72話 キャラクターメイキング
メラが説明したゲームのおおまかなルールは次の通り。ゲーム内の細かな設定なんかはステータスオープンで知ることが出来るようだ。
1. ゲームに参加しプレイヤーとなれば、水と食料を摂取しなくても生きていけるようになる。
2.プレイヤーは参加を宣誓後、職業を決めなければならない。その種類は【剣士】【格闘家】【黒魔法師】【白魔法師】【盗賊】【遊び人】の六種。
3. 誰かがラスボス・魔人王ザルバドネグザルを倒せば全ゲーム終了。学校にとらわれた人間はすべて解放される。
4. 魔人王ザルバドネグザルを倒したパーティーにはどんな願いも叶えられる報酬が与えられる。これはパーティーメンバー全員が一つずつである。
5. パーティーシステムについて。
プレイヤーは四人までパーティーを組める。ただし、同じ職業の者とはパーティーを組めない。またモンスターを倒した際の経験値・レベルアップ報酬などは、誰が倒してもパーティーメンバー全員に与えられる。
6. モンスターとの戦闘において敗北した場合はレベル1に戻る。これはボスキャラとの戦闘においても同様である。
7. プレイヤーは他プレイヤーへ戦闘をしかける事ができる。
勝利したプレイヤーは相手のレベルに関わらずレベルがプラス10。ただしこれは、倒したプレイヤーのみに与えられる報酬である。敗北したプレイヤーはログアウト。
8. 四時間ごとにレベル最下位の者はログアウト。
7と8にある”ログアウト”というのはゾンビにされるということだね。モンスターに負けてもレベル1になるだけなのに、人間に負けたら死亡というのはエグイね。
「それにしても、どうしてベースがラムクエなんでしょうねぇ? エロゲでなくても、優れたPRGはいっぱいあるのに」
丹沢さん、やっぱりその辺を探るためにこの危険なゲームに参加したのか。
「さてね。メラがファンなのかもしれないな」
「ラムスさんとモミジさんって、ラムクエのキャラですよね。それに咲夜さんの使っているメガデスって、ラムスが最終的に手に入れる聖剣と同じですね。やっぱり何か関係が?」
「さぁね」
くそっ、こうも質問攻めにされるのも気分悪い。こっちも逆に聞いてやる。
「それにしても丹沢さんが『高校生のころラムクエをやっていた』って、計算が合わなくない? そこから防大四年のあと任官って。あと二尉まで昇進したのなら任官実績とかもいるし」
「じつは私、本来ならまだ防大生なんですよ。在学中に、とある大きな情報戦に駆り出されましてね。で、大きな実績を出したんでそのまま任官。少し上の権限を与えたいとかで、二尉にも速攻で昇進しました」
サラッとスゴ腕エピソードの過去! この人、情報官レベルすげェ!
「丹沢さんがそれほどの腕をもっているなら、このゲーム中に疑問なんかはわかるかもしれないよ。さっさとキャラクターメイキングをすませてゲームを開始しよう」
さて、【鬼畜勇者ラムスクエスト】において最初からラムスの従者としてついているノエルは、キャラクターメイキングで職業を変更することができる。それが上記六つの基本職業だ。成長すれば、それぞれの強力な上位職業に変更できる。
このシステムを流用して、ゲーム内の自分の職業を設定できるらしい。
「よし、まず私の職業はとうぜん剣士だね」
「いや待てサクヤよ。剣士はオレ様がやりたいぞ。オレ様に他の職業など出来ん!」
む。しかし私も他の職業なんて出来ないし、どうしよっか。
「サクヤはん、ここはラムスはんに譲ってええで。サクヤはんには他に頼みたい職業があるんや。このゲームで勝つためのな」
「勝つために必要となれば、引き受けざるを得ないな。じゃあ剣士はラムスで」
「いよっし! 久しぶりのオレ様の華麗なる剣技、見せてくれるわ!」
やっぱりラムスクエストのラムスは剣で戦わないとね。他の職業とか、ちょっと似合わないし。
「ウチは盗賊や。速攻クリアのため、ちょい小細工したいからな。盗賊の素早さと器用さはうってつけや」
「じゃあ私は黒魔法師やります。魔法とか一度使ってみたかったんです」
で、モミジの言う”勝つために私に頼みたい職業”というのは……
「あ、遊び人”? これってゲーム難易度を高くして遊びたい人向けの、ネタキャラ的な職業なんだけど」
”遊び人”別名”踊り子”。男の場合は”道化師”。
遊び人のスキル【踊り】は、さまざまな特殊効果をもたらすもので、最初から強力なものもある。
しかし効果が『味方全体』『敵全体』『敵味方すべて』の三つからランダムで選ばれるため、使いにくいことこの上ない。
「それに実際にあのキャラをやるとなると、戦闘中に無防備で踊ってなきゃなんないんだけど?」
誰かとパーティーを組んで守ってもらう事が前提のうえ、スキル効果もランダム。おまけに戦闘中に防御もできないんじゃ、パーティーメンバーとしてもとても使える職業じゃないよ。
「戦闘中に踊るくらい問題ないやろ、サクヤはんなら」
「気配察知と見切りのスキルが使えるなら、よほどの敵でもないなら」
「それにランダム効果の問題やけど、それを自由に操れるとしたら?」
「……なるほど。モミジはシステムの解析が出来るんだったね。つまり強力なスキル効果のメリットのみを享受できるわけか。わかった。やるよ」
全員の職業が決まったところで、ゲーム参加を宣誓。それぞれが剣士の鎧、盗賊の猟師、黒魔法師のローブ姿へと変わる。そして私の姿は……
「うわあああっ! なんだよ、このエッチな衣装はあああっ!」
はい、踊り子の衣装です。上はヒモのようなビキニ、下はヒモのようなパンツ。あとはハデな腰巻にアクセサリー。
「うっひゃああ。サクヤはんのこないな恰好、衝撃的や。ユクハやウチにはさせた事あるんに、自分だけは絶対やらんかったからなぁ」
「私は可愛い女の子にエッチな衣装着せて楽しむ派なんだよ! 自分が着て誰かをエレクトさせる派じゃなーい!」
「ウチやユクハもそんな趣味ないわ。ハーレムマスターなサクヤはんのわがままでやっただけや」
そんなモミジとの会話で、丹沢さんの私を見る目がどんどん険しくなる。
「咲夜さん……最低です。あなたの活躍を応援してる女の子もたくさんいるというのに」
「ケッ、みんなのアイドル、カリギュラも人間。闇のひとつもあるんだよ」
「”ギュラブラック”ってそういう意味だったんですか。咲夜さんが鬼畜勇者ラムスに見えてきました。その名を持つそっくりさんがここにいるのに」
そしてラムスは不機嫌顔。
「なぜオレ様の名が最低野郎の代名詞みたいになってるのだ。だいたい何だ、その【鬼畜勇者ラムスクエスト】というのは。オレ様の名を勝手に辱めるな!」
「たしかにラムスはんの名とリーレットを舞台にしたゲームがあるのは謎やな。住まいにやたらと関連してるモンがあるのに、調べんかったのは落ち度やったわ。帰ったら本格的に調べてみようかい」
くそっ、こんな細いビキニで踊ったらこぼれちゃわないかな。ムダ毛処理とかも雑なのに。
ともかく、それぞれの職業も決まり、私たちは最初のモンスターフィールドに行くのだった。




