75話 港区女子サクヤ?
このいかにも『女ダマして人生舐め腐って生きていこう』なんて考えてそうなエセイケメンの小僧。そいつの誘いに私はこう返してやった。
「わぁ、ありがとうございます。お兄さん、カッコよくて優しいなんてイケメンすぎますね!」
瞬間、場が凍りつくような冷ややかな空気となった。
「サクヤ、おまえ……」
「なんや、この気持ち悪いサクヤはん。メスになったら最悪やな」
「まさにギュラブラック。闇の化身そのものです」
みんな、そんな目で見ないでよ。私だって、たまには女を使ってクエストを進めるんだよ。こんなエロ臭いかっこう強いられているんだから。
というわけで、みんなでこのうさんくさい男の誘いに乗って、どこぞへと向かうことになった。
いや、私がこの男の口車に乗ったフリをしてるので、みんなは仕方なくついて来ているのだが。
もちろんクエストのコースからは外れまくりだ。
「俺、志村卓也。女の子からはシムタクで通ってるの。ヨロシクッ」
「シムタクさんですかぁ。この女の子に優しい感じ、ちょいイケメンって言われません?」
「いやー俺って女の子に頼られちゃうタチだからさぁ。自然と、こうジェントル? な感じになっちゃうんだよ。だから、ぜんぜんイケメンとかじゃないから」
「それって、すでにイケメンです! その格闘家のスタイルもイケてます。ワイルドの中にオシャレなセンスが光っていて。マジになっちゃう女の子とかいるんじゃないですかぁ?」
「ナイナイ、俺ってぜんぜんモテないから。女の子にいいように使われてるだけだから」
ああ、腐れタラシ小僧と腐れイタダキ女子っぽい会話だなぁ。
まさにキツネとタヌキの化かし合い。
雄ギツネは娘をたぶらかそうとし、タヌキ娘はたぶらかされたフリをする。どっちが役者が上かの化し合い。
さてこのイケメン気どり、いかなオチを用意してくれるのか。
と、いうわけで連れられた場所は、イベントの虎ゴーンとは何の縁もない森の開けた場所。そしてそこには、かなりの数のプレイヤーが集っていた。
私の担任だった鹿島先生とかクラスメイトだった生徒もいる。その他、学校の後輩や教師なんかもいる。どうやらアタリだ。
さて、ここのボスらしき者は教師ら大人達を差し置いて中央の椅子にドッカリ腰を下ろしているガタイのいいヤンキーっぽいリーゼントのお兄ちゃん。どうやら格闘家だ。
「あれ? 君って……たしか松之内くんだっけ?」
隣のクラスに昔の番長みたいな人で有名だった男だ。テストは毎回赤点だった反面運動神経はかなりよく、高校生ながらMMA格闘技ジムでプロになったとか。
「オゥヨ、さすが”気合い”はいったナリの女だ。オレのことを知ってるたぁヨ。”松之内小力”。こいつらの勇者やってんのヨ。ヨロシク」
本当に昔のヤンキー漫画みたいにしゃべる人だなぁ。
「勇者? それって具体的には何をしてるんです?」
「無論、ここのラスボスの魔王ザル、ザル……ザルそば? だったか。そいつをブッちめて元の世界に帰るってわけヨ。んで、そのためのレベル上げの真っ最中ってことでヨ。お前らのパーティー。オレの経験値にさせてもらうゼ!」
君のIQじゃ【魔人王ザルバドネグザル】という名称は覚えきれなかったか。
「フン、やっぱりそういう話か。かえり討ちにしてくれる」
ラムス、ちょっと黙ってて。
「経験値がほしいなら、もっと先のエリアでモンスターハントしてきたら? そもそも序盤のこんな所で集まってないで、ゲームを進めるべきでしょう」
「そうですよ。進め方がわからないなら、教えてあげてもいいですよ」
「悪いがヨ、そんな”マトモ”じゃこのゲームはクリアできねンだわ。ま、ゴチャゴチャ説明なんざ、かったリィな? さっさと”戦争り”合おうゼ?」
「ト、トラブ……? ああ、バトルしようってのか。そうだね、やろうか。で、この空間でのバトルは、最大でもパーティーを組んだ四人だけしか同時に戦えないんだけど。他のメンバーは誰かな?」
「オレひとりヨ。お前らは四人でかかってこいや。そのくれェのハンデはくれてやる」
「ヘェ、けっこう男らしいんだ」
「もっとも”テメーら”は何ひとつ出来ねぇだろーがナ。オレのレベルは86! レベル2のヒヨコどもじゃ、”超絶クールな殺戮ショー”だなぁ?」
ちょっとシャレにならないレベルに丹沢さんもビックリ。
「ち、ちょっと! ラムクエのラスボス討伐推奨レベルは70ですよ! なんで魔人王に挑みもしないで、こんな所でこんな事してるんです!?」
「たりねぇーんだヨ。この程度じゃな。あの野郎にはぜんぜんダゼ!」
なおも彼に何かを言おうとする丹沢さんの肩をつかんで止める。
「ま、この世界は魔界貴族が何らかの目的で作った領域。それが『人間たちにゲーム世界で楽しく遊んでもらおう』なワケないしね。事情は一戦してから聞くことにしよう」
「これがサクヤはんの計画か。ここのボス倒して、ここのリーダーになろうってハラやな?」
「フン、それがあの酒場の姉ちゃんみたいなクソ寒い演技の理由か。なかなか良い計画だ。さっさとかたずけるとするか」
戦闘準備にはいるラムスとモミジ。さすが歴戦の本物は察しがいいね。でも……
「みんなは下がっていて。私ひとりでやる」
「サクヤはん、さすがにレベル80超えと一人でやるんは無謀すぎやで」
「あのガキ、さっきのシロウトどもと違ってデキる雰囲気はあるしな。ナメて格好つけてると、不覚をとるぞ」
「これは完璧に勝てる戦いなんだよ。レベルなんて関係なくね。だから私はひとりでやる。その方が要求を通しやすいからね」
「ふん? そこまで言うならいいだろう。まかせてやる」
「レベル差から、一発もらえばオシマイやで」
「大丈夫、一発ももらわずに勝つさ。……おや?」
私達をここへ連れてきたシムタクと唯ちゃんが松之内に何やら頼んでる。話を聞くに、どうやら私だけは助けてくれとか言っているみたいだ。
「あーシムタク? だっけ。それに唯ちゃんも。気持ちは嬉しいけど、今はいいからさ。さがっていて」」
「なっ!? おいサクヤ! このままじゃお前、殺されるんだぞ。せっかくオレが松之内さんにナシつけてやろうとしてんのに!」
「唯ちゃんに頼まれた? まさかヤレそうな女の子だからとかじゃないよね? じつはさっき言ったこと全部ウソ。君、ぜんぜんカッコよくないから」
「な、なあああ!? サクヤ、俺を騙したのか!」
「こんなエッチなかっこうした港区女子のセリフなんか本気にしちゃダメだよ。純情踏みにじってゴメンね」
「み、港区女子? その恥ずかしい恰好が? 野花センパイ、港区女子を何かとカン違いしてるんじゃ……」
”港区女子”って、たしかカワイイ顔で男の人を騙してお金をもらう悪い女の子だとか?
こんなエロしいかっこうで、男やら知り合いやらの視線の中に居て変なテンションになっちゃってるし、このキャラでいこう。
「よくわからんが、オメー、タチ悪いメギツネかヨ? そのエロしぃカッコで男騙してイタダキ系女子?」
「そうだよイタダキ系女子。君みたいなオッサンから身ぐるみ剥いだこともあるんだよ」
昔、襲いかかってきた同業殺しの冒険者を返り討ちにして、連中の装備をまきあげた事があったんだ。ちょっと港区女子っぽくないけど、結果は同じだかし、まぁいいか。
「そうかヨ。ならテメーとテメーの仲間、まとめてレベルにすんの罪悪感とかいらねーな。この勇者様が”夜露死苦”してやんゼ!?」
「ハン、なーにが”勇者様”だ。このニセモノめ」
「あん? オレをニセ呼ばわりたぁ、テメー自殺志願? ……あ、コロスんだっけ。なら”超絶殺戮ショー”のメインヒロインに決定!」
「ふふん殺戮ショーのいけにえ役は君だよ、松之内。いいか、君もまわりの手下どもも、よぉく聞け!」
「バッ」とラムスに向かって手をかざす。
「このお方こそ! このゲーム世界【鬼畜勇者ラムスクエスト】の主役にして勇者!! 鬼畜勇者ラムス様そのものだああ!!!」
「「「「「「「「「な、なんだってえええええッ!!!!?」」」」」」」」」
皆がいっせいに驚く。よしよし計画通り。
でもラムス、君まで驚いちゃダメでしょう。ちゃんと勇者っぽくしてくれないと。
「ハッ! なァァにが”本物の勇者”だヨ!? そんな低温いハッタリで、この松之内小力の”レベル80ブッ殺しパンチ”に耐えられるかヨ!?」
松之内は「ピキピキッ」と額に怒りマークをつけ、私をこえてラムスめがけて猪突猛進。
速い。レベル80は車並みのスピードになるのか。
されど私も剣術レベル10。目の前に音速で飛ぼうとも見切れる。
私を通り過ぎようとする松之内の、アゴ下の性感帯に「しゅるん」と指を這わせる。
「はおおおおッ!?」
それだけで松之内は「ズデン」とハデに転んだ。
私のエロテクもレベル10の最高値なのだよ。発情期エロ猿真っ盛りの男子高生など、指先ひとつで昇天だ。
まわりの手下たちからは「ザワザワ……ザワザワ」と動揺のささやきが聞こえる。
この屈強な男が簡単に転がされた理由がわからないのだろう。
されど松之内、ガバッと瞬時に起き上がり私を睨みつける。
「オメー、ただのエロス要員じゃねぇナ? 名ァ吐けや!」
「私はこのラムスクエストのニューヒロイン。港区女子のサクヤだ! 気持ちよく眠らせてあげるよ」
「タタンッ」とステップを踏み、スキル【眠りの踊り】をはじめた。




