67話 諸菱高校突入
そして二次諸菱高校遭難者救出作戦決行日。私達は自衛隊の中型トラック1トンハントラックにて、現地の諸菱高校に向かっている。
ラムスは冒険者の鎧と剣。それに撮影特化のスマホ。真琴ちゃんは白いローブと大きな杖。いつも通りの装備と言っちゃあ、それなんだけど。
でもモミジの装備はまったく違う。頭には何やら特殊センサーがゴテゴテついたヘルメット。体は近代的なアーマーを身に着けて、さらに武器はバズーカのようなもの。しかし砲身の先は弾の発射されるような穴はなく、代わりに反射板のようなものが付いている。光線銃?
「わはは、なんだモミジ、その恰好は。こっちの世界の機械まみれではないか」
「ジエータイのおっちゃんから、魔族倒せる武器や装備の開発依頼されとってな。ちょうどええんで、このクエストで試作をためそ思うてな。こいつが光ったらドえらい事になるでぇ」
「モミジさん、しゃべりながら私のアレをニギニギしないでください。岩長さんから『あまりイジるな』と言われて、すっかり変態あつかいです」
とまぁ自衛隊の車中だというのに、みんなはいつも通りにぎやかだ。同乗している自衛隊の部隊の人達は背筋を伸ばしてひと言もしゃべらずに居るのに、恥ずかしい限りだ。
「すみませんね長舩さん。自衛隊の人達はずっと黙っているのに、私達だけうるさくしちゃって」
この随伴部隊の隊長は長舩さん。前回の出動はケガの関係で待機だったけど、今回は指揮をとれる人間がこの人だけなので、引っ張り出されたそうだ。
「気にすることはない。救出作戦の主導は君達だ。私達は随伴、ついて行くだけだ」
彼の隣の女性隊員は丹沢さん。この人とはずいぶん会ってなかったな。
「『救出部隊が二次遭難で生死不明』なんて不様な結果ですから、しょうがないですね。ちなみに私、異世界の魔法使いの記録なんてとれることにドキドキしてます」
「丹沢さんも久しぶり。銃とか持ってないようですが、やはり記録専門?」
「です。情報通信科の手柄は敵を倒すことではありません。意義のある情報をひとつでも多く拾い集め、後の作戦に活かすことこそ誉れなのです」
さて、そんな車中の移動も終わり。トラックは止まって扉は開け放たれた。
「キューマルマルサンゼロ(9時30分)現地到着。諸菱高校正門前です。現場周囲のマスコミは現地隊員がおさえますが、話はしないでください」
「全員降車。これより諸菱高校救助作戦を開始する」
自衛隊の1トンハントラックから降りると、そこは懐かしの諸菱高校校舎前。されどその周囲はすっかり様変わりしていた。
周囲にはあらゆるマスコミと野次馬が所せましとひしめいていて、私達の姿が確認されると大歓声。カメラやスマホが一斉に向けられた。
「わはは、すごい人気だな。さすが人気パーティー」
「ホントすごい機械技術の世界やな。庶民がみんな、あんな高度な機械持ってるなんて」
「生徒の親御さんらしい人達もずいぶん居ますね。これは責任重大です」
パシャパシャとカメラ音がいつまでも鳴り響き、声援やらインタビューを求める声やらが投げかけられる。ネット記事でカリギュラの記事の多さで人気は知っていたけど、ここまでだったのか。こりゃ、隠れて暮らしてて正解だったな。
「おい、カリギュラのキメポーズとかやらんのか? たくさんのカメラがあって絶好の機会ではないか」
「今回はナシ。そのままインタビューの流れとかになったら出発が遅れちゃうよ」
「助かる。こちらとしても、ここで待機命令は出したくないからな」
ふと野次馬の群衆の中に、友達の親御さんの顔を見つけた。『お願いします。ウチの子を助けてください』の声に、思わず手を上げて応えた。
わきあがる歓声を背にうけ、私達は校門に踏み込んだ。
校庭に入ると、そこは別世界の人気のなさ。
かわいた風が吹きすさぶ中、目につくのはその中央に停まっている自衛隊の大きな車両。それはいくつものケーブルや機械に囲まれており、簡易指揮所として機能していたそうな。
「指揮車両だ。校庭では電波が使えるからここから通信をしていたんだが、校内の連絡が途絶えた報告の数時間後に、ここの人間も全員消えてしまったらしい」
「ま、その人達がどうなったかは知っていますけどね」
お兄ちゃんの作戦書類には、隊員のその悲惨な運命も書いてあったのだ。
「なんだと? どうなったというのだ。全員死んだのか?」
「そこらに居ますよ。みんな、ここで止まって。まずは私ひとりで行く」
訝るみんなを置いて、私のみ校舎に向かう。
メガデスの柄を握り一歩二歩三歩と歩む。すると……
ガガガガガガガッガガガガガガガ……
耳をつんざくような銃撃音。四方上空から豪雨のような銃弾の洗礼だ。
それを読んでいた私は、すばやくそこを飛びすさり、メガデスを抜く。
「スキル【雷鳥剣】!」
衝撃波を飛ばして身近な敵をなぎ倒す。
「ドサッ」と転がった襲撃者を見て長舩さんや部隊員は驚愕する。
「バカな! あれは救出部隊の隊員? どうしてこちらに発砲するんだ!」
倒れた彼らも、なおも校舎の陰から乱射しているのも自衛隊のアーマーを着た隊員だったのだ。
「クッ、まさか国防の責務を担った自衛隊員ともあろう者が、向こうへ付いたというのか?」
「彼らはゾンビにされてるんですよ! そして校庭の番人にさせられてるんです!」
「あれか! クッ、またしても隊員の尊厳を踏みにじるような真似を!」
銃弾をかわしながらひとり二人と、建物の陰から乱射してくるゾンビを雷鳥剣で倒してゆく。されど校舎の上から乱射してくるゾンビどもは、ここからでは攻撃できない。
「あれは厄介だな。いったん下がってみんなと協力して倒すか」
と、「うりゃああっ」とモミジの掛け声が響いた瞬間、校舎の上の乱射ゾンビ達に白い光が突き刺さった。するとそれらの体は崩れて乱射がやんだ。
「やったで! 試作浄化ビームガンは使えるやないか。距離も出力も申し分なしや。さすがこっちの『えるいーでぃー』ってのははちゃうな」
「LEDって照明の? そのビームはLED照明なの?」
「そや。知っての通り白魔法は光との相性がバツグンにええ。魔導器による簡易な浄化魔法も、この強力な光を発する『えるいーでぃー』と組み合わせることで増幅、輻射され、さっきの威力になるんや。蛍光灯の仕組み調べて再現するのは苦労したわ」
え? 教えてもらったんじゃなくて、自分で調べて作ったの? LEDとか別に機密でも何でもないだろうに。
「なるほど。では君にLED照明技術を早く教えていれば、このビームの開発は早まり、先の犠牲はなかったと」
「せやな。けど、異国人のウチに、そんな簡単にこんな強力な発光技術なんて教えられんやろ」
「うむ……しかし……」
長舩さんは微妙な顔。たしかに技術提供なんかの話は出来ないだろうけど、ありふれた技術でたくさんの隊員の命が助かったかと思うと、やりきれないだろう。
「おい、お前ら。何を敵地で話しこんでいる。このバカでかい館に入るんだろう。さっさと段取りを決めて、やる事をやったらどうだ」
おっと、ラムスの言う通り。技術の話なんかは後回しにして、ここは先に進まないとね。……あれ?
「よし、では中の斥候は私達に任せてくれ。こういった場合の訓練は……咲夜くん?」
「まだ終わっていません! 上から来ます!」
ふたたびメガデスを抜くと、屋上から降って来る気配に狙いを定める。
それはゾンビなんかよりはるかに凶悪な気配。強敵だ!




