65話 咲夜ただいま待機中
私達の拠点、アリサソフト新宿営業所は最近カオスな状態になっている。というのも、モミジが金にあかせて買いまくったパソコンやらラムスの撮影機材やらその他検査機器などが所狭しと散乱しているのだ。
なぜモミジがそんな金持ちになったかというと、モミジは自衛隊の魔導器技術指導員とでもいう立場になったのだ。
ナイフや刀を聖別して魔族にダメージを与えられる武器にしたり、魔族の骸から抽出した魔力で、こちらの人間でもある程度魔法が使える道具を作ったり。
それによる報酬はかなりのものであり、モミジはそのお金をこちらの機械技術を学ぶために使っているのだ。
「ラムスは撮影映像のチェック、モミジは相も変わらずアヤしい機械いじりか。二人とも部屋に引きこもって出てこないし、急速にオタク化していってるねぇ」
やっぱり現代は、いつまでも遊べるオモチャが多すぎるんだろうね。よほど自分を律することが出来る人でないと、若い時に結婚なんてしないんだろうね。そして少子化か。
ガチャ
「あれ、真琴ちゃん。モミジの所にいたの?」
モミジの部屋からひどく疲れたような真琴ちゃんが出てきた。
「ううっ。油断してたら、またモミジさんに連れ込まれてアレの危機でした。あのコーヒー、ヘンな薬が入っていたんでしょうか。アレがひどくムズムズします」
真琴ちゃんはもどかしそうに股間をおさえている。モミジは、まだあの奇跡の技術で作られたオ〇ンチンを狙っていたのか。
「まったく、モミジもしょうがないね。知的好奇心の強い奴はホント迷惑な奴が多いね。ともかく今、学校に救助部隊が入ったってニュ-スでやってるよ。いっしょに見よう」
「ええっ! はい、見ます!」
と、真琴ちゃんはテレビの前の私の隣にすわった。
だけど、まったく続報がない。アナウンサーが同じことを繰り返しているだけだ。
「…………どうなったんでしょう。なんか、ちっとも動きがありませんが」
「失敗しちゃったんだろうね。こりゃ中に入った部隊は絶望的かな」
クエスト失敗の雰囲気はなんとなくわかる。インタビューされている自衛官の顔も行方不明パーティーの身内そのものだ。
「もっとも予想通りだけどね。こんな力押しでどうにかなるなら、私だってここでテレビなんか見てないし。お兄ちゃん、早く作戦考えついてくれればいいけど」
「ずいぶん岩長さんを買っていますね。スゴイ魔法使いにとらわれた大勢の人質を助け出すなんて、とても難しいと思いますけど。そんな作戦、岩長さんは本当に考えつくんでしょうか?」
「こういった難しい局面での作戦立案は、お兄ちゃんは何度もしているんだよ。だからお兄ちゃんを信じてまかせるのが一番」
お兄ちゃんが創造神になる前の前世は、ちょっとややこしいけど、魔人王が世界を支配した世界線のラムス。そのラムスは、あらゆる絶望的な戦線に出て圧倒的な魔人王軍に抗った本物の勇者だ。
当然、難しい戦場の作戦立案なんかは手慣れたもの。こういった戦いこそ勇者ラムスの本領は発揮されるのだ。
「そうですか。咲夜さんがそこまで言うなら、私も岩長さんを信じてみます……あひゃ!」
「ど、どうしたの? 真琴ちゃん」
とつぜん真琴ちゃんが立ち上がり、股間をおさえて前かがみになった。
「お、オチ○チンがすごくシゴかれている! 岩長さんがエッチなことしてるう!」
おのれ、あの性欲魔人め! 信頼よせた途端にコレだよ。
一刻も早く諸菱高校に突入して学校のみんなを助けないといけないのに、エッチなんかしてサボっちゃって!
「エッチなんてさっさと終わらせて作戦考えてよ! ホラ、私が手伝ってあげる!」
スキル【エロテク Level10】発動!
高速にして絶妙な指使いで、真琴ちゃんの男の子をシゴきぬく!
「ホラ、ホラ、ホラ、ホラ、ホラぁ!!!」
シコシコシコ グリグリグリ ツツーツツー ジュボジュボジュボ
「アヒッ、アヒッ、アヒィィィッ! 咲夜さん、やめてぇぇ!」
「がまんして。これも、あのバカタレに真面目に作戦考えてもらうためだから。そら、そら、そらぁぁぁ!!」
ギコギコギコ グリリリリリッ ギュオオオン
「ヒィィィィィィやぁぁーーッ!!!」
ふぅ。これだけ気持ちよくさせれば、あのアンポンタンもスッキリして作戦に集中できるだろうね。もの凄いヒラメキが起こって天才的アイデアが生まれるかも。
まったく兄がこんなエッチマンで、妹は恥ずかしいよ。
そして午後。竜崎さんが訪ねて来て、厳重に封緘された封筒を差し出した。
「岩長くんから作戦案を預かってきました。これが可能なのか検討してください」
やった! どうやら私のおかげでスッキリして真面目に作戦を考えたようだね。まったく手間のかかる兄で、しょうがないね。
「咲夜さんにはメッセージも預かっています。『このクソボケ! なんてことしやがる。オレをエア腹上死させる気か!!』だそうです」
ムカッ、なんて言いぐさだ。それというのもお兄ちゃんがサボってエッチなんかしてるからじゃないか!
「ところで真琴さんはどうしたんです? ひどく憔悴しているようですが」
ソファーで毛布をかぶりぐったりしている真琴ちゃんを見て、竜崎さんは心配そうに言った。
「ちょっと激しい運動をしただけですよ。作戦にはしっかり参加できますので、心配ありません。さて、作戦は……」
つらつらと難しい文章で作戦の概要が罹れている。あのお兄ちゃんに、こんなしっかりした文章が書けるとは意外だ。
「無反動砲による高度二千メートル上空からの垂直砲撃? 砲撃手はお兄ちゃん?」
「ええ。訓練もしてない彼がこれを成功させるのは不可能だと思うんです。それ以前にその魔法使いの位置をどうやって知るのだとか、疑問点は多いのですが、咲夜さんはどう思います?」
たしかに疑問に思う点はいくつかある。だけど『学校内は電波だけでなく外からの魔法の干渉も出来ない可能性』とか『学校内の人質に敵の手先が紛れ込んでいる危険性』とか、敵の分析はかなりスルドイ。ならば信用していいだろう。
「問題ありません。お兄ちゃんが出来ると言ったなら必ず出来ます。この作戦を全面的に協力してあげてください。もちろん私達もこの作戦で動きます」
「そうですかぁ? これを考えていた時の彼、喘ぎ声みたいな奇声を出したり、アヘアヘ悶えたりして、とても正気とは思えなかったんですが。気持ち悪くて本気で縁を切りたくなりましたよ。今は多くの少年少女と学校教諭の命がかかっているので我慢しますが」
「あ、大丈夫です。兄は素晴らしいアイデアが浮かぶと、エッチした時みたいなエクスタシーを感じてそうなっちゃうんです。問題ありません」
「は、はぁ。男の喘ぎ声とか聞かされた私には大問題なのですが、了解しました。では、咲夜さんには作戦準備としてこれを」
竜崎さんは持ってきた長物袋から一本の刀を出し、私に差し出した。
「これを出動までふっておくようにと言伝っています。銘は【長月雨竜】。現代まで刀鍛冶の技術を受け継いでいる刀工の作で、聖別してあります」
「……なるほど。作戦にはメガデスを手放すところもありましたね。その先か」
「チャンバラは想定せず、ただ上から下へ切り下げるだけの太刀筋ひとつ。それだけを速く鋭い型に作っておくようにとのことです」
「わかりました。出動は明日?」
「いいえ明後日です。さすがに準備に一日はかかりますよ」
「そうですか……人質のみんなは持つでしょうか?」
「三日目ですからギリギリ生存可能です。かなり憔悴するでしょうが、生きているなら良しと考えるべきでしょう」
「ですね。私も会食の時のようなザマは見せられません。刀をふって雑念を消しておきます」
ルルアーバ、お前との決戦は明後日に決まった。
今度こそお前を倒してみせる。待っていろ!




