83話 炎の復活! 危機の中にあらわれた者
電話線の故障でしばらく投降できませんでした。長くお待たせしてすみません。
レベル999の規格外の魔力! それから生み出される炎熱魔法は規格外すぎる。
周囲一面、天までも赤に変える灼熱の炎はあまりに圧倒的。
私達はなすすべなく消滅させられ…………
「あれ?」
急にその圧倒的な炎の勢いが落ちた。周囲一面だった炎が、私達のまわりだけになったのだ。
「おい、サクヤ。急に火力が落ちたぞ。これなら君主の【幻影防御】で防げる」
まわりは炎に包まれたが、私達は余裕でラムスの結界内に居ることが出来る。
『な、なに? 急に魔力の値が落ちた? これは、どうしたことだ!!』
魔界貴族マットもとまどっている。本当にどうしたんだろう。
――「サクヤはん、ラムスはん、もう大丈夫やで。そいつのレベルは、ウチらと同じ99や」
その懐かしい声の方を向くと、炎の向こうに二人の人影。
その二人はまさかの……
「モミジ! それに丹沢さん! ふたりともHPがゼロになったのにどうして!?」
死んだはずの仲間がピンチの中さっそうと復活! まるでジャンプみたい!!
「最初にふっとばされたラムスはんの盾が、偶然ウチの方に飛んできてな。それがヤツの直撃を防いだんや。ヤバイと思ったウチはHPの偽装をして死んだフリをしてたんや。で、ウチらがターゲットから外れた頃合いで、ニザワはんを反魂の術で復活させたいうわけや」
なんてラッキーな偶然……
ハッ! それって、もしかしてラムスの【勇者の力】?
すごいな。本当にすごいラッキーを呼び寄せるんだ。
「さて、魔界貴族はん。アンタの人形はもうレベル99や。レベルキャップの再設定に成功したからな」
モミジはドヤ顔キメポーズで説明する。すごく得意そう。
『バカな! ここは余の想像した余の領域。そこに余以外の者が干渉できるだと!?』
「できるんよ。この世界は電気信号のプログラムで創られているな。そのせいで強力な雷撃を使うと、わずかに世界がほころぶんや。その隙間にチョチョイといじくってな」
「バカな……そんなもので、領域内に影響を与えるほどの設定を改変できるなど! ありえん!!」
「『余の領域』言うとるが、その設定はぜんぶゲームからの借り物やろ。アンタが都合よくレベル上限を変えた部分を元に戻すだけやから、そんな難しい術操作はいらんのよ」
やがて炎もおさまり、魔界貴族マットにみんなで対峙。
全員がレベル99で四体一だから圧倒的に有利だ。いや私と丹沢さんはイマイチな職業と能力だけど、ラムスとモミジだけでも倒せる。
『………どうやら欲をかくことは出来んようだな。噂に聞く剣王サクヤの魂をもとりこみ復活したかったが、あきらめるとしよう』
「ぐるん」とマットは方向転換。魔人王ザルバドネグザルへと駆けだす。
なんだ? 何をする気なんだ?
『余は願う! 貴族の力よ、この肉体に宿れ! 【灼熱の隕石】』
そう叫んんだ瞬間、炎の隕石が魔人王の元へ落ちてきた。
「ぐわわっ?」「なんちゅう威力や!」「きゃあああっ!」
すさまじい衝撃がこっちにまで流れ、魔人王は炎に包まれる。されど、そんな大魔法を喰らっても魔人王は健在だった。
「レベル99に落ちても、すさまじい大魔法……いや、さっき無詠唱で魔法を使ってたような?」
嫌な予感が背筋をつたう。
魔界貴族マットはというと、魔人王の巨体を見上げなにかを検分している様子。
『クッ、さすがにHPは膨大だ。極大魔法をあと一発といったところか』
そうか! たしか【魔人王を倒したプレイヤーは何でも好きな願いを叶えられる】というルールがあった。それを利用して奴が行おうとしているのは――
「あかん! マットの体の中で復活するつもりや。あんなん解き放ったら、世界はえらい事になるで。ラムスはん!」
「わかっておるわ! 奴より先に、オレ様が魔人王をぶっ壊してくれる。そして魔界貴族の死を願ってやるぞ!」
ラムスとモミジはそれを阻止すべく剣と刀をふりあげてマットにせまる。
いや、それは無謀!
さっき無詠唱で魔法を使ったのが見間違いでなければ――
『貴族の財を狙うとは不届き者め。【奈落の亡者の舞踏会】!!』
マットから黒い瘴気がたちこめ、それが二人にまとわりついた。すると二人は混乱して苦しみだした。
「ぐわあああっ! コイツら、どこから沸いてきおった!?」
「ひぃぃやぁぁぁ! まとわりついてくるぅぅぅ!!」
二人のまわりに敵はいない。なのに、無数の何かがいるように剣や刀をふりまわしている。
「ど、どうしたんです? 二人ともなにをあんなに怯えてるんです?」
丹沢さんも二人の混乱ぶりにおびえてる。
「幻術魔法の特殊効果の混乱だよ。それにやっぱりアイツ、無詠唱で魔法を使っている」
おそらくはレベル99になって術の威力が落ちたので、制御が簡単になったのだろう。人間ではそれでも詠唱なしに術を制御は出来ないが、魔族にとっては魔法操作は体を動かすのと同じくらい容易いのだろう。
『フフン、魔力が落ちたことで魔法操作が簡単になった。これなら貴様らを全滅させることも容易いが……残念ながら領域のルールを変えられてしまったことで、魂の維持が難しくなった。復活を優先するとしよう』
魔界貴族マットはふたたび極大魔法を放とうとする。
くっ、今の私に出来るのは踊ることだけ。遊び人にも意地がある!
「タタンッ」とステップを踏み、華麗に踊りはじめる。
『フハハハ愚か者め。雑魚相手ならいざ知らず、余を前に最後まで踊り切ることが出来ると思うてか? 【地脈の怒り】!!』
「うわああっ!」
「きゃあああっ!!」
いきなり私の足元の大地が盛り上がり、岩が槍のように鋭く突きあがった。
丹沢さんも巻き込んで串刺しの危機!
間一髪彼女を抱えジャンプして逃れたものの、当然踊りは中断されてしまった。
ダンス失敗! 遊び人の踊りスキルの効果は、はね返って自分にかかってしまう。
『これで邪魔者はいなくなったな。ではゲームを終わらせ復活するとしよう。貴族の力よ、この肉体に宿れ! 【灼熱の隕石】』
魔界貴族マットはふたたび炎の隕石をふらせ魔人王に食らわせる。
くっ、止められなかった。魔界貴族は肉体を得て世界に顕現してしまった――




