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64話 岩長ただいま作戦立案中

 岩長視点


  都内タワーマンション岩長自室


 「やーれやれ、オレも大事なムスコを質にとられちまった。ちょっと飽きてきたとはいえ、まだまだ女に未練はある。真面目に学内連中を助けるプランを考えるか」


 タワーマンションのオレの自室は、かなりの高層階にある。

 【使役鳥】という魔法生物の鳥を飛ばし、あちこちを偵察するのに都合がいいので、ここに住んでいる。この鳥の胸にはオレの目の分身が仕込んであり、それで見たものはオレの網膜に映るという仕組みだ。


 さて、目下の重要案件はもちろん諸菱高校。昨夜からそこに使役鳥を飛ばして偵察に専念している。

 中の連中は水は水道が使えるが、メシはない。無事でいられるのは三日。どんな策であれ準備に一日はかかるから、プランを考えられるのは今日中。


 最初この計算をした時は、迷わず学内連中の生存を諦めた。たった一日の策で、あの老獪なザルバドネグザルの頭脳を受け継いだルルアーバを倒すなど無理な話だと。


 だが咲夜と真琴のあの様子では、救出プランを考えられなければ暴走して諸菱に特攻しかねん。なんとしても策を立てなければならなくなっちまった。


 で、諸菱高校の様子だが、学校周辺は機動隊により包囲されておりその外側にはマスコミやヤジ馬が集って大変な騒ぎだ。


 学校敷地内には薄い霧がたちこめている。魔法による霧だが、多少視界が悪いだけで問題はない。が、問題は校舎内だ。


 「クソッタレ! また潰された。隠形がまるで役に立たん」


 何度か校舎内に使役鳥を侵入させようと試みたが、近づいた途端iにルルアーバの黒い使役鳥が襲ってきて潰される。この辺はさすが最高峰の魔法師か。前世剣士のにわかじゃ相手にもならんな。


 「まったく。こんな情報のとれない状況で、どうやってルルアーバを倒す策を立てろというんだ……うん?」


 外周の包囲部隊に動きがあった。

 自衛隊の部隊移動車両が数台到着し、そこから重装備の特殊作戦の兵士らしき連中が何人も出てきたのだ。

 あいつら、まさか校舎に突入する気か?

 思わずオレは昨日助けたばかりの竜崎に電話をかけた。


 「おい、竜崎。諸菱に入っていくゴッツイ武装連中。ありゃ何だ?」


 『無論、学内の学生および教師の救助部隊ですよ。ま、私は検査入院のために指揮を外されていまして、指揮を執っているのは別の人間ですが』


 「あん? 入院なんて必要なかろう。こうして難なく話が出来ているではないか」


 『まぁ、そこは上の判断というか。前々から私を外そうと目論んでいたようなんですよ。魔族関係の問題を岩長くんやカリギュラにまかせてばかりで、部隊を活躍させられない私は疎まれていましてね。この機に指揮のすげ替えが行われました』


 「あの連中、止めなくていいのか? 諸菱は文字通りの伏魔殿だ。アルザベール城の再現になるぞ」


 『自衛隊もその他機関も、ここらで手柄が欲しいんですよ。いつまでも女の子二人に活躍されて本職の防衛機関が脇役じゃ、国民の不信を招きかねません。それに総理の強い要望もあって、動かないわけにはいきません』


 「ふん。防衛費増額に増税を目論んでいるのか、あの増税ジャンキーは。そのためにこの機会に自衛隊に手柄がほしいと」


 『いや、お孫さんの愛魅果お嬢さまの身を心配してのことですよ。まぁ増税は……やっぱりするでしょうが』


 「それで魔族を倒す方法なんかはあるのか。まさか銃弾でどうにかなる、なんて考えじゃないだろうな。アルザベール城で何も学ばないほどバカじゃないよな?」


 『ええ、モミジさんに刀を聖別してもらい魔族を倒す武器にしてもらいました。自衛隊には剣道の達人が何人もいるので、上手く使ってくれるでしょう』


 「魔族を倒す武器はあっても魔族から身を護る防具はなかろう。どう考えても今回の件は無謀だ。しかし”聖別された刀”か……」


 この時、オレはヒラメキの兆しのようなものを感じた。

 ルルアーバを討つには隙をついた暗殺しかない。が、咲夜の手にメガデスがあるうちは隙など見せんだろう。ならば二つ目の武器があれば?


 『どうしました、岩長くん?』


 「いや、その刀をオレにも一本融通してもらえんか。それは使えるかもしれん」


 『いいですよ、すぐ送りましょう。それくらいの権限はまだ残っています』


 まぁ予備武器を警戒しない甘い奴とも思えんが、ヒラメキには従おう。


 『私も、我々が魔族と戦うには早すぎると思いますが、元の研究職の番人になってしまったので作戦には口出しできません。貴重な対魔族に育てている戦力が、ここですり潰されるのはつらいですよ』


 「まったくキサマを助けた甲斐がない。使えん奴め」


 『この奇跡は友情だと信じたかったですがね。私に出来ることですが、魔族研究として現場に連れていくことくらいは出来ます。どうです、カリギュラのお二人を連れていくというのは』


 「……ダメだな。まだルルアーバの野郎にたどり着く策が立たん。ともかく、あの連中が死地に行くのを止められんというなら仕方ない。せめて捨て石として中の罠を調べさせてもらうぞ」


 『せめてもの役に立ってくれるなら、彼らも本望でしょう。ともかく今の私でも協力できることがあるなら、また連絡ください。この件、やはり岩長くんと咲夜さんにしか解決出来ないとみています』


 ふん。『あわよくば、いけるかもしれない』とか、都合の良い期待を抱かない所はやはり優秀だな。こんなバカな突入を指示する上司よりはよっぽどな。

 とはいえ、今のオレには助かる。救助部隊のヤツラに合わせ、オレの使役鳥も侵入させよう。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 そして三時間後。

 突入した救助部隊は通信途絶となり、全員が以前同様に生死不明となった。


 RRRRRRRRR……


 「おう竜崎。そろそろ来ると思っていた。突入した救助部隊の件だな」


 「はい。突入した特殊部隊ですが、一時間十五分前から報告の連絡要員が来ません。岩長くんは何がしかの手段で中を監視しているようですが、何か知っていますか』


 そうか、中は電波が完全シャットアウト。なので連絡には伝令を使っているのか。


 「全滅だ。予想通りだが、多少はヤツラの手の内は知れた。なぐさめになるか知らんが無駄死にではないぞ。被害に見合うかはともかくな」


 『は、はぁ? 最後の報告では救助は順調だとのことでしたが。それから一時間あまりで全滅? 岩長くん、それはいつもの悪態ですか?』


 「冗談でも悪態でもなく、文字通りの全員お亡くなりだ。指揮をはずされたのは、かえって良かったな。新しい管理官殿は貴重な戦力を消滅させてどう責任をとるのやら」


 『…………わかりました。彼らがどのように亡くなったか教えてくれませんか』


 救助部隊が救助したガキどもの中にルルアーバの手下になったヤツラがいたのだ。そいつらが隊員を襲い、隊員はゾンビ化。あとは同士討ちの混乱のすえ全滅だ。

 咲夜が突入する際は、そのゾンビ化した兵隊のライフルも相手にしなければならなくなった。


 『なるほど。救助する生徒も危険。たしかにそれが知れたら無駄死にではありませんね。次はカリギュラに要請がいくと思いますが、行ってくれますか』


 来たら、咲夜も真琴も行くだろう。それまでに策を立てたいのだが。


 「こうも情報がとれん状況ではな。あと知れたことと言えば『空の警戒は意外と薄い』ということぐらいか」


 『はぁ? 偵察ヘリが近づいたら、カラスのような鳥にまとわりつかれて危うく墜落しそうになったと聞きましたが』


 「さすがに目視できるような物に対処しないほど甘くはない。しかし、あの鳥は高度千も飛ぶことは出来んから、ヘリなら高度をとれば……」


 ……そうか。こっちの世界では、ドラゴンすらも及ばない高高度がとれるのだ。こちらに来たばかりの奴では、その対処も察知する術も持っていないはずだ。


 『どうしました、岩長くん。また何か思いつきましたか』


 「いや、ちょっとした思い付きがな」


 高高度からの暗殺を思いついてはみたが、位置が知れねばそれも不可能。咲夜を突入させ探索させて見つけたとしても、校舎内は完全電波シャットアウト。魔力通信もジャミングされてると見た方がいい。連絡のつけようがない。


 と、股間に「モゾリ」とした感覚を感じた。

 ちっ、真琴め。またコレを興味でイジっているな。まったく、オレも同調して同じ感覚を味わっているというのに迷惑なヤツ……ハッ!


 そうだ、コイツは魔力通信ではなく同調。すなわちルルアーバに知られず連絡をとる手段にも使える! よぅし、だんだん策が立ってきたぞ。

 真琴には礼として思いっきりシコってやろう。


 シコシコシコシコ……


 「竜崎……待たせたな。要請が来たら行ってやる……ウッ。だが……用意してもらいたいものが……ある」


 『え、ええ。いいですけど……岩長くん、あえいでいません? 気持ち悪いんですけど』


 「気に……するな。大事なパートナーへの……礼だ。それより用意してほしいものだがな。雲の上空を飛べるほどの高高度をとれるヘリを使わせろ」



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― 新着の感想 ―
[気になる点] さーて、岩長はどんな作戦を立てているのか? こういうのは、先のストーリーが出来てないと書けないよね。 [一言] >ちょっと飽きてきたとはいえ、まだまだ女に未練はある。  おいおい。欲望…
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