71話 学校の中のラムスクエスト
「A班よりマルマル。ただいま諸菱高校校舎内一階階段前に到着。応答されたし――ダメか」
「こちらもダメです。たしかに校舎内では通信設備は一切使えなくなるようです」
情報通り、校舎内では一切の通信は出来なくなるようだ。
自衛隊のみなさんはいろいろ試しているけど、結果は変わらない。
「こん館ん中は、かなり時間かけて結界施されてるみたいやからなぁ。とどまるんは危険やし、さっさと先行こうや」
「メラ。ルルアーバはこの校舎に何をしたか知っている?」
「さてな。ピエロはしばらくここで暮らしてたが、何をしたかは聞いてねぇな。ま、見たまんまだ」
「ふうん? やっぱり君は下っ端か。ルルアーバに使われてるだけの捨て石」
「挑発か? それで怒ってなにか吐くと期待でもしてんのかヨ? 捨て石上等。せいぜい命捨てる前に、てめぇらをでっかくハメてやるさ」
なに、このちょっとカッコいいセリフ。
チンピラらしくルルアーバに怒り狂って情報とかブチまけてくれれば苦労はないのに。
こうもハラをすえてあえて捕虜になった相手じゃ、こちらもハラをすえて対抗するしかない。
「だったらメラ。せいぜい私をハメてみせなよ。この先の趣向、楽しみにしているよ」
メラは挑戦的にニヤリと嗤う。
「なら、警戒ばっかしてないでさっさと行こうぜ。人質の居る場所はちょっとしたゲームになっている。きっと楽しいゼ」
「ゲーム?」
そう言えばゾンビにされた人達を見て違和感があった。ケガや噛まれた跡もなく服も破れていない、キレイすぎる死体なのだ。もしかして……
「もしかしてゾンビにされた人達は、そのゲームに負けた人達?」
「ご名答。冴えてるね咲夜さん。それが歴戦のカンってやつか?」
そうしてメラは校舎東棟の二階に連れてきた。そこが専門教科棟になっている。
入り口には防火シャッターが降りていた。各階でこれがついているのは知っていたが、閉じているところを見るのは初めてだ。
「ここだ。人質はまとめてここに居る。ここの非常扉から入るんだ」
防火シャッターには中の人間が出入りできるよう非常扉がついている。ありふれたものだが、モミジはその防火シャッターを興味深げにマジマジと見てる。
「ふーん、これは?」
「モミジ、どうしたの?」
「こん扉、大がかりな空間魔法の結節点のひとつやで。扉ひとつ向こうん中は、魔法で作られた世界や」
そうか、モミジの錬金鑑定眼! 彼女の眼はあらゆる物質の構造を解析することが出来るんだ。こういった罠を警戒しなきゃならない場所では非常に心強い。
「これはブッ壊して入った方がええな。こんまま中に入ったら、中の世界のルールに縛られるかもしれん」
「ふふん、まかせて。こんなもの一発でコナゴナにしてあげる」
メガデスをふり上げ、破壊系スキルを出そうとかまえる。
と、メラがたしなめるよう言った。
「コイツを壊せば、中の人間は全員死ぬそうだぜ。ピエロがそう言っていた」
「ピタッ」と振り下ろす腕が止まった。なんか、ぶっそうな事を。
「ハッタリだね? そんなチャチな嘘で罠を守ろうとしてもダメだよ」
「ま、かまわず壊すってんなら、俺に止めるすべは無いわな。しかしピエロは、あんたらが扉を壊そうとする事は読んでたぜ。で、そうしようとした時は俺が忠告しろってな」
「……くっ! モミジ、どう思う?」
「本当に読まれてたんやったら、そういった仕掛けをする事は考えられるわな。しゃーない。まずは中に入って、その皆殺しの仕掛けを外すとしようや」
「中に入るのか……魔法で作られた世界なんかに入って大丈夫かな?」
「ウチはどんな魔法の構成術式でも見破れるんやで。安全が確認できたら、そのインチキ世界キッチリ消したるわ」
モミジは「チョンチョン」と瞼を指でつっついて自身ありげに言う。
頼もしい! そうだ、錬金鑑定眼ならどんな魔法ギミックでも解析可能だ。
なら、あえて敵の手の内に入ってもいける!
「ま、心配しなくても、入っていきなり殺しにきたりはしねーよ。まずは中でゲームの説明とルールを教えてやる。来な」
メラは非常扉の中に入っていった。私達もそれに続く。
そして、その中の世界に驚いたのであった。
「これは……」
ここは学校の中……のはずなのに屋外だった。
いや、この世界のものでない、別世界の森と草原と荒野がひろがっている。そしてその景色は見覚えのあるものだった。
「おい、ここはリーレットではないか! オレ様達はもどって来たのか?」
「ちゃうわラムスはん。こいつは魔法で作られた仮想空間や。しかし……甘く見てたわ。こいつをつくった魔族はそうとうの大物やで」
「ああ。たしかにピエロは魔族の大将、魔界貴族の領域とか言ってたな」
魔界貴族!? ついに出てきたか!
「人質はこれに全員参加してるって言うけど、それほどの数は見えません。どれだけ広いんでしょう」
まいったな。お兄ちゃんでもこれは予想してなかった。このままこのゲームをやる流れに乗っていいものか。
ともかくメラからこの世界の情報を聞いて考えるしかない。
「さて、説明を始めるぞ。ここは【鬼畜勇者ラムスクエスト】って昔流行ったエロゲーを元にした魔法仮想空間だ。勝利条件はラスボスの魔人王ザルバドネグザルを倒すこと。それでここに参加している人質は全員解放される」
「なぁっ! 魔人王ザルバドネグザル!? そいつは無理ゲーや!」
「落ち着いて。ゲームの魔人王は本物みたいに理不尽な存在じゃないから。レベルを上げて装備アイテムを揃えればちゃんと倒せるように出来ているんだよ」
しかしやはりラムクエがベースか。だったら景色がリーレットなのも当然だ。
ざっと解説を受けてゲームの概要を知る。やはりPRGルールらしい。
「さて、問題はこのゲームに参加するかどうかだけど。これは予想外すぎる。先にルルアーバを倒して、あらためてここに来るべきかな?」
「いいや、やるぞ! 面白そうだ。久しぶりにモンスター退治のクエストもやってみたい」
そういうのは、いいから。
「ウチも”やる”に賛成や。これは勝てるゲームや。こんな電脳世界作って閉じこもってるんが運の尽きや。魔界貴族を倒す千載一遇のチャンス、モノにしようや」
モミジは目をチョンチョンとつついて自身たっぷり。
そうか、すでに錬金鑑定眼で勝ち筋を見つけたのか。ならば挑戦あるのみ!
とはいえ、最悪の場合の保険はかけておくべきだろう。
「よし、やろう。ただしやはり危険はあるから保険はかけとく。自衛隊のみなさんと真琴ちゃんは参加しないでほしい。私とラムスとモミジでクリアする」
「ええっ! どうして私だけ仲間外れなんです?」
「真琴ちゃんの力は切り札だからだよ。私達がゾンビになって帰ってきた場合、ここの危険度は極大。人質にかまわず消滅させてほしい。自衛隊のみなさんは真琴ちゃんを守ってください。この子は人類の切り札ともなります」
「うむ……それは引き受けよう。ただ、やはり君達には帰ってきてほしい。君達の力や知識はこれからもアテにしたい」
いや、私達はこのクエストが終わったら帰るつもりなんですけど。
「あのー、いいですか?」
と、丹沢さんが手をあげて言ってきた。
「どうした丹沢二尉」
「ルールでは『パーティーは四人まで』とありましたね? あと一人入れるなら、私も参加しようと思います。昔、PRGはよくやっていたし、ラムクエも一通りはプレイして概要は知ってますし」
「エロゲーを? 女の丹沢さんが?」
「PRG自体が面白かったんですよ。そういうイベントは見ないようにしてました。まだ高校生だったし」
18禁違反者が自衛隊にも!
「うむ……この空間のデータも欲しいところだしな。咲夜さん、丹沢をお願いできますでしょうか?」
パーティーメンバーの数は力だし。先の展開を知っているのも心強い。
「わかりました。それじゃこの四人でゲームをプレイしよう」
こうして私達のゲーム世界クエストははじまった。
そういや初めてリーレットに来たとき『プレイしてたラムクエ世界に来てしまった!』とか思ったのを思い出した。
昔、ゲーム世界もの書くのに挑戦したけど難しくて断念したことがあります。その時考えた設定を使ってここで書いちゃえ。




