85話　ルルアーバを討て！【南沢真琴視点】

　校舎被害棟二階の専門教科棟。　

　私はそこで長舩さんと自衛隊のみなさんと協力して、ルルアーバと激しく戦っていた。

　相手の素早くスルドイ動きに翻弄され、魔法バリアーで身を守るのが精いっぱいの苦戦状況。

　だけど、突然自分の口が勝手に動いた。

　「みんな下がって！　これから古代魔法の秘術を解き放つ。これでルルアーバを倒してやる！」

　え？　古代魔法の秘術ってなに？　いつ私がそんなもの使えるようになったの？

　だけどルルアーバはからかうような動きをやめ、こちらを警戒するように足を止めた。

　――その時だ。それが来たのは。

　ドッゴオオオオオン！！！

　「え、ええええ？？？？　なに！？」

　「これは……84mm無反動砲(ハチヨン)砲砲弾？」

　いきなり校舎の二階、三階、四階の天井を突き破り、天空から砲弾が降ってきた！

　そしてそれは、そこに立ち止まったルルアーバに寸分違わず命中させ、押し潰したのだ。

　「ウソ……この砲弾、どうして上手い具合にルルアーバの上に落ちたの！？」

　「これは………偶然じゃないな。だが、どうやって視界もないのに、コイツの真上に落とすことが出来た？　いったいコレを撃った砲撃手は何者なんだ？」

　ガララッ

　「え？　……うわあああっ！？」

　ガレキをかき分け、砲弾の真下から這い出たモノ。

　それは体を半分失ったルルアーバ！

　その半身もボロボロで、ただ顔につけている仮面のみが無事で道化の笑顔なのが不気味だ。

　「コイツ、こんな状態でも生きている！　どうして？」

　「ク…………ククク…………今のは、さすがに効きましたよ。力が大きく削れてしまいました。ですが、物理のみの攻撃では拙者を殺しきることは出来ません。ここは退いて、力を戻すことといたしますか」

　「あっ、逃げる！」

　体は半分潰れた状態なのに、先ほどではないにしても、その逃げ足はかなり素早い。

　ダメだ。あれに私の白魔法は当てられない！

　カラーーン

　と、先ほど砲弾が落ちてきた天井の穴から何やら棒状のものが降ってきた。

　「刀が落ちてきた？　そうか、これは！」

　長舩さんはその刀の鞘を抜くと振りかぶりルルアーバに突進。

　「てえい！」と気合一閃、ルルアーバに切りつけた。

　「うううおおおっ？　ぐはああっ！！！」

　動きが止まった！　あれなら私にも当てられる！

　「【ホワイトプリズム・シャワー】！！！」

　「ギャアアアアアアア…………」

　対魔攻撃用の魔法の光のシャワー！

　これを浴びたルルアーバの体はみるみる溶けてゆく。

　カラン………

　最後までヤツが被っていた仮面が地面に落ちる。

　ただ、それだけを残してルルアーバは消滅した。

　「や、やった………あのサクヤさんが『最大の強敵』とまで言っていたルルアーバを、私達が倒した！」

　「ああ、我々でやったにしては大金星……いや、違う。あの砲弾を撃った奴。それにこの刀、対魔族用の聖別されたものだ。裏でルルアーバを倒す計略をたてた者がいたということか。どんなキレ者が空に居るのだ」

　ともかく事件の首謀者の最強魔族は倒し、愛魅果さんもサクヤさんのお父さんも解放された。

　サクヤさんのお父さんは満面の笑みで私達にお礼を言う。

　「よくやってくれた。これで愛魅果お嬢さんを首相の下へ送ってさしあげられる」

　「ええ、野花さん。すぐにお嬢さんを外の指揮所まで送ってさしあげてください。この事件の主犯の魔物ルルアーバを倒したことも報告して。そして人間側の主犯もいっしょに」

　長舩さんが合図をすると、いっせいに隊員はメラを囲んだ。

　「米良田修、来てもらおう。もはやお前の背後の魔物は居ない。今度こそ一連の事件のすべてを吐いてもらうぞ」

　「チッ、たしかにこれでシマイだな。こりゃ、どうしようもねぇな」

　メラは自衛隊員の囲みの中で手錠をかけられた。これで彼も捕まえたね。

　「あとはサクヤさん達がもどってくれば、この事件は解決ですね。大丈夫でしょうか」

　「うむ。無事だと信じたいが、けっこう時間がかかるな。だが、こちらはルルアーバに勝った。となれば、増援を送ることも検討するか」

　「――ええ。たしかに完璧に拙者らの負けですな。しかし、最期の悪あがきくらいはさせてもらいますよ」

　―――！！！？

　「バカな！　お前はたしかに消滅したはず！　どこだ！？」

　突然、聞こえたルルアーバの声。

　今さっき死んで消滅したはずの奴の声がどうして聞こえる！？

　ぐるり見回しても、ヤツの姿は見えない。

　「ああっ！　米良田！？　どこだ？」

　「バカな！　自分は一瞬たりとも目をはなしていない。いったいどうやって、我々の囲みから逃げたというのだ！」

　自衛隊のみなさんに囲まれていたはずのメラの姿もまた居なくなっていた。

　「あっ！　あそこだ！！　だけど何故？　なぜお嬢様といるんだ？」

　メラはいつの間にかゲーム世界入り口の防火扉の前にいた。

　そして、その側には、愛魅果さんが居る！！

　「愛魅果お嬢さま！　どうして？」

　「フフフ、拙者だからですよ」

　なんと、愛魅果さんの口からルルアーバの声がした！　

　「ルルアーバ？　貴様、愛魅果お嬢さまに化けていたのか！　なら、さっき倒したのはニセモノ？」

　「いえいえ。あれは正真正銘、拙者の本体。まさかサクヤ殿以外に消滅させられるとは思いもしませんでした。が、この世界にはもう一人脅威となる者が居たことを忘れていましたよ」

　愛魅果さんのルルアーバは、眩しそうに天井の穴の向こうの空を見上げる。

　「拙者はルルアーバの分霊。本体よりはるかに弱く、手品程度の魔法しか使えませんの。そしてこの愛魅果様も本物。少しばかり拝借していますので、あしからず」

　「ぶ、分霊？　なんだそれは！」

　「魂を模倣した霊体といったところですな。それをこのお嬢さんの身体にとりつかせていたのです。サクヤ殿にイタズラしようとした画策ですが、本体が消失した以上、今日中に拙者自身も消えるでしょう」

　「ならば今すぐ消えろ！　お嬢さまの体から出ていくんだ！！」

　「酔狂は拙者の信条。せっかく消滅までの猶予があるのです。この愛魅果の体を使い、サクヤ殿にイヤガラセの一つもしてから消えたいと思うもの。メラ、あなたもつき合いますか」

　「面白ぇな。俺もシャバじゃ先のない身だ。行ってやるぜ」

　「あっ、待て！　貴様らァ！！」

　待つはずもなく、二人は防火扉の向こうへ行ってしまった。

　「どうしよう、咲夜さんのところに行ってしまった。愛魅果さんの体を使われたんじゃ、何もできないし」

　「たしかに、な。何も出来ずとも、愛魅果お嬢様の姿で咲夜さんに接触はまずい。誰か事情を知らせに行かねばな」

　「私が行きます。もうこっちに敵はいないし。私なら愛魅果さんの動きを止めれば、中のルルアーバを倒せると思いますから」

　咲夜さん、待っててください！