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81 話 ゲーム世界の理由

 なぜか中盤のこのステージにあらわれたラスボス魔人王ザルバドネグザル。

 なので、いきなりラストバトルは始まった。


 魔人王への攻撃初手は最初からパーティー最大の一斉攻撃。

 『ラスボスがなぜこのタイミングでこんな場所に居るのか』という不気味な現象の答えは、これである程度わかるだろう。

 丹沢さんの極大雷撃、モミジの大型手裏剣、そしてラムスの最強突撃。それらを私の【眠りの踊り】でヤツを眠らせた瞬間に同時攻撃だ。


 私はただひたすら踊る。


 舞う。舞い踊る。


 だけど視線を感じる。魔人王ザルバドネグザルだ。


 ヤツは私の踊りをただ冷たい目で見つめているのだ。


 「くっ、まだ動かないの?」


 私の踊りは相手へのプレッシャーでもある。物理抵抗、魔術抵抗の値に関わらず相手に特殊効果を与える踊りは、相手にとっては必ず阻止したいスキル。


 それを逆手にとり、相手を動かす戦術にも使っているんだけど、まだ動かない。その静けさが妙に不気味だ。


 まと少し。あと少しで踊りは終わり、魔人王は眠る……


 ―――『お前が剣王サクヤか』


 「「「「「なっ!!?」」」」


 しゃべった? 魔人王が?

 これはゲームで設定されている言葉とは思えない。まさか!?


 ――『できるなら……剣を持った貴様と……会いたかったがな……』


 踊り完了、魔人王は眠った。ヤツはこれで動けないはず。

 三人は一斉攻撃に動く。

 最初は詠唱を完了している丹沢さんの雷撃。


 「大雷砲(サンダー)……あっ?」


 「―――ッ!?」


 必殺の言葉より速い何かが魔人王の体から飛び出した。

 一瞬の油断もなく注視していたにも関わらず、それを目視できなかった。


 グシャアッ ドッ ドウッ


 その素早い陰は丹沢さん、ラムス、モミジと私達全員を次々攻撃。

 その気配のみどうにかとらえた私だけは、紙一重でかわした。


 「なん……だ、コイツは……人間?」


 そこに仁王立ちに立つ男は見かけこそ人間。されど気配は人と思えぬほど異形。

 ボロボロのローブを纏い、目はこちらを見てもいないほど呆けた顔。


 「おまえ……まさかマット?」


 ファントムマスクのいちおうのリーダー間桐亮二。だけど話しかけても返事もしない。完全に正気を失った顔で、まるで夢の中にいるような感じだ。

 されどあのスピード。みんなの状況を知りたいけど、コイツから目が離せない。


 「クソ……サクヤ、お前だけは無事か」


 「ラムス、大丈夫だったんだ」


 「いや、HPを七割近くもっていかれた。君主(ロード)の装甲スキルをもってしてだぞ。同じのを喰らったモミジとニザワは……」


 「ふたりは……HPゼロ!? そんな!」


 ふたりが為すすべなく倒れているのを見て愕然とする。

 いちおうパーティーが全滅するまでは負けは確定しない。私達が健在なら蘇生は可能だ。

 しかし……今の私達でこのマットに勝てるのか?


 『ほう……コヤツの一撃をかわすか。レベル999のコヤツの。さすがは剣王などと呼ばれ、我が配下を幾つも屠っただけあるな』


 この声……さっき魔人王から聞こえてきた声だ。それが正気があるように見えないマットの口から聞こえてくる。


 「君はマットじゃないね。中身はやはり魔界貴族?」


 『そうだ。こやつの意識はとっくに崩壊しておるのでな。こうして本体が眠った合間の、意識が飛んだ状態を利用して余が体を動かしておるというわけよ』


 「精神が……崩壊? いったいそいつに何をした?」


 『なにもしておらん。だが、ただの人間の精神では数百人分の魂は受け止めきれなかっただけのこと。だがコイツの精神などどうでもいい。この肉体は余が使わせてもらうのでな』


 数百人分の魂がマットの中にあるだって? ……そうか。魔界貴族がこのゲーム世界を創った理由がわかった。

 ここで同じプレイヤーに殺された人間の肉体はゾンビになる。では魂は?

 それは殺したプレイヤーの体に宿るのだ。

 おそらくは、それが魔界貴族が人間の肉体に宿る条件。このたった一体を作るためだけに、このゲーム世界を創り出したのだ。

 

 「つまりこの先のプレイヤーはみんな殺されているんだね? マットの中に魂を入れるために」


 『フン、これ以上の問答をする気はないわ。肉体は完成しておる。が、剣王サクヤ。貴様もぜひわが肉体の細胞のひとつとして迎え入れたい。わが糧となれ』


 まるで冗談のようにフワリとマットの体は浮いた。

 空中のヤツはまるで猿のよう。

 されどこちら目がけて降りてくると、それは圧倒的質量をもった隕石へと変わった。

 ダメだ。あれは、かわしきれない!!


 「サクヤを……やらせるかああああっ!」


 その時、私の前で盾をかまえてそれをふせぐ影があらわれた。

 ラムスだ。


 『フン、ザコめ。ま、ルールで貴様も殺しておかねばならんしな。もろとも圧殺してくれよう』


 ロードの盾を使った絶対防御スキル【不抜の城塞(グレイトフル)】。

 本来ならこれを抜けるモンスターもプレイヤーもいないはず。されどもレベルが十倍近くもあるコイツには、そんな常識は通用しない。


 「ぐっ……ぐううッ、サクヤ、逃げろ」


 ジリジリとラムスのHPは削られていく。もってあと数秒だろう。


 そんな状況なのに、私は……


 不覚にも、そんなラムスの背中を『カッコいい』と思ってしまった。


 まるで恋する女の子だよね。


 この眩しい背中の人のために出来ることが何もなくて、ただ見つめているだけ。


 だけどふと、前にアーシェラから聞いた話を思い出した。


 まだ騎士修行中だった子供のころ、よくシャラーンが来て踊りを見せてくれてたって。


 だから、勝手に体は動いた。


 いつもの私だったら、こんな恥ずかしいことは無理だったけど。


 でも職業(クラス)遊び人の今なら、シャラーンの真似事くらいは出来る。


 子供のころの彼女が、アーシェラにどんな想いを抱いて踊っていたのかがわかる。


 「おっ? おおおッ!?」


 私の【凱歌の舞】が効いた。ラムスの体は発光し、ステータスが爆発的に上がった。

 押される一方だったラムスは逆に押し返し、魔界貴族マットに逆襲の一撃で斬り込んだ。

 ひるんだ魔界貴族マットは大きく下がる。


 『チイッ、悪あがきを。どうあがこうと、貴様らのレベルはたかだか99。その十倍のレベルのこやつに勝てるはずもないというに』


 「フンッ、けっこうイケそうな気がするぞ。さっきは完全に押し返したからな。それにただ圧倒的な力で圧殺するだけの貴様は戦い方を知らん。本物の剣士の戦いを教えてくれる」


 『そうだ、余は目障りな塵芥(ちりあくた)はただ圧殺するだけ。よかろう、少しだけ手間をかけてやる』


 魔界貴族マットは天に向かって指をさした。


 『教えてやろう、この肉体(ボディ)職業(クラス)を。それは……』


 格闘家最上位職の【武闘大帝】あたりかな?

 最上位職はいくつかイベントをクリアしないと成れないから、レベル99だけじゃダメなんだよね。


 『【魔法皇帝】だ』


 「「なっ!!?」」


 黒魔法士の最上位職!? つまり術士だって? なのに物理攻撃スペックが、剣士上位職の君主(ロード)を上回っているのか!?


 『天燃ゆる赤き黄昏(たそがれ)。大地()める烈火(れっか)の軍勢。ことごとくを蹂躙(じゅうりん)し灰の墓標(ぼひょう)となせ。【バーニング・ウラーニァ】!!』


 マットが呪文を唱えると、地より巨大な炎が吹きあがった。

 それはみるみる辺りを赤色に変え、その巨大な轟炎は私たちを包み込んだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] >剣王サクヤ  懐かしい名前ですねぇ。 今回は昔のエピソードが絡むな。
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