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82話 ハチヨン砲弾投下【岩長視点】

 諸菱高校二千メートル上空 自衛隊哨戒ヘリ内


 「……来た」


 作戦の通り、オレは竜崎に自衛隊の哨戒ヘリに乗せてもらい、諸菱高校の直上二千メートルの空に居る。そしてひたすらその時を待っていたのだが、どうやらその瞬間となったようだ。


 「何がです? 岩長くん」


 「ルルアーバだ。真琴と接触した。いま戦っている」


 「わかるんですか。いったいどうやって? 校舎内は通信の類いが一切きかないはずですが」


 「わかるのだ。理由は話さんがな」


 竜崎は現場指揮官にも関わらずヘリに乗り副操縦士(コ・パイ)をやっている。どうにもこの作戦は通すのが難しいらしく、竜崎がほぼ独断で通したらしい。それゆえか、このヘリの指揮も部下にまかせず竜崎自身でやっている。


 「なら聞きませんが。しかしどういうことです? 通信報告では、咲夜さん達は人質のとらわれているゲーム世界とやらで戦闘中とのことでしたが。ゲーム世界というのも何のことやらわかりませんがねぇ。後の報告で私に理解できれば良いのですが」


 「ルルアーバというのはオレにも理解できん奴だな。人質をとったのなら、普通は交渉なりに使うものだろう。この作戦もそれを前提にしたものだし。作戦中止も考えたが、どうやら機会(チャンス)はめぐってきたようだ。無反動砲を出せ」


 「用意はしてあります。が、渡す前に岩長くんをロープで固定します。動かないでください」


 84mm無反動(ハチヨン)砲は発射時に後方へ大量の発射ガスを噴き出すことで威力を相殺する。火力が高いうえに後方に爆風による被害がおよぶので、ヘリ内では使用できない。ゆえにこれを使用するには、オレが外に出なければならないのだ。


 「ロープ固定完了。ハチヨン砲ノズル解放、装填ヨシ。引き金は撃つ瞬間までさわらないでください」


 自衛隊のラペリングロープをオレのジャケットにつけ、ハチヨン砲の弾を装填した竜崎はズシリ重いそれをオレの肩にのせた。


 「それじゃ門倉三尉、ハッチを開けてください」


 竜崎はヘリのパイロットに指示するも、そいつはいきなりキレた。


 「ま、待ってください管理官! 本当にこの民間人にそれを撃たせる気ですか!?]


 「ええ。彼をヘリに乗せる時にそう言ったでしょう」


 「し、しかしですよ! そんな状態でハチヨン砲を撃てるのは、隊員でもいませんよ。雲で視界も開けていないし、校舎内のたった一人を狙撃するなんて不可能です!」


 やれやれ。このパイロットくん、ここにきてビビッてしまったらしい。


 「もし誤射して、下の報道陣やら人質家族やらのど真ん中に弾丸が落ちたら大惨事です。いや、たとえ目標の校舎に当てたとしても、校舎内には人質の教師や学生達がいます。そこに落ちる可能性も高いのですよ!」


 「だそうです。やめますか、岩長くん?」


 「くだらん心配など無用だ。オレの撃つ弾丸(たま)は外れん。いいから、さっさとハッチを開けろ。ルルアーバを討つ千載一遇のチャンスなど、この先めぐってくるか分からんのだぞ」


 「岩長くんの撃つ弾丸は外れないそうですよ。もしこれで惨事が起こっても、三尉に一切の責任は負わせません。命令です。ハッチを開けてください」


 こんな極大リスクを負ってもオレに無反動砲を撃たせる許可を出したのは、オレの能力を見たいがためか。竜崎、コイツも知的好奇心のバケモノだな。

 だが今はそのバケモノに感謝してやる。


 「くっ……! もう、どうなっても知りませんからね」


 グダグダと泣き言を言っていたパイロットも観念したのかヘリのハッチを開けた。外気の冷たい風が流れてくる。二千メートル上空ともなれば、こんなにも風は冷たくなるのだな。

 ウィンチでゆっくりと下へ下へと降ろされる。さすがに目もくらむ光景だが、急いで仕事をしなければならない。

 なにしろ予定では、咲夜が程よい間隔でヤツの動きを止めるはずだった。が、今戦っているのは真琴ひとり。あのガキんちょにそんな高度な戦いが出来るはずもなく、オレが絶好の瞬間をとらえて撃たねばならなくなったのだ。


 「スキル【同調(シンクロ)】」


 真琴のイチモツを通し、真琴の感覚と同調する。すると真琴の見ている光景がオレの目に映る。


 「ふん……不器用ながらどうにか戦っているな。ルルアーバは、真琴の最高位法術をいかに攻略するか探っているといった所か。出ろ、使役鳥」


 やはり今こそが二度とない狙撃の機会(チャンス)。オレは開いている方の手で使役鳥を生み出す。


 「行け、ルルアーバの真上を割り出すのだ」


 使役鳥は雲を突き抜けて真下へ降下。

 よし。これでオレがどこへ向けて撃とうと、弾丸は使役鳥のいる場所へ誘導される。つまり必中だ。


 さて、真琴の同調に集中してルルアーバの様子をさぐると、やはりあちこち動きまわってかく乱している。真琴も自衛隊員も翻弄されて防戦一方。


 「ふん。まぁ、こんなものだろうな。ならばオレが手を貸してやる。スキル【同調(シンクロ)率六百パーセント】!」


 大量のリソースを使い、真琴の体を一時的にオレが動かす。

 真琴の口を動かしてオレの言葉でしゃべらせる。


 『みんな下がって! これから古代魔法の秘術を解き放つ。これでルルアーバを倒してやる!』


 …………よしっ、ルルアーバの奴は警戒して動きを止めた。

 これぞスキル【言葉(ことば)(いくさ)】。といっても、ただのハッタリだがな。戦いの巧者は、言葉だけで相手を思う通りに動かすことが出来るのだ。


 「ターゲットロック、無反動砲弾発射(シュート)!」


 ボッシュウウウウウウ


 ノズルから強烈なガスが吹きあがると、84MMの巨大な弾丸は雲を突き抜けて下へ。

 オレはひたすら真琴との同調で結果を見届ける。


 「…………よしっ、命中。任務完了……とはいかんのが、魔法生物の面倒な所だ」


 生命を構成する物質は魂、霊体、肉体。通常の生ある者は肉体という器がなければその命をたもつ事は出来ない。

 が、魔族などの魔法生物に属する生命体は霊体の領域が肉体よりもはるかに大きい。ゆえに肉体だけをどれだけ損傷させようとも、完全な死を与えることは出来ない。

 霊体を攻撃できる専用の武器でなければ本当には倒すことは出来ないのだ。


 「竜崎、ルルアーバを仕留めた。追撃の刀をよこせ」


 ヘルメットに内臓されているインカムで竜崎に作戦の次の段階をうながす。


 『いいんですか? 咲夜さんはいませんが』


 「だが自衛隊員はいる。刀を振れる奴くらい居るだろう。今ルルアーバにトドメを刺さねば逃げられる。また振り出しだ」


 『わかりました。長月雨竜を落とします。しっかり受け取ってください』


 落ちてきた刀をしっかりキャッチ。それを下に向け、ふたたび使役鳥を使った誘導で、校舎の天井に開けた穴にロックする。


 「どうか隊員の中に戦闘勘のある奴がいてくれよ」

 

 オレらしくもなく願い、長月雨竜を投下した。、

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― 新着の感想 ―
[一言] 急に視点が切り替わって、よくわからなくなった。3視点もある?
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