95話 特攻隊長ゲィリー
「嫌や嫌やああっ! はなしてぇ!」
ジタバタジタバタ
「おとなしくしろっす! 俺っちを舐めるとコワイっすよ!」
モミジはクライブさんんとリッツ君に捕らえられながらもがいている。
うん、みんな名演技だ。
私は十分な距離をとって木陰に隠れながら、それを眺めている。
やがて平原の草地にいる武装した剣呑そうな三人の男達の元にたどり着く。
その場には馬と大きな籠がついた馬車がとまっている。あの籠にさらった人を入れるんだね。そんな専用車をもっているなんて、さすが大山賊団。
「よォ帰ってきたか。しかしお前ら二人だけか? 残りの連中はどうしたよ」
「はい。護衛付きの女二人組を狙ったんですが、その護衛の男がやけに強くて、みんな斬られてしまいました。ですが僕らだけは隙をついて、女を一人だけさらって逃げてきたんです」
「ヒャハハハやるなァ。逃げるだけならともかく、その状況でもエモノを奪ってこれるなんざ大したモンだ」
「光栄です特攻隊長」
あの陽気な男がスルドイ特攻隊長か。
冒険者の軽装にカウボーイハットをイキに被ったちょいイケオジな男だ。
「あのガキどもは期待はずれだったが、まぁいい。お前が少しは目端のきくヤツラだと知れただけで収穫だ」
「ありがとうございまっす特攻隊長!」
イケオジはクライブさんの肩を親し気に叩く。
よしよし幹部に気に入られたぞ。これで二人の潜入はバッチリだ。
――ザグウウウッ
「――なッ!?」
だがその特攻隊長、いきなりクライブさんの肩を短剣で突き刺した。
「な、なにを? 特攻隊長!」
「まぁ、そいつのしゃべり方がちょいとムカつくってのもあるが……それだけじゃあないんだよなぁ」
その短剣を「ビシッ」と私の潜んでいる方向へと向ける!?
「お前ら、つけられてんじゃあねぇか! オレの【気配察知】にビンビン見られている感じがするぜぇ」
なにィ!!? 私のことを知られた?
【気配察知】スキルは長年モンスター狩りやっていれば、それなりに身に付くスキル。珍しくはないけど。
でも、この距離で潜む私を察知するなんて、かなりの高レベルだ!
「さああっ、出てこいよ! コイツラ、殺しちゃうぜえ?」
特攻隊長はクライブさんを足蹴にし、リッツ君に短剣を突きつける。
二人の取り巻きはこちらを向いて戦闘態勢をとるも、とまどっている。
「ゲィリー、本当に居るのか? それらしいのは見えねーぞ」
「ゲィリーの【気配察知】スキルは目視できない距離でもわかるんだ。油断するな!
糞っ! バレたらしょうがない。作戦を潜入から制圧に変更だ。ヤツラを締め上げてやる!
と、思って動こうとしたその時だ。モミジはリッツ君の手を振りほどいて、私の方と反対方向に走り出す。
「わあああっ! 嫌や嫌や! 誰か助けてぇ!」
「チッ、逃げてんじゃねぇ!」
「ゲシィ」と特攻隊長に激しく蹴りを入れられ、倒れるモミジ。
「さて、今ので来るか…………ありゃ?」
「どうしたゲィリー?」
「いや、気配が消えやがった。ビビッて逃げたか? ま、コイツらが仲間って可能性も考えたが……コイツらが間抜けなだけだったらしいなぁ」
「とにかくヤバくなる前に、さっさとズラかろうぜ。明日の仕事前に面倒はごめんだ」
「おい、お前ら。女を籠に入れろ。そのまま籠の中で見張りをしてろ。そっちのヤツ、ケガの程度は低いんだろうな。使えなくなったなら捨ててくぜ」
「だ、大丈夫っす。ゲィリーさんが浅く突いてくれたっすから、問題ないっす。リッツ君、早く女を籠に」
「え、ええ。籠の中で手当てしますので、待っててください」
山賊の一団はすぐさま出発した。
◇◇◇◇
「ふうっ。どうやら、やりすごせたか。モミジ、マジ感謝」
モミジが逃げ出したのを機に、私は遠ざかることを決断した。
モミジたちが殺される危険性はあったものの、出ていけば圧倒的不利。モミジたちは人質にされ、潜入作戦も失敗してロミアちゃんを助けることは出来なくなってしまう。
ゆえにイチかバチか遠ざかって逃げ出した風をよそおう事にしたのだ。
「しかし高レベルの気配察知スキル持ち。厄介だな、ゲィリーとかいう奴」
自分で使う分には便利なだけに、相手も持っているとそれだけ手強いんだよね。
たしか前に、そんな盗賊がいたっけ。あれだけの包囲網を敷いたにも関わらず、結局捕まえられなくて…………あ。
「そうか、ゲィリー! あの特攻隊長はアイツか。たしか名前は【ゲィリー・アーヴィンソン】! リーレットに帰ってきたのか」
かつて前の領主様が生きていたころ、【栄光の剣王】が唯一果たせなかったクエストがあった。相手は高レベルモンスターとかではなく人間の盗賊。
リーレットで悪名高い盗賊団の捕縛を命ぜられた私達は、そいつらを追ったが高レベルの【気配察知】スキルを持った奴がいたせいで、毎度逃げられてしまっていた。
ついには領兵や冒険者総出で大規模包囲網を敷き山狩りをしたが、手下は捕えても首領ゲィリー・アーヴィンソンだけは捕まえられず、リーレットから逃げられてしまったのだ。
「ヤツのいるアジトからロミアちゃんを助けなきゃなんないのか。タフなミッションだ。でも、やるしかない!」
すぐさま連中の進んだ方向へ向かって駆けだす。
距離が大きく離れている馬車を追うのは大変だが、私にとっては不可能ではない。
連中の進んだ方向に進みながら、途中【気配察知】スキルを最大感度で感じれば、馬車の進んでいる方向はわかる。
そして方向がわかれば、馬車が通れない木々の間を飛び越えてショートカットが出来るのだ。
「待っていろゲィリー・アーヴィンソン! あの時とは違う。経験を積んだ今の私から逃げられると思うな!」
途中ラムスへの目印として木の枝を切り、岩を粉砕しながら進んでいったのだった。
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