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78話 さくさくイベントを進めよう

 「と、虎ゴーンの一戦だけで全員レベル99!? なんて人達だ!」

 「これが勇者の実力!? この方は本当にこの世界の主役の勇者なんだ!」


 いきなり私達がレベル99になって戻ってきて、集落のみんなはびっくり仰天。ヤンヤヤンヤと喜びの喝采をあげる。

 やはり低レベルの私達が『ゲームを終わらせる』と言っても不安だったんだろうね。ようやくその言葉に実力の裏付けができた形だ。 


 「すごい! さすが勇者様!!」

 「咲夜さんもステキ! そのエロカッコいい姿もナイス!」

 「ラムス様ぁ。私をセックス奴隷にして!」


 一部、なんかヤバイファンとか出来ているね。私達にはちょっと引いてしまう空気だったけど、さすがラムスは違う。


 「フハハハハ、これが世界に選ばれた勇者の力よ! ザコとは違うのだ、ザコとは」


 と、勇者然としてこの状況を楽しんでいる。


 「ラムス、お星様にとどくほど調子に乗っているねぇ。モミジの力なのに」


 「ま、ラムスはんを勇者に立てた方が面倒なくてすむからな。こういった役はお調子モンがちょうどええ。このまま楽しく勇者させとこうや」


 「やっぱり勇者って、ああいうのを言うのかな」


 さて、レベルアップがカンストしたことで、最高職へと転職できるようになった。

 転職先はラムスはロード。丹沢さんは大魔法師。モミジは忍者。そして私は遊び人のまま。HPもMPも最高でスキルも選び放題。無双状態でここから先はイベントを処理するだけの状態だ。


 「みんなの転職もすんだことだし、イベントを進めようか。先生、次は領主様の館でしたっけ?」


 「そうだ。村を荒らす凶悪な魔物虎ゴーンを倒した勇者一行は、その武勇を見込まれ、領主様から特別な任務をあたえられる。まずは国境の偵察。そこで魔物使いを攻略して次のイベントだ」


 『領主様の任務』か。なつかしいな。ロミアちゃんと出会ったなれ初めも、こんな感じだったよ。早く帰ってまた会いたいな。


 「領主様のお嬢様でヒロインのロミア姫は男子生徒にひどく人気でな。彼女のイベントに行ったっきりで困る。やはりこの手のゲームは十八歳未満には毒だな」


 え?


 「あ、あの……ロミア……姫のところに、男子は行っちゃってるんですか?」


 「そうだ。領主様のイベントを引き受けるまでは、何度でも彼女のおつかいイベントはやれるからな。それをクリアすればお茶会に出席して会話イベントを楽しんだりその先もあったりで、男子にすごい人気だぞ」


 そ、そういえば、そういう仕様だった気がする。私もゲームで何回か彼女のお茶会を楽しんだ覚えがあるし。

 最難関の開拓部にあるレア宝石を探して持ってくれば、Hイベントなんかも……

 うわああっ! ロミアちゃんが男子共のなぐさみものにィィィィ!!!


 「この世界、ロミアはんまで出演しとんのかい。どうなっとるんや。ま、ウチらは寄り道ナシのスピードクリア。さっさと領主様の依頼受けて先に進もうや」


 「ううっく、せめてロミアちゃんと一回だけでもお茶会を……」


 「サクヤ、未練たらしい顔をするな。キサマはいつも本物とイチャコラしてただろう。そんなニセモノなどにかまうな」


 「へぇ。ロミア姫まで、あなた方の世界にいるんですか。いったいラムスクエストというゲーム、何なんですかね」


 くうっ。名残惜しいが、丹沢さんもあやしんでいるし。とにかくゲームを進めてエンディングを目指そう。


 そしてやって来ました領主館。この広大な敷地の中の豪奢な館。

 ここも少し前まではよく通ってた。本当にホームシックを刺激する世界だなぁ。

 本物は領主様に会うまでには面倒な使用人とのやり取りがあったが、当然ここでそんなものはなく、いきなり領主様の元へ通された。


 「ようこそ、ウワサの勇者一行の方々。私がこのリーレットの領主キンバリーだ」


 「む。そういやロミアの親父はこんな顔だったな。まったくこやつすら懐かしい」


 領主様から命じられたのは国境付近の偵察。聞かされた通りだ。

 サクサク行って、第二のレベル上げの狩り場も無視して、魔物使いアンド魔物群と遭遇。

 『わははは、わがドルトラル帝国の大軍はすでにリーレットを目指して進軍しておる。お前達はおしまいだ』とか、軍事機密ありがとう。


 お礼にサクッと倒して、また領主館に行くと、今度はドルトラル帝国旅団迎撃の部隊参加をもとめられる。それにオーケーを出して、みんなの集落に戻った。


 このイベントの後はこっちのエリアに戻ることが出来なくなるらしい。だから、いったんのお別れを言いに戻ったのだ。

 このおかげで人間狩りをしているファントムマスクの連中はこっちに来られない。ありがたい仕様とも言える。


 「早いな、もう中盤か。これなら本当にクリアできるかもしれない」


 「はい、次の足切り時間前のクリアを目指します。先生も、みんなを頼みます」


 「低温(ヌル)いシャバ僧みてぇに(ドリ)ってんじゃねぇゾ。向こうにゃファントムマスクの連中がいるんだぜ。ドカッと気合入れにゃ不運(ハードラック)(ダンス)っちまうぜ。オレの舎弟達みてぇにな」


 松之内は彼の舎弟とともに終盤近くまでゲームを進めたらしい。しかしファントムマスクの襲撃に会い、彼の舎弟は全員ログアウト。松之内は命からがら逃げてきたという話だ。


 「大変な目にあったね。でも、どうやってこっちのエリアに戻ってこれたの? ここのエリアには戻ってこれないはずだけど」


 「そいつはこうヨ。連中から脱出(エスケープ)キめている時にヨ。偶然ドル……ドル……?」


 「ドルトラル帝国?」


 「オゥヨ、そのドルドル帝国の侵攻(ブッこみ)があったのヨ。なんかその兵隊どもの中を進んだら、こっちに戻れた」


 ”ドルトラル帝国”って名称すら覚えきれないのか。君のIQはいったいどうなってるんだ。

 とはいえ有用な情報が聞けた。ドルトラル帝国の侵攻イベントに乗ずれば、向こうのエリアの人間がこっちに戻ることが出来るということだ。


 「ウチらはその侵攻イベントを起こす訳やからな。それに乗じてファントムマスクの連中が渡ってくるかもしれん。そん時は……」


 「それを許すわけにはいかないね。もし、こっちに来る奴がすごいレベルで、手に余るようなら……」


 ためらいは毒。その覚悟も必要かもしれない。

 殺しを平然とやれる人間は魔物と変わらない。向こうの世界で一番最初に学んだことだからね。


 さて、いつまでも別れを惜しんでもいられない。レベル足切りがある以上、私たちがクリアを遅らせればそれだけ犠牲が出てしまう。

 シメはラムスが剣を振り上げて行った。まるで民の命運を担って旅立つ本物の勇者のように。


 「ではお前たち、しばしの別れだ。オレ様達は必ずやザルバドネグザルもファントムマスクの連中も、ギッタンギッタンにしてお前達を解放してやる。この勇者ラムス様と最強パーティーでな!!」


 ウオオオオオンッ

 皆からの大歓声が響き渡る。喝采と拍手のエールがこだまする。

 いいものだね、こんな空気の中でクエストに向かうって。

 熱狂的なみんなに見送られ、私達は魔人王アンドDQN退治に旅立つのであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] タイトル通り、さくさくイベントを進めますね。 ま、ゲームの中に居るのだからRTAでいいか。  ロミアに未練のサクヤ……鬼畜勇者サクヤになってますな。
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