80話 廊下の彼方より来たる【南沢真琴視点】
後れてすみません。このあたりの話の展開を考えるのって、すごく難しいんですよ。しばらく遅くなると思います。
咲夜さん達がこの防火シャッターの奥に消えてから五時間あまり。不安はつのるけど、待機姿勢の自衛隊のみなさんをぼんやり見ているしかやる事がない。
咲夜さんは、いまどのあたりに居るだろうか。
「退屈そうだな。向こうに行きたいならいつでも言え。ゲーム参加者は歓迎だぜ」
防火シャッターに寄りかかり私をニヤニヤして見ているメラという金髪おかっぱが話しかけてきた。
「余計なお世話。私はここで咲夜さん達が人質を解放して戻ってくるのを待つのがやるべき事。咲夜さん達がもどってくるまで動く気はないから」
「そうかい。ま、マットの奴相手に生きてられるかは疑問だがな。いちおう覚悟はしといた方がいいぜ」
「……? マットって、あなた達ファントムマスクのリーダーの間桐って人でしょ。咲夜さんがただのケンカ自慢の不良に負けるとは思えないけど」
「こっち側じゃな。だがこの扉の向こうは、レベルが強さのすべてだ。より手っ取り早くレベルを上げた奴が強え…………なっ!?」
突然、メラが私の背後のなにかに驚いて、シャッターから背をはなした。私を守っている自衛隊の方達にも緊張が走り、荒々しく銃を臨戦態勢に構えてる。
何事かと振り向いてみると、私も絶句した。
「あ……ああ? あれは、まさか……?」
廊下の向こうから来るは三人の男女。
一人は壮年のいかついおじさん。誰だろう?
もう一人は私と年の変わらない品のよいお嬢様。いや、この子は見たことがある。首相の孫娘の愛魅果さん。前のはルルアーバの化けたニセモノだったけど、今度は本物に間違いないだろう。
なぜなら二人を先導する者。道化のマスクを被った奇妙な男。
あれこそが、咲夜さんの宿敵。ルルアーバに違いないはずだ。
「の、野花さん? それに愛魅果お嬢様も。いったいなぜあの道化と?」
野花……あのおじさんは、咲夜さんのお父さんか。
メラは道化の男の元へ行って話しかけた。
「どうしたルルアーバ? 校長室でお嬢様と待ってるんじゃなかったのか」
「サクヤ殿だけは拙者の元に来ると思いきや、アテが外れましてね。そこで拙者の方から出向くことにしたのですよ」
「いいのか? この中は元の強さなんて関係なくレベルだけがものを言う世界。アンタでもレベル1からの弱体化スタートだぜ。あの姉ちゃんに出会ったら確実にやられる」
「それも一興。弱体化した拙者がサクヤ殿とまみえ果てるなら、それまでのこと。閣下の儀式もどうやら終盤。このままではサクヤ殿は拙者とまみえる事なく終わってしまいますからな」
「ずいぶん咲夜さんに固執してんな。まぁ、俺も少し咲夜さんにゃ死んでほしくない気持ちはある。いいぜ、行ってきなよ」
メラはシャッターの方へうながす。
だが、そこは長舩さんひきいる自衛官が守っている。長舩さんらは一斉に銃をルルアーバにつきつける。
「異世界の魔法使いルルアーバ。おとなしく投降しろ。貴様には多くの犠牲者を出した罪の清算をしてもらう」
「一度だけ警告しましょう。およしなさい。拙者には勝てません」
ルルアーバと長舩さんひきいる自衛隊小隊。その両者の間に緊張が走る。
そこに声をかけたのは、ルルアーバといっしょに来たおじさんだった。
「長舩くん、やめたまえ。先の自衛隊救出部隊の全滅の原因はコイツだ。このルルアーバがひとりでやったのだ。とてもかなう相手ではない」
「野花さん……どうしてあなたがこの道化と同行してるのです?」
「咲夜への人質として特別扱いされたようだ。首相のお孫さんもいる関係でおとなしくせざるを得なかった」
「そうですか。しかし私もここを守る義務があります。この中では咲夜さん達が人質解放のため戦っています。『弱体化する』などと言っていますが、それが本当ととる事は出来ません。彼女が最大の脅威と見なすこの道化を、おとなしく通すわけにはいかないのです」
長舩さんの意思は堅い。それをルルアーバも察したようだ。
「なるほど、その覚悟は認めましょう。では、お相手をするといたしましょうか」
長舩さんの覚悟は私も感じた。そして体が勝手に動いた。
そうだ、この向こうでは咲夜さんが戦っている。学校の先生や生徒、それに私の友達を助けるために。
そしてここを守るのが私の役目!
「南沢さん?」
私も長舩さんの隣に立つ。そして私のために作られた特別な杖を「ピタリ」とルルアーバにつきつける。
「ここを守る役目は私も同様です。カリギュラの前をただで通れると思わないでください」
「ほう、いいのですか? あなたも一応拙者の脅威です。が、今は食指が動きません。おとなしくしてれば無視してあげますが?」
そんな言葉なんかで下がりはしない。
「光の使者ギュラホワイト! ルルアーバ、私がここで決着をつけます。咲夜さんの元へは行かせません!」
「強大な力を持つとはいえ、あなたが拙者と戦うにはまだ足りないものが多すぎますがね」
それに応えたのは隣の長舩さん。
「ならば、それを私が補う。南沢さん、君がいるならただの玉砕にはならないだろう。頼む」
「はい!」
これが正しい行動なのかはわからない。でも。
私、咲夜さんのことが思ったより好きみたいです。
だからこの感情、炎に変えて戦います!




