73話 初心者ハンター
ハダカ同然の恰好で野外はおちつかないけど、これもクエスト。早めに遊び人スキルを使えるようにして、ゲームをクリアしないと。
「まずは約二時間半後に来る最低レベルの足切り。それをどうしのぐか、だけど」
「ま、それに関してはあんま心配せんでもええわ。いざなったら、システム介入のチートでウチら全員レベル99とかも出来るし」
おおっ! モミジはそんなチートが使えるのか。この子の存在自体がチートだ。
「なんだと? では、すぐにやれ。最強レベル無双でザコどもを蹴散らしてゆくのだ」
なろうファンタジー発想だなぁ。それをやってラムスが勇者になる未来を奪った私にはなにも言えないけど。
「けどそれが出来るんは、ギリギリまでゲームマスターの魔界貴族に知られとうないわ。それに序盤でチート使わなあかん程度のウチらやったら、大物喰いなんて狙わんほうがええで」
切り札はトドメまで使わない覚悟が必要か。たしかに最大の難関はこのゲーム世界の奥に居る魔界貴族をいかに倒すかだし。ここは知識と行動で乗り切ろう。
「レベルは高レベルモンスターを狩れば簡単に上がるし、最初はまっとうな方法でレベル上げをしよう。まずは肩慣らしに最初の狩り場へ行くよ」
初心者向けフィールドは森の手前の開けた場所。そこには小型のあまり強くないモンスターがウロウロしていた。
「ホーンラビットにプルプルスライム。低レベルのザコだな。お、こいつらヤケに好戦的だな。いつもは逃げ回っているくせに」
「こいつらは本物やなくてゲームのために作られた存在やからな。まずは、こいつら相手に戦い方の確認や。高レベルを狩るのはそれからや」
「ふん、オレ様にこんなザコで学ぶことなどない。そりゃ!」
ラムスはホーンラビットの一体に「バシュッ」と斬撃をいれる。されどホーンラビットはなにもなかったように攻撃を続ける。
「なんだ、斬ったのにまるで効いておらん。不死身か?」
「そうやない。そいつの近くにHPのメーターがあるやろ。そいつがゼロになるまで存在し続けるんや。かまわず続けてみぃ」
ラムスはさらに二回切りつけるとホーンラビットは消えた。
「幻術で作られたモンスターみたいなものか。ちっ、面倒な」
ラムスはヤケになってそこらのザコモンスターを狩っていると、やがて私達のレベルが2に上がった。なるほど、経験値はパーティーメンバーに均等にか。
「よし、そんじゃしばらくそれぞれのスキルの練習や。とくにサクヤはんの”踊り”はしっかり見につけるんやで」
ステータスを確認すると、私の現在のスキルが表示される。
【回復の踊り】【混乱の踊り】【眠りの踊り】か。
ためしに【混乱の踊り】を選択。すると脳内にふりつけやステップの踏み方が思いうかんだ。その通りに踊ってみる。
「ふんふん、どうやらスキルを狙った相手にだけかけるんに、特別なことは必要ないようやで。ただ正しいふりつけとステップを踏んで踊りきれば良いみたいや」
「それだけ? ずいぶん簡単だね」
「踊ってスキル発動しようとすりゃ、当然相手は邪魔しようとするで。そこで中断したりふりつけ間違えれば、自分らにかかってオシマイや」
「なるほど。踊りきる工夫と度胸と技術がためされるわけだね……わああっラムス! そのラビットにスキルをかけてる最中だったのに!」
私が踊りスキルで狙っていたホーンラビットをラムスが斬撃で倒してしまったのだ。思わず踊りをやめてしまう。
「お……おおおおっ!? こんなところに大物モンスターが! くらええい!!」
「わあああっラムス、私だよぉ!!」
ラムスは混乱して私に斬りかかってきた。踊りに失敗すればこうなる訳か。
ビュンッ ビュビュンッ ビュビュビュンッ
「サクヤはんっ! ラムスはんの剣に当たってHPがゼロになったらゾンビやで!」
「わかっている。私は大丈夫だから、みんなは近づかないで」
どうやら【見切り】のスキルは生きているようだ。ラムスの斬撃を紙一重でかわしてゆく。
「おのれ、このモンスター素早い……あ、あれ? サクヤではないか」
ラムスは正気に戻り剣を止めた。
約一分ほどの混乱。それがスキルの効果時間みたいだ。
「大丈夫ですか咲夜さん! すごく危ないところでしたね」
丹沢さんが青い顔で駆け寄る。
「まぁね。でもスキル【踊り】の効果と失敗した場合が知れたし。今度は『戦いの中で踊る』って状況をためしてみたいな」
「タフですねぇ。今さっきゲームオーバーでゾンビになりかけていたのに」
「こんなの、冒険者稼業やってればしょっちゅうさ。ラムスもモミジもまったく慌ててないだろ」
ラムスは面白くなさそうに剣を振っているし、モミジはあさっての方向を見ている。と、モミジは何かを発見したようだ。
「おーい、向こうから別のパーティーが近づいてきよるで」
たしかに森の奥の方から三人の男の子たちがやって来る。
「あっ、ちょうど良いですね。このゲーム世界に捕らえられた人達はどうなっているのか聞きましょう」
「そうだね……うん?」
なんとなくだが、その三人から剣呑な殺気めいたものを感じた。
「おいサクヤよ。これはもしかしてアレだぞ」
「アレかもね。名を上げてからは来なくなったんで久しぶりだ。ここに捕らわれている人達も、冒険者の裏の流儀に染まっちゃったかな」
ラムスと二人だけで冒険者をやっていた頃を思い出した。あの時はリーレットも荒れていて、冒険者も外道が多くいたもんだ。
三人のそれぞれの職業は剣士、格闘家、盗賊。術士のいない超速攻型パーティー。
三人の見た目はあどけない顔のちょいイキがっている年頃の兄ちゃんぽい。もっともその顔には、ある種の凶悪さが透けて見えていた。
「やぁ君たち。ここに来たばかりだよね。レベル2? まだまだだね」
剣士の彼が話しかけてきたので丹沢さんが代表で対応する。
「はい。私達はここにとらわれている人達を救助に来ました。よろしければ、ここで起こった詳しいことをお聞きしたいのですが」
「ああ、いいですよ――話しましょう」
「はい、ありがとうございます。でも……どうして剣を抜いているんですか?」
瞬間、私は丹沢さんのローブの裾をつまみ思いっきり引っ張った。
丹沢さんが元いた場所に「ブォン」と鋭い斬撃が流れる。
「あ? もしかして読まれた?」
「な、なにをするんですか! 危ないじゃないですか!」
丹沢さん、自衛官のくせにニブいね。殺されかけたのに、まだ相手を『まとも』だと信用してるのか。
リーレットに来たばかりの私もそんな感じだったから、無理もないけど。
「あいつらは人間狩りだよ。冒険者の中にはモンスターより人間の方が簡単に狩れることに気づいて、堕ちるヤツは多いんだ」
「この冒険者ゴロめ! オレ様たちを狙ったのが運のツキだ。喰らえい!」
バシッ ドカッ ドシュッ
すかさずラムスは鋭い斬撃を三人に見舞う。だけど……
「なっ!? 効いてないだと?」
三人はまったく平気な顔をして立っている。小バカにしたような笑みさえ浮かべている。
「へっ、俺たちゃ全員レベル30超えてるんだ。ザコ狩りなんで簡単に終わらせてやろうとしたのによォ」
レベル差か。たしかにゲームを始めたばかりの私達はザコ。それを狙った初心者ハンターということか。
さて、どうしようか。




