94話 クード・ガジェル山賊団
ともかくロミアちゃんの名前が出た以上、ガセであろうとも話を聞かないわけにはいかない。
クライブさんと彼の同志とかいう他一名の男の子以外のヤツラを適当にブッ叩いて気絶させた後、場所を道端の大木の陰に移して、彼ら二人を囲む。
「お久しぶりっす、ラムスさんにサクヤさん。魔界送りになって永久に帰ってこれないって聞きましたけど、こんなに早く帰ってこれたんすね。さすが世界最強の英雄!」
「あなた方が伝説の冒険者パーティー【栄光の剣王】のみなさん! お会いできて光栄です! 僕はクライブさんの後輩従士のリッツと言います」
と、栗色髪のあどけない男の子はキラキラした目で私を見ながら言うけどさ。
この子、本当に従士なのかなぁ。街道で人さらいとか、それを取り締まるのが従士の仕事なのに、逆にやっていたし。
「まだ従士を名乗るか。街道で女さらいをするなど、領主の家臣がすることとは思えんな」
「これはレムサス紋章官から言い渡された任務なんです。本当に!」
「そうっす! ご領主ロミア様をさらった【クード・ガジェル山賊団】に潜入するためのヨゴレ仕事なんす!」
「なんだって?」
【クード・ガジェル山賊団】
主な収入源は人さらいと奴隷密売。リーレット領領主の襲撃と誘拐にも成功し、メフトクリフ村放棄の際には三百人もの村民をさらったという。
元は十人くらいの犯罪者の集まりだったが、リーレット領の衰退とともに組織は拡大。今では二百人もの戦闘員をかかえ、扱う奴隷は千人規模にもなった。
以上、リーレット家臣団の調査より。
「…………大きくなりすぎじゃない? いくらリーレット家が衰退したからって、まだそんなに期間はたっていないでしょ?」
「それがどうやら大きな支援者を得て資金や設備なんかを貰って大きくなったみたいっす。食えなくなった冒険者なんかも取り込んで、今じゃリーレット第二の権力になってるっす」
犯罪組織なんかに投資するヤツがいるの? ハッ! そうか、これもドルトラルのやり方にそっくりだね。ってことは、その支援者はやっぱりユリアーナか。
「フン、だがロミアはまだそのクソ山賊団にいるのか? アイツが奴隷なんぞになったら、とっくに高値で売れているだろう」
「たしかにご領主様がさらわれたのは一ヶ月半ほど前。普通ならとっくにどこかへ売られてるっすが、奇跡的な事情が重なって、まだ山賊団に居るっす」
「ご領主様はその美貌と仕草で、裏の世界でも引く手あまたなんです。その値段は天井知らずに上がっています。ですが後ろ盾もご領主様の身柄を欲しがっているようなんです。けど、そちらはそこまでの買い値はつけられない。だから……」
「なるほど。ロミアちゃんをめぐって盗賊団と支援者が対立しちゃったのか。さすがロミアちゃん」
その引く手あまたと何度エロゲイベントを起こしてきたことか。ぐふふ。
「んで、さっきのはその大山賊団のお仕事っちゅうわけかい。しっかし大山賊団にしちゃお粗末すぎひん?」
だよねぇ。そこらのゴロツキみたいだった。
それなりの腕の冒険者が護衛についてれば、簡単に撃退してたと思うよ。
「あれは試験っす。クード・ガジェル山賊団に入団するための」
「僕たちだけでエモノを獲ってくるんです。これで収穫があったら入団だったんですが…………失敗ですね」
うーん失敗はマズイ。ロミアちゃんに繋がる手がかりが途切れてしまう。
ならばここは手を貸して試験を合格させるのみ!
「よし、私が君たちのエモノになろう。私をさらった事にして、めでたく入団だ!」
「やめろバカ。自分を客観的に見れんのか」
「そやで。こんなときに旅芸人みたいなボケかましーな」
即座にラムスとモミジからツッコミがはいった。
どうして? 私じゃ奴隷売買の売り物にもならないって言うの?
「サクヤ。お前、世界最高の冒険者の称号であるアダマンタイト級持ちだろう。しかもこのリーレットは地元。お前を知らん奴がいると思うか」
あ。
「それにサクヤはん、いろんなハイレベルモンスター倒してきたせいで”凄み”みたいなもんが微かにあるで。それなりの目利きなら、この兄ちゃんどもに手に負えんことくらい見抜くと思うで」
ガーーン! 女の子としての私が泣いている。
「そうです! 試験を仕切っている特攻隊長は、すごくスルドイんです。サクヤさんのことを知らないなんてないと思いますよ」
盗賊なんかも、けっこう捕まえてきたしな。私にオトリ役は無理か。
「しゃーない。ウチがエモノになるで。ウチも【栄光の剣王】だったとはいえ、リーレットで仕事したことないしな。ちょい演技も自信あんで」
「それなら任務続行できるっすね。あ、でも他の仲間はみんな倒されてるし。俺とリッツ君だけでエモノを獲ったというのは、無理あるんじゃないっすかね?」
「こういうシナリオや。アンタら悪党仲間は街道を通る護衛つきの二人組オンナを狙って襲撃かけた。けど護衛のオトコが強うて、仲間はみんな斬られてもうた。アンタらだけは隙をついて、オンナを一人だけさらって逃げた」
「いいね、それで行こう。じゃ、君達。その特攻隊長の所へモミジを連れて行くんだ。ちゃんと悪党っぽいイキリとかも言って気に入られなよ」
この二人、見た目ホントに頼りないからね。この二人に潜入任務させるとか、リーレット家臣団はかなり人材難になっているよね。
「んで、モミジはオトリになるとして、オレ様たちはどうする。そいつらの後をつけるか?」
「それは私だけでやる。私なら向こうが馬に乗って引き離されても、気配を追ってつけられるからね。ラムスはアンブロシアに行ってレムサスさんに手勢を出してもらって」
「オレ様も行って山賊どもを全滅させた方が早くないか? 家臣団の応援なぞいらんだろう」
「全滅させても、ロミアちゃんの安全が確保できなきゃ失敗だよ。ロミアちゃんを保護する手は別にほしい。道中には目印をつけておくから、それを追って来て」
そうして作戦開始。
クライブさんとリッツ君はモミジを両脇から腕をつかんで連れてゆく。
うん、ちっちゃいモミジなら二人だけで捕まえたというのも無理なくていいな。
それにしても手がかりになる情報を探しに出てきたのに、いきなり奪還作戦開始まで行けちゃったよ。ツイてる。
待っててロミアちゃん。助けたら、また新たなエロゲイベントを追加しよう。
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