92話 リーレットの悲劇
二階の会議所にまでもどり、そこに残された椅子にそれぞれが座った。ギルド長ギーヴが最奥のいつもの自分の椅子に座ると話がはじ……まらなかった。
「さて、話す前に情報料をいただこうか」
開口一番、強面やり手のギルド長らしいお言葉で始まった。
いや、そう来ましたか。どこまでも仕事とお金にキビしいギルド長で変わってなくて安心したけど、お金の話は困ったね。
「なにィ!? ふざけるな! こんな状況で欲を張っている場合か!」
「リーレットに何が起こったか。こいつは政治の裏話まで話さなきゃならねぇ。プロとしてタダというワケにはいかんな」
「ぐぬぬウッ、金などない! 向こうに全財産置いてきたままだ!」
「そうかい。だったら…………」
「あーギルド長さん。金はないけどな。いちおう、さっき討伐した高額っぽいモンスターの討伐素材ならあるで。コイツは情報料にならんか?」
モミジはカバンから森で私が倒したモンスターの素材を取り出した。巨大な目玉と牙、それに腹部にあった巨大な魔石だ。
本当にお金に備えるモミジの性質は頼もしいな。ここで詰むところだったよ。
「コイツは………【ムカデルゲ】の素材か!? 倒したのか、アレを!」
「サクヤはん一人でな。ウチやラムスはんじゃ、ちょっと手ェ出せんかった」
「そりゃ、ウチの若ェのが束んなってもエサにしかならねぇって怪物だからな。アダマンタイト級は看板だけじゃねぇってか」
ギーヴさんは素材を信じられないといった風にシゲシゲと見つめる。
「おい、モミジ。こんな状況で買い取りなぞやっているワケがなかろう。オヤジ一人で素材なんぞどうするというのだ」
あ、そうか。やっぱり詰んだか?
「いや、話す」
「はぁ? こんな状況でもこれを卸せる場所があるのか? さすがの顔の広さだな」
「金が欲しいワケじゃねぇ。さっきのは『情報の代わりに仕事してくれ』って流れにするつもりだった。だが、サクヤの腕を見込んで頼むことにした。頼む、ロミア様とリーレットを救ってくれ。礼なら後でたっぷりする」
「ロミアちゃんは身内だし、リーレットは私の第二の故郷だ。礼だのクエスト料だのいらない。自分の意思で進んでやる!」
「よく言った。いいぜ、全部話してやる。事のはじめは、ハージマルの森に今まで確認されたことのなかった強力なモンスターが出てきやがったことだ。いきなりな」
何体ものその強力なモンスターによって、ハージマル大森林は危険地帯となってしまった。リーレットの冒険者では倒すことは出来ず、領兵は廃止されてしまったため、それを狩ることは難しいことになってしまった。
「領兵は国軍に組み入れられたんで、国王陛下に出兵を陳情しなきゃいけないんですよね。しなかったんですか?」
「まぁ使者は出したんだがな。どうにも、のらくら引き延ばされるばかりで、兵なんざ出してくれやしねェ。同時期にお前さんらに帰領を促す使者も出したんだが、罠にハメられ魔界へ送られちまったとか」
本当に私たち、ハメられてばかりだな。アルザベール城の財宝とやらもユリアーナが持っていたらしいし、あの最悪の城に誘導されてたのか。
「んで、仕方なくロミア様は国王陛下へ兵を出していただけるよう直訴しに王都へ向かったんだがな。道中、盗賊団に襲われ、さらわれた」
―――!!!
「領主不在のため王都から領主代理が派遣されたんだがな。そいつは高い税金をとるばかりで、問題を一つも解決しやがらねぇ。どうやら国王陛下の大規模な遠征の費用をまかなうためらしいが、迷惑なこった。他国にちょっかいかけるより、自国のモンスター片づけろってんだ」
領主代理になっても、結局モンスター討伐の兵も出してもらえなかったそうだ。そしてモンスター被害に耐えきれず、村を放棄する事態にまでなったそうな。
本当にクズな為政者が上に立つと、下の民は悲惨だな。
「そうだ、アルザベール城遠征の残りはどうなったか知っていますか? アーシェラとノエル、ゼイアードなんですが」
「そっちの情報は入ってねぇな。ロミア様が問い合わせてたみてぇだから、ロミア様なら何か知ってるかもしれんが」
ああ、興味なくて調べなかったのか。それは別口で調べよう。
しばし皆沈黙。リーレットは想像以上にヤバイ惨状になっていた。ギーヴさんの情報をそれぞれが考えている。先に考えが言葉に出たのはラムスだった。
「しかし似ているな、ドルトラルが暗躍していた時に。あの時も【虎ゴーン】なんて、このあたりには居ないはずのモンスターが出てきおった。それはドルトラルが放って敵国を混乱させる策略だったな」
「ふん、気づいたか。ラムス、お前さん案外スルドイな」
「なんや、コレは策略だって言うんか? あの激つよモンスターは誰かが放ったモンやと? どっから引っ張ってきたんや。それにヤツラ、とても虎ゴーンみたいに調教できるモンとは思えんで」
「そこがネックなんだよな。しかし一連の流れで短い間にリーレットは国王様のモンになっちまった。どうにもこの流れに謀略のニオイがするんだよな」
でも、あんな見たこともない撃つよモンスターをどこからか連れてくるなんて、人間にはとても…………あ、出来そうな奴がいた。
「ギーヴさん。その嗅覚は間違っていないですよ。あのモンスターはおそらく魔界から連れて来た魔物。そして魔界の魔物を呼ぶことの出来そうなヤツが王都にはいます」
「魔界からやって? ちゅうことは、まさか…………」
「お、おい、アイツか? ……いや、たしかにアイツしか考えられんな」
「な、なんだ魔界の魔物とかぶっそうな。…………ハッ! そういや国王様の側には………」
「そうです、ユリアーナ! 滅んだドルトラル帝国より来た元王妃にして魔人王ザルバドネグザルの元配下! アイツなら魔界の魔物も連れてくることが可能でしょう。アイツこそが一連の策略を描いたんです!」
「な、なんだとぉーー!!!」
やってくれたな、ユリアーナ!
私をリーレットから引き離し、その隙にリーレットを陥れて手中にする策略をしかけるとは!
このままではすまさない。ロミアちゃんもノエルもアーシェラも助けて、その地位から引きずり落としてやるからな!




