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74話 はじめてのスキルダンス

 バシュッ ビシュッ ドシュウウッ


 「うおりゃっ。フハハハ、どうした隙だらけだぞ」 


 「くそっ、当たりやがらねぇ。一発当てりゃレベル2のHPなんざ消し飛ぶってのに」


 「そりゃっ! このザコどもめ。このままジワジワとHPを削りとってくれるわ!」


 レベルが15倍以上の相手との一対三の戦い。されど押しているのはレベル2でひとり戦うラムスの方だった。まぁラムスがあまりに優勢で、私たちは手を出す必要を感じないから見ているだけなのだが。

 むしろ相手はレベル30超えで得たパワーやスピードが空回りしてる印象だ。これも私には覚えがあるが、急に自分の力やスピードが上がると慣れるまでに時間がかかるのだ。


 「どうやら切り札のチートは切らんでええみたいやな。レベルは向こうのが圧倒的に上でも、剣士としての格はラムスはんが圧倒的や」


 「ラムスも剣術レベルが4だからね。あんなシロウトじゃ相手になるわけもない。そもそも討伐を依頼される魔物はみんな人間よりパワーもスピードも圧倒的。だから、こういう戦いは慣れっこなんだよ。でも……」


 でも、それだけで終わる相手でもない。ここがゲーム世界で、レベルが30もあるならね。


 バシュウッ

 またしてもすれ違いざまラムスの剣が大きくきまる。だんだん三人の顔がけわしくなってくる。


 「くそっ、もうHPが半分も削られちまったぜ。コイツ、見た目通りのプロかもだぜ」


 「まるで当てられる気がしねぇ。強いじゃねぇか」


 「ふふん。たいそうな事を言っても、つまらん腕ではないか。このままジワジワなぶり殺してくれるわ」


 「ちっ、面倒な低レベルだぜ。しかたない。ザコに使うなんざ屈辱だが、必殺スキルを使ってさっさと終わらせる。お前ら牽制してろ!」


 これだ。職業(クラス)特有の必殺スキル。ゲーム世界にはこれがあるから、シロウトでも侮れない。

 格闘家と盗賊が剣士を守るように位置をとり、攻めることなく構えをとる。そして剣士のMPが減っていくにつれヤバイオーラが出てきている。


 「ヤバイで。アイツが次に放つ斬撃。そいつはかわすことが出来ん」


 「わかっている。モミジは丹沢さんを守っていて。私もそろそろ参加する」


 私はスキルのステップを踏み、剣士の元へ躍り出た。


 「くらえ、ギルティクラァーッ……ぶぉっ!」


 「フワリ」DQN剣士の目の前にいきなり私、登場。ほとんどヒモなブラをつけた胸元をアイツの目の前に置く。こんな筋肉だらけのボディでも男の子を悩殺できるとか、ちょっと嬉しい。

 そのまま【眠りの踊り】を踊る。今度は複数ターゲットでまとめて三人ともだ。


 「ちっ、遊び人の女か。もったいねぇがスキルの踊りなんてされちゃあ、しょうがねぇ。アバヨ!」


 相手は「シュバッ」と斬撃を放つも、スルリとかわす。もちろん踊ったまま。

 さっき【悪愚哩】って達人とやり合ったせいかな。スローすぎて眠くなるぜ。


 ビュンッ ビュビュンッ ビュルンッ 

 なんか楽しくなってきた。紙一重の回避が笑えるくらい楽しい。


 「な、なんだこの女! なんで当たらねぇ!? 踊りを止めることすら出来ねぇ! おい、手伝え! そんなザコ剣士よりコイツを止めねぇとヤベェ!」


 盗賊と格闘家も私の撃破に参加する。けど、連携はバラバラでまったく問題にならない。

 たわむれに前髪を少し切らせてあげたら、『惜しい! あと少しだ』とか勘違い。

 少しも惜しくなんかないんだよ。

 君達の動きなんて動く前から見切れるし、後ろから襲おうとも雑な殺気でバレバレだ。


 タン タタン スタタタン タタン


 「フィニーッシュ!」


 大きくステップを踏みポーズをつけてスキルダンス終了。


 「くそっ……三人がかりで踊りを止めることすら出来ねぇ……バケモノめ」


 DQN三人組は無念そうに倒れて眠った。


 「ふふん、この愚か者め。オレ様たちに勝てると思ったか、このザコめ」


 ラムスは追い打ちとばかりにボコボコ殴ってHPを減らしてゆく。


 「ラムス、そこまでだ。トドメはこいつらにやらせる」


 HPがゼロになる瞬間攻撃をやめさせて、ホーンラビットにまかせる。

 ホーンラビットのアタックが決まった瞬間、HPはゼロになって三人の体は消えた。ゲームリスタートだ。レベル1になって開始位置に戻されたのだ。


 「ちっサクヤ、どうして止めた。あんなヤツラ、ゾンビになってもかまうまい」


 「ダメだよ。彼らを救助しに来た私達がそれをするわけにはいかない。それにこのゲーム。一見モンスター狩りのRPGに見せかけているけど、どうも人間同士が殺し合うよう誘導されている気がするんだ」


 「スルドイな、サクヤはん。そうや。このゲームではモンスターには殺されない。己を殺せる最大の脅威は人間。ルールからそう設定されているんやし『やられる前に殺れ』な方向に向かうんは自然の流れや」


 「わかりません。だからといって、どうして人間同士が殺し合う方向に行ってしまうんです? みんなで協力してゲームクリアした方が良いに決まっているはずなのに」


 「その辺の情報を聞いておかんといかんかもな。開始位置までもどってヤツラに話聞いてみよう。今ならヤツラはレベル1。平和的にみんなゲロってくれるで」


 モミジのこの提案に、少し考えてこう答えた。


 「……いや、先を急ごう」


 「サクヤはん?」


 「理由はどうあれ状況は悪化しているみたいだからね。理由なんてそのうち知り合いにでも会ったら聞けばいいし、ゲームを早くクリアすることを優先しよう」


 「そうだな。そろそろこんな場所もあきたし、次の場所へいくぞ!」


 「それもそやな。じゃ、最初のイベントでもクリアしに行こうかい」


 「私、ぜんぜん魔法ためしてないんですが」


 ステータス画面の進行表によれば最初のイベントクエストは、最初の拠点となる街にて、とある依頼を受けクリアすること。

 さっそくその街に入ってみる。


 「うわっ、なつかしい。これって昔のメフトクリルじゃない?」


 「そうだな。お前と二人で冒険者してた頃はこんな感じだった。お、あの辺も家がない。今はもっと建物も増えているのにな」


 「へぇー。咲夜さんってこの辺を知っているんですか」


 「うんうん、昔ここの冒険者宿屋に暮していてね。それでギルドでいろいろ依頼を受けつつ……って、そんな事はどうでもいい! ギルドに急ぐよ」


 危なかった。丹沢さんが「ニマー」とした笑顔で、私の過去を探ってきたけどギリギリセーフ……いやギリギリアウトかもしれない。

 ここのギルドマスターもなつかしかったけど、態度には出さずにクエストを受ける。

 最近、あちこちの村を襲って人や家畜を襲う大型モンスターを退治してほしいとのこと。それはハジマーリ大森林の奥にいる虎ゴーンだそうだ。いやこの依頼、本物を受けたこともあるんですけど。

 だけど、街を出た時にまたしてもヤツラが出た。


 「君たち。こんな最初のイベントをこれから始めるってことは、ここに来たばかりだね」


 男ひとりに女の子三人のハーレムパーティー。

 リーダーの男はマッチョでイケメンの格闘家。けど、うさんくさそうで、いかにも何かをたくらんでる風だ。


 「クリアの方法教えてやるよ。ちょっと向こうに行こうか」


 やはり低レベル狩りか。いったい何故にこうも人間を狩ることが蔓延してるのか。

 だけど、その後ろで申し訳なさそうにうつむいている女の子を見て、私は息を飲んだ。


 「ちっ、またしてもアレか。おいサクヤ、コイツらの背後は少し大きそうだ。今度こそトドメを刺すか?」


 相手の背後に大きな組織がある場合、目の前のそいつらを情け容赦なく始末。背後に警戒させて手出しをためらわせるのは場合によっては良手。だけど……


 「だめ。殺さないで征圧するよ」


 後ろの女の子達はみんな学校での知り合いだったりクラスメイトだったり。

 しかもその中のひとり。それは私が学校で一番仲良しだった後輩の唯ちゃんだった。

 あの子がなぜ低レベル狩りなんかに手をかしているの?


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― 新着の感想 ―
[一言] >丹沢さんが「ニマー」とした笑顔で、私の過去を探ってきた  はい、別の意味で油断できませんね。 >一番仲良しだった後輩の唯ちゃんだった。  これは、見逃せない。 そして、サクヤの友人だと…
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