98話 魔法狙撃手
クード・ガジェル山賊団のアジトは想像してたよりも遠くはなかった。
ここらの地域を平定したときに建てた【ウトバルド砦】。その砦を勝手に占拠し改修したのが、そのアジトだった。
それを見上げる参道手前の木陰で待っていると、昼頃に馬に乗ったラムスがやってきた。そこでリーレット家臣団が進めているロミアちゃん救出作戦の概要を知ったのだった。
「ふぅん。つまりもうすでに、中にはロミアちゃんを保護する人員は潜入してるのか。そこで機をうかがっているんだね」
「そうだ。そしてその機はオレ様たちの襲撃だ。この人数で行くなら、夜を待ちたいところだがな」
「そうもいかないよ。少し前、大きな籠を乗せた馬車が何台も砦に入っていくのを見たんだ。あれは商品を受け取りに来た人身売買ギルド。モミジとマーセイアさんは売られちゃうから動かざるを得ない。となれば早く”機”を作ってあげないと」
ロミアちゃんを救出する人員が中にいるなら、ためらう理由はないしね。
せいぜいハデに暴れて、モミジたちを動きやすくしてあげよう。
「ならば行くか。その前に………ゴクッゴクッ」
ラムスは腰の水筒から水を飲み始めた。そしてそれを私に差し出す。
「サクヤ、お前も飲んでおけ。さすがにお前の水筒は切れているだろう」
たしかに昨夜は走りっぱなしで、私の水筒の水は無くなっている。だから喉も渇いている。でも…………
「う、うん。じゃあ一口だけ」
妙にラムスの口をつけたこの水筒を意識してしまう。
今までこんなことは無かったのに。
クエスト前の緊張で、ラムスに感じている想いは鈍くなっている。
けれど、ふとした瞬間に浮かび上がって、恥ずかしくなってしまう。うう……
ダメだダメだ。今は恋心なんか発熱してる場合じゃない。
ロミアちゃんを助ける事に集中だ。ゴクゴクッ。
「さてと……突撃をかけるぞ。準備はいいか?」
「いつでも。ラムスは私の指示通りに馬を操って」
ラムスの乗った馬に、私はラムスの後ろで足を乗せた中腰の状態で乗る。
防衛線突破の強襲態勢だ。敵の防衛線に切り込む!
「そらッ行けェ!」
「ピシリッ」強めに鞭が入ると、馬は猛烈なイキオイで走り出す。
私はいつでも飛び出せる態勢で殺気の気配を読む。
さてと、敵の防衛線が動くのはいつかな?……………もうすでに!?
「ラムス、右に切って! 敵だ!!」
「なにィ!? まだ何も見えんぞ!!」
砦正面大扉前百メートルほど。敵の姿はまだ見えない。
それでも、ラムスは私の言う通りに馬を大きく右に旋回させる。
私は旋回に合わせ、馬から正面に飛び出し、背中からメガデスを引き抜く。
見えずとも感じた。正面上から高速で一直線に飛んでくる礫のような魔力を。
「スキル【燕返し!】」
――――バシュウウウッ
高速迎撃スキルで消滅させる。
威力も高い。こんな狙撃のような魔法を扱える奴がいるのか。
現代のクエストで銃撃戦を経験しといて良かった。
「ラムスはそのまま後退! 私はこいつを倒す!」
私はそのまま全力で真正面に走り出す。
こうすれば後退するラムスより、正面突破をはかる私の方を狙わざるを得まい。
ダダダッ ダダダダダダッ…………
今度は散弾のような無数の魔力礫が襲う。
されど魔力は小さい。威力も弱いと見た。ならば………
「スキル【犀鎧硬】!」
プロテクションスキルを飛躍的に増大させ、散弾の魔力礫を耐えて凌ぐ。
やっぱり本物ライフルのセミオートほどの威力はないな。
やがて魔力礫は静まり、攻撃は完全に止んだ。
だけど敵はあきらめたわけじゃない。
おそらく次は最大威力。それを放つ隙をうかがっている。
ならば、その隙を作ってあげよう。
メガデスを背中の鞘にしまい、無防備に砦正面へ歩む。歩んでゆく。
静かだ。私の足音だけが無音の空間に響く。
されど、私を狙う気配と緊張だけはうるさいほど感じる。
これだけ無防備でも攻撃が来ない。敵はさらに大きな隙をうかがっている。
やがて砦正面大扉前。大きな門扉が私を阻む。
私はふたたびメガデスを抜き、ふりかぶってその大扉を…………
―――バシュウウッ
来た!
メガデスを振り下ろしたものの、何も斬っていない。
これはブラフ。力も腰もまったく入れてない空打ちスラッシュだ。
狙い通り! 振り下ろした瞬間を狙ってきた。
即座にメガデスを返し、襲い来る魔力礫に合わせる。
「スキル【反動大切斬】!!!」
剣術レベル10の最大奥義。敵の放出系攻撃を吸収し刃に変えて放つスキル。
反射した魔力は魔力刃となって、来た方向へ逆一直線に狙撃手の元へ。
ドシュウンッ!
城郭の一角へ針のような魔力刃は突き刺さった。
さっきまでスルドイ殺気を放っていた狙撃手の気配は完全に消えた。
……そうか。これがラムスの言っていた『その場におらずとも対象を抹殺する術』か。たしかに狙撃を知らなければ……いや知っていたとしても、どうしようもない術だな。
「私以外ならね」
にわかに砦が騒がしくなり、矢がパラパラと飛んでくる。
それらを軽くさばきながら、大声でラムスを呼んだ。
「ラムス! 来ていいよ。こっからは普通の敵だ!」
それを合図に、後方からけたたましく蹄の音が響く。
さぁて。まずはこの大扉に訪問のノックでもしようか。
「もしもーし。スキル【普通の大切斬】!!」
ドッゴオオオオ……
降り注ぐ矢ごと大扉を豪快に吹き飛ばした。
中は、そびえたつ立派な城のように軍事改造された砦。
その前庭には何台もの籠のついた馬車が並んでおり、そこに何人もの人間が動物のように入れられていた。
「すごい光景だね。リーレットの人達を好き放題にさらってお金にかえようってわけか」
前庭にはすでに大勢の戦闘員どもが待ち構えていて、剣や槍を構えて襲ってくる。
ここらで山賊どもに意趣返しでもさせてもらおうか。
「これが、リーレットを踏み荒らされた私の叫びだああっ!!」
戦闘員どもをメガデスの薙ぎ一閃で吹き飛ばし、クード・ガジェル山賊団に私流の宣戦布告をした。
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