20話 ヒソカな決意
とにかく、詳しい話を聞かなきゃ話にならない。
私達は厳重警戒になっている領都の門へと向かった。
城門は封鎖中だったが、そこの衛兵がクライブさんの知り合いだったらしい。
大して手間取らずにはいれることになった。
「ようクライブ。『お役目ごくろうさん』と迎えてやりたかったが、大変なことになっちまったよ。もう少ししたら帝国の奴らがやってきて、この街は包囲されちまう」
「帝国が攻めてきてもう負けちまったなんて聞いたが、マジかよ!」
「悪いが門番の仕事は、今ヤバげに忙しい。話ならメイヤー街ででも聞いてくれ。さっさと行ってくれ。もし上の方の方針を聞けたら、教えてくれよ」
私達は少しでも状況を聞いておくため、衛兵の言う通りにメイヤー街へ行った。
そこは衛兵の家族が集う街で、クライブさんの家族もそこにいるそうだ。
そこに住む人達は気のいい人ばかりだそうだが、今そこは悲嘆に沈んだ人達と、せわしく夜逃げの準備をする人達でカオスになっていた。
「ああ、クライブ。あんた運が良かったね。こっちはウチの人も息子もバケモノに食われてねぇ。ううっ」
「おおい、その馬車売ってくれ! 金はいい値で払う!」
「くそっ、もう野営用具が値上げしてるぜ! 財産吐き出さなきゃ買えやしねぇぜ!」
こんな感じで、詳しく話をしてくれるような人は皆無だった。
「話なんざ、もういいんじゃないか? 街の様子で、だいたいのことは分かったし」
「そうだね。とにかくギルドに行ってクエスト完了の報告をしよっか」
「あーすいません、こっからは【栄光の剣王】のみなさんだけで行ってもらえませんか。俺の家族が心配だし」
「え? クライブさんも上に報告とかあるんじゃ?」
「いえ、そうなんですが……やっぱ一刻も早く家族の元に行きたいっていうか……」
何やら挙動不審なクライブさん。
そんな彼に、ラムスはニヤリと嗤って顔を近づけた。
「ははぁクライブ。お前、このまま家族と逃げるつもりだな。で、そのために馬車を持ち逃げしようと。これは領軍のものだろう」
「ドキッ! そそそ、そんなことは……」
「問答無用! お前はここに残ってもいいが、馬車は渡さん! この中には、オレ様らの虎ゴーンやフレスベルクからとった高級素材もあるんだからな」
「わ、わかりましたぁ。お気をつけて」
というわけで、クライブさんを残してキルドへと向かった。
しかし、やはりギルドも大混乱で、ギルマスのギーヴさんも大忙しだった。
「よぉ、街の包囲前に戻ってこれたのは運が良いのか悪いのか。万一お前らが戻ってきたら領主館の方によこしてくれと言われている。行ってやんな」
「はぁ。私達に何の用でしょうね」
「ま、逃げるにしても腕利きの護衛は必要ってことかもな。お前らの腕なら、領主様の家からいくらでも引っ張れるだろうよ。上手くやんな」
なんかそれって、領主様や領の不幸につけこむみたいで嫌だなぁ。
みんなが、それぞれ生きるのに必死なこの世界じゃ、そんな感傷を持つ余裕なんてないんだろうけど。
ともかくロミアちゃんが心配だ。
呼ばれているなら、領主館へ行こう。
◇ ◇ ◇
領主館へ赴き、そこで迎えてくれたのはレムサスさん。
領主になったロミアちゃんに代わり、差配を執っているらしい。
「ようこそいらっしゃいました。このタイミングで【栄光の剣王】が帰っていただけたことは、不幸中の幸いです」
「レムサスさん。ここに来る間、何が起こったのかはだいたい聞きました。それで、領主様がお亡くなりになった今、みなさんは、そしてロミア様はどうなさるつもりです?」
「降伏しかないでしょう。籠城したとて、結果は見えております。帝国の総兵数は五万。加えて、わが領軍の兵士を食い尽くした魔界の魔物までおります」
住民一万そこそこに対して圧倒的すぎる兵力だね。
その魔界の魔物ってのも、多分ラストバトル直前あたりに出てくる汎用モンスター。
現段階じゃ私には勝てないヤツだ。
「ふん、もはや敗残処理の段階か。つまらん。サクヤ、ノエル、行くぞ。さっさとこの領を出て、別の街にでも行くのだ」
「お待ちください。現当主となられたロミア様ですが、降伏に同意していただけないのです。このままでは帝国との交渉もままならず、いたずらに領民に犠牲を強いることになりかねません」
かまわず出て行こうするラムスの服を引っ張りながら、レムサスさんの話を聞く。
「ロミア様が……そうですか。それで私達にどうして欲しいと?」
「正確には、サクヤ様のみです。もし【栄光の剣王】が戻られたならサクヤ様のみを自分の元へ来させるよう、ロミア様から仰せつかっております」
「私を? 何故ですか?」
「さぁ。前にサクヤ様と会話なされた時に、何か感じるものがあったのかもしれません。なのでサクヤ様。ロミア様に降伏交渉の場に行かれるよう説得をお願いしたいのです」
「それは……しかし……」
「ドルトラル帝国遠征軍司令官のザルバドネグザル元帥は、降伏し街を開城すれば、帝国軍は領都内の民を虐殺したり奴隷に売ったりしないことを約束しています。であるなら、領民のために降伏をすることこそ、領主の務めでありましょう」
「信じるのですか? その約束を」
「その約束を真実にするために、交渉の席に座るのです。どうかサクヤ様、ロミア様の説得を」
まぁ確かにザルバドネグザルはその約束を守るよ。
でも領都の民は誰も助からない。
なにしろザルバドネグザルは、領都内の人間を全て魔界の悪魔の生贄にささげ、魔人王の力を得るのだから。
「わかりました。ロミア様に会います。私もこの街に住む人々を助けるためにがんばります」
「おおっ! ありがとうございますサクヤ様!」
レムサスさんが考えているのとは、別の方法でだけどね。
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