「シッ、黙って」
微かに馬が駆ける音が聞こえたような気がした。気配察知スキルで参道あたりの気配を探ってみると、やはりそれは来ている。
「…………騎馬が複数来る。マーセイアさんに知らせてから出よう」
来てほしくはあったが、今夜はやめてほしかった。とはいえ、こちらの都合に合わせて敵は来てくれない。むしろ悪いタイミングを狙って来るものだしな。
私たちはマーセイアさんの部屋に入ってそれを報告。その場にはなぜかリッツ君もいた。
「さすがですね。今、見張りをしていたリッツからも同様の報告がありました。ですが、それはもしかして彼のお方かもしれません」
ともかく前庭の大扉前に出て待ち構える。
やがてその騎馬隊が到着。敵対する様子でもなく、中の一騎が進み出た。
「その様子ではクード・ガジェル山賊団はすでに壊滅させたようですね。それもたった半日で。まさしく最高の冒険者にふさわしい活躍。さすがですサクヤ様」
ロミアちゃんがしかけた罠にハマッって、簡単に全滅しちゃったんだけどね。でも、さすがにこの人には言えない。
ロミアちゃんの危険で自死を前提にした策とか正直に話したら、ロミアちゃんの自由はほとんど無くなる。しかたないから私が凄いってことにしておこう。
「少し運が良かっただけですよ。お久しぶりです、レムサスさん。その騎馬隊は家臣団の従士隊ですか?」
「われわれ最後の従士騎馬隊25騎です。サクヤさま、あなたの帰還嬉しくあります」
リーレット家臣団筆頭のレムサス紋章官の到着。
領主と紋章官がそろったことで、このウトバルド砦はリーレット家の逆襲拠点となった。さぁ、ここからリーレット領を取り戻そうか。
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