101話 再会のノエル
いつもより千字増量サービス。
長い鍾乳洞の通路を抜けて地下施設とやらに来てみると、そこは広大な地下空間が広がっていた。その広さにも驚いたが、そこらに山賊団残党の死体が散らばっていたことにも驚いた。
「逃亡してきたが力尽きた、といった所か。同士討ちでもしたか。親玉のいなくなった盗賊団が、親玉がガメていたお宝をめぐって殺し合い。よくある話だな」
「いいや、この面は毒や。こんだけの人数殺れる毒あつかえるんは専門家や。つまり暗殺稼業モン相手にドンパチしたんや」
マズイな。万一ロミアちゃんがここに居たら巻き込まれたかもしれない。
「とにかくロミアちゃんの捜索をはじめよう。急いだ方がいいし、手分けして探そう」
北と東に大きく開けていたので、二手に分かれて探索。私は一人で残党どもが逃げてきたと思われる北の方角へと向かう。
散らばる力尽きた残党をたどっていくと、途中でまだ息のあるヤツを見つけた。しかも知っている男だ。
「ゲィリー・アーヴィンソン。リーレット包囲網破りで名高い悪党の英雄。そのアンタが、まさか逃げに失敗するとはね。なぜここに?」
大きな設備の見える丘の手前でゲィリーは大の字になって寝転がっていた。ところどころ出血しているので、負傷で動けなくなっているのだろう。
「……ああ、サクヤか。ったく、この俺ともあろう者がこのザマだ。まったく締まらねぇ。途中までは上手くいってたんだがな……」
なにかしらの企みでここに来た。だけど失敗して戦闘になったってところか。ざっとゲィリーの出血具合を見ても致命傷だ。先は無いだろう。
「そのケガじゃもう助からないね。『苦しんで死ね』と言いたいところだけど、トドメを刺すくらいの慈悲はあるよ。楽にしてほしい?」
「いらねぇよ。苦しんで死んでやるのがロミア・リーレットへの礼儀だろう。アイツの復讐劇の悪役が楽なんざしたら、劇が興ざめだ」
「ロミアちゃん!? ここに居るの! どこにいる!?」
「……さあな。この先のギルドの殺し屋どもが知ってんじゃねぇか? いちおう言っとくが、俺らを全滅させた手練れだぜ」
「そっか。礼を言う。あとは心置きなく苦しんで逝きなよ」
「ああ……最後にいい置き土産が出来たぜ。せいぜい剣王と遊びな、ゴーメッツの子飼いども……」
先を進んで大きな施設設備のあたりにたどり着く。そこにはゲィリーの言葉通り黒装束の『いかにも』な殺し屋っぽいヤツラがいた。
気配を殺して様子をうかがうと、どうも連中は仲間内で混乱しているみたいだ。怒号や罵声が飛び交って言い合っている。
ロミアちゃんの話題に集中。なにか言ってないか………
――「くそっ、もうリーレット伯爵の死体でもいい。葬儀を大々的にやり、ゴーメッツ男爵のリーレット領支配権を確立する。リーレット伯爵の骸はどこだ!」
「なにィ!?」
ロミアちゃんが………死んだ? そんな……そんなことって……
「噓をつくなああっ! お前たちの葬儀なら私が執行してやる!!!」
黒装束連中は「ギョッ」としたように突撃する私におののく。
コイツら、見た目アヤしく言うこともリーレットに良からぬ企みを為さんとする悪人そのもの。ならば遠慮は無用!
「ぐっ、剣王サクヤ? こんな時に!」
「怯むな! ここで倒すのだ。【ベルムト山の老人】の秘術すべてを使え!」
毒霧、針、幻惑魔法、変化術、操影術、なるほど。珍しい技のオンパレードだ。
「でも弱い! スキル【鴻翼烈風陣】!!」
剣術スキルで強風を巻き起こして圧迫。それらを一掃する。
「洗練された暗殺スキルの割に弱いね。本来の威力を出し切れていないみたい。さては消耗してるな? さっきまでがんばって骸を量産してたみたいだしね」
「ぐくっ……クズ山賊どもめ。どこまでも祟る!」
「そんな状態で、私と戦わないといけないなんて大変だ。せいぜい死力を尽くしなよ!」
「くっ、なぜだ? なぜ我らとあろう手練れが、クズどもと無益な争いをして、こんな事態に陥った? こんな下衆のような行いを…………」
なにやらひどく後悔してるみたいだけど、慈悲など無用!
やっぱりこっち世界じゃ、殺しにためらいがなくなってイイネ。
日本じゃなぜか魔人やゾンビにすら抵抗があったのに。空気の違いかね。
「アビャッ」「アベシッ」「ヒデブッ」「タワバッ」「ウワラバアアア……」
とは言え、話を聞かないとだから、殺しはしない。動けなくするにとどめておく。
「さて、お前ら。ロミア・リーレット伯爵のことで知っていることを吐いてもらう………って、全員死んでいる⁉ まさか秒で自決⁉」
これだから暗殺集団ってやつは!
人を殺す術に長けているだけあって、自決も簡単にするんだから!
「となると、もう一回ゲィリーに聞いてみるしかないか? 生きているといいけど」
――「死んでたぞ。それにロミアの行方ならヤツに聞くまでもない。オレ様らが見つけた」
「ラムス!?」
いつの間にかラムスが岩陰で私の戦いを観戦してた。
「ロミアちゃんがいたって? 無事なの?」
「無事かといえば………あんま無事ではないな。だから……むおおおっ、そこのカバンは?」
いきなり黒装束どもが持っていたカバンに飛びつく。
「うおおおっ、やっぱり金貨がギッシリではないか! オレ様の【お宝察知】スキルは感度良好!」
「大事な話を打ち切るな! 『ロミアちゃんが無事じゃない』って、どういうことなの!」
「う、うむ。ロミアは重傷だ。いまノエルが回復魔法でがんばっている。だから…………わはは、この量、たまらん!」
「ノエルだって!? あの子もいたの? 金貨なんか見てないでちゃんと話せ!」
「うむ、サクヤはまだ知らんのだったな。こっちはちと難儀になっていてな、忘れてた……ぐふふ、この金貨の輝きにはすべてを忘れそうだ」
ノエルとロミアちゃんの居場所まで忘れられたら困るので、カバンは私が没収。
渋々なラムスに連れられた場所は、さっきの設備の場所とは違って灯りのない、かなり暗い岩場の陰だった。
そこの一点、魔石ランプが煌々と輝く場所には本当にノエルがいた。特徴的なモコモコ髪が懐かしい。ついでにモミジも居る。
だけど再会の喜びよりも、その二人の下の地面に横たわった彼女に目が釘付けになった。ノエルとモミジは必死になって彼女を治療している最中みたいだ。
「あれは……まさかロミアちゃん!?」
彼女の着ているドレスは血まみれ。あの出血量はかなり危険だ!
「状況はわからんが、とにかくロミアは重傷らしくてな。見つけた時はノエルがふんばって回復魔法をかけている最中だった。そしてモミジはその手伝いに入ったのだ」
「いったい……どういうこと? なんでどうしてロミアちゃんがこんな事に!」
ロミアちゃんはリーレットに巣食う悪党どもにとって大事な商品のはず。だから彼女が害される可能性だけは無いと思っていた。それなのに!
「さあな。後でノエルに聞いてみればよかろう。しかし今は理由よりもここを守るのみだ。生き残りが報復に這いよって来ないとも限らん。オレ様の金貨が狙われるやもしれん」
「そ、そうだね。ヨシッ、守るぞ! でも金貨は自分で守って」
治療に役立たずな脳筋は肉壁になるのみだ。あの二人のスキルもチート。
きっとロミアちゃんを助けてくれるはずだ!
そして一時間後。
「ふいいーっ、ようやっと息吹き返したで。まったく、あの状態からよう蘇生できたわ」
「モミジさんが来てくれなかったら危ないところでした。まさか血液を増やすことが出来たなんて」
「錬金スキルにはそういうのもあったんよ。【栄光の剣王】はこんな重傷することなんてあらへんかったから、使う機会なんて無かったけどな」
やった! ロミアちゃんは助かったみたいだ。これでやっとノエルから事情を聞ける!
「二人ともお疲れさま。ノエル、久しぶりだね。ようやく帰ってこられたよ」
「サクヤさまぁー!!」
私を見るなり胸に飛び込んでくるノエル。うん、本当に心配かけたね。
「ノエル。それで聞きたいんだけど、どうして……ムグッ⁉」
チュッチュッチュッ…………
やれやれ。こんな激しいキスする口からじゃ、とても事情を聞けないよ。
もしかして一回ディープなラヴしてからじゃないと話が聞けない?
いやでもしかし、こんな野外でそんなハレンチなこと………
いやでもしかし、ノエルとはずいぶんシてないし………
いや! 否否否否否!!!
「エッチは唯一私ができる医療行為。私と引き離されて孤独の荒野をさまよったノエルの心を救うため! なにを恥ずかしむことがあろう、感動の抱擁を!!」
指をワキワキ。エロテク砲装填完了。
飛び出そう、情欲の海へ! 愛のため獣となれ!!
たとえいきなりロミアちゃんが目覚めようとも!!!
「……そうか。モミジ、行くぞ。アイツら、アオカンがしたいそうだ」
ああっ! ラムス!?
ちがう、誤解なんだ! 人をそんなレズ魔人見るみたいな目で見ないで!!
「せやな。ここは久しぶりのノエルに花持たせましょ」
あきれた風に背中を向け、モミジと連れ立つラムス。それを切なく見送る私。
ああ……そういえば私の女遍歴を一番見てきたのって、ラムスだったな………
どうしてそんなラムスに、こんな気持ち抱いちゃったんだろう…………
「サクヤさまぁ、会いたかった。すごく会いたかったですぅ!!」
ええい、今はとにかく状況に流されるのみ!
ヤケクソになって強くノエルを抱きしめる私なのであった。
いつも読んでくださりありがとうございます。
この話を読んで『面白い』と思った方は↓の★★★★★をポチッとやって応援してください!
ブクマや感想もお待ちしています!




