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86話 ゲームエンド間際の意外な訪問者

 気配察知で魔人王ザルバドネグザルの魔界貴族を探ったところ、距離は多少あるものの速度はあまり早くない。やはり逃げられたときのアレは、瞬間的なものだったらしい。

 私とラムス、モミジはゲームフィールドを大急ぎで駆けて追っている。


 「おのれ、あの死にぞこないめ! 糞忌々しい悪夢なんぞ見せてくれた礼をたっぷりしてくれる!」


 「ウチ、いきなり飛びかかって反撃されたなんて恥ずかしいわ。シロウトか。ラムスはんのイキオイに乗せられてもうたわ」


 「あれ? ヤツが止まった?」


 魔界貴族の気配で、いきなり動きが止まったことを感じてとまどう。とまった先は、モンスター狩り場のバトルフィールドのあたりみたいだ。


 「ふふん、何かオレ様たちを撃退できる方法でも見つけたかな?」


 「なんであれ、この世界のレベルキャップは99に設定されとる。ウチら全員が99な以上、有効なモンがあるとは思えんわな」


 ともかく魔界貴族のとどまった場所に急行する。

 そこはモンスター狩り場のすぐ近くの岩場。バトルフィールドの近くではあるが、微妙に外れているせいで、静かな僻地になっている。

 ヤツはそこで身を隠すでもなく直立したまま立っていた。


 「いたで! なんや、あんトコで待ちかまえてからに。罠みたいなモンも見当たらんで。どういうつもりや?」


 「よーし、お前らヤツをかこめッ! 魔界貴族はこのラムスがトドメをさすゥゥーッ!」


 「いいけど無詠唱魔法には気をつけてよ。また混乱させられて同じことの繰り返しはイヤだからね」


 三方向から囲うように近づいてみる。攻撃のようなものは何もなかったので、慎重に囲いを狭めていき、ついにはその足元にまで達した。


 「私たちがこんなに近づいたのに何の反応もない。まさかニセ者? これは抜け殻で、中身はすでに別の場所に居るとか……いや、魔界貴族の気配はたしかにある」


 「ウチの鑑定眼で視ても正真正銘の魔界貴族はんや。HPは消滅寸前のひん死やけどな」


 「やはりこれは本物の魔界貴族か……だけどこの静かさはなんだ?」


 私とモミジがとまどうに反して、ラムスはいつものまま。


 「フフン、お前ら難しく考えすぎだ。こいつは観念したのだ。いかに魔界貴族といえど、ここまで追い詰められれば何もなすすべなどあるまい。では、豪快にキメるぞ!」


 「……そうだね。ヤツがどうあれ、あとはトドメを刺すだけだし。ラムス、やっちゃって」


 「まかせるがいい。うぉらあああッ!!!」


 豪快に剣を頭上高くふりかぶり。

 気合一閃、それを叩きつけようとしたその時だ。

 ヤツの頭上から人型のなにかが落ちてくるのが見えた。それは――


 「なッ!? どうしてあの娘がここに――!」


 魔人王の頭上より落ちてきたもの。それは愛魅果ちゃんだったのだ!

 一瞬「なぜここに?」という疑問は浮かんだ。が、それよりこのままでは、愛魅果ちゃんはラムスの大技に巻き込まれてしまう。


 「ヤバイで! ラムス、やめぇや!!」


 しかしすでにモーションに入った技を止めるなんて簡単ではない。ならば!


 「ラムス、悪い!」

 

 早業で高速手裏剣を放ってラムスの手元にあてる。


 「うおおッ!?」


 スタンの効果でラムスの大技はキャンセル。『遊び人』の直接攻撃がコレで本当に良かった。

 そして愛魅果ちゃんの落下地点にまで駆け寄って、見事キャッチ。


 「なんやなんや、どうしてこの()がここに? しかも魔界貴族はんの頭から落ちてきたのも謎やわ」


 「ええい、オレ様の見せ場を台無しにしおって! やり直しなどでトドメを刺したら感動が薄れるだろうが!!」


 「見せ場より愛魅果ちゃんが危険だったことに心配してくれないかな。危うく愛魅ちゃんをゾンビにしちゃうところだったのに」


 「ふんっ。まぁその娘がここに居る理由はあとで聞くとしよう。ともかくこやつにトドメを刺すぞ。いいな」


 「うん、お願い」


 そしてラムスは再び魔人王姿の魔界貴族に剣を振りかぶる。

 モミジはといえば妙に難しそうな顔をしながら、私がお姫様抱っこしている愛魅果ちゃんと魔界貴族を見比べている。


 「サクヤはん、やっぱ変やわ。その子を地面に置いて離れてくれんか。ウチの鑑定でじっくり調べた方が…………」


 と、その時だ。

 「ボシュウウウウッ」とハデな音がしてラスボス魔人王が崩壊していく。

 壮大なファンファーレが鳴り響き、まわりの景色が霞のように消えてゆく。


 「もうトドメを刺したのか。勇者ラムス、ご苦労さん」


 「違う!」


 「え? 違うってなにが?」


 「オレ様が超必殺絶技を出そうとする前に、あのガキが突っついて倒しやがった! このドロボーめ!」


 ラムスの見ている方向を見ると、またしてもそこには意外なヤツが立っていた。

 金髪おかっぱの不良少年メラだ。

 ヤツはこのゲーム世界の入り口で真琴ちゃんや自衛隊のみなさんといるはずなのになぜ?


 「無駄なアクション多すぎだぜ。残りHP50なんだから、さっさと終わらせりゃ良かったんだよ」


 「メラ……どうして君がここに? なにをしに来た?」


 「簡単に言や、ゲームの外でピエロはやられた。アンタの片われと上から降ってきた砲弾でな」


 ルルアーバが倒された? そうか、お兄ちゃんの作戦が見事にハマったんだ。そして真琴ちゃんがトドメを刺した、と。


 「それでアンタはゲーム世界に逃げてきたってワケか。でもここに居て魔界貴族にトドメを刺したのは? ここはスタート地点からはそれなりに離れた場所だし。一連の行動は行き当たりばったりに思えないな」


 「ピエロがひん死の魔界の大将を感じてな。ヤツもこのゲーム世界も終わりを知った。んで、咲夜さんの鼻先をかすめ取ることに決めたのさ。アンタらが来る前に魔界の大将との契約も終えてな」


 ―――!!?


 「ルルアーバも来ているの? ……そういえば君と愛魅果ちゃんの気配がわからなかったな。アイツが隠したか。さっき倒されたって聞いたけど、命だけは残ったっんだね。どこに居る?」


 「今、咲夜さんが抱えているよ」


 「なんッ—―?」


 バカな! 接近どころか接触までしているんだぞ!

 この状況で、私の【気配察知】スキルを騙しとおせる奴なんているワケが――


 一瞬手放そうとしたけど、抱えている愛魅果ちゃんは変わらず眠っている。

 もちろん気配も愛魅果ちゃん以外の何物でもない。


 「――ハッタリか。この状況で私の【気配察知】スキルは騙せないよ。で、本当にルルアーバはどこ?」


 「咲夜さんの能力のひとつ。気配を読んであらゆる相手の正体や位置を知るってのは聞いている。しかし今のピエロは、本体がやられその分身が消滅寸前って身だ。そんなペラッペラなモンの気配までは読めなかったようだな」


 メラの言葉に思わず愛魅果ちゃんをもう一度見ると、彼女はニヤリ。


 ――「と、いうことなのですよ。サクヤ殿」


 「なにッ!?」


 彼女の腕がスルリと私の首元に巻きつき、唇を私の口元に押し付けてきた。

 妙に甘く、そして危険なくちづけを深く深くされてしまったのだった。



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