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61話 首相と会食

 首相会食当日 シティプリンセスホテル


 首相様がこんな忙しい時期に私達と会食しようだなんて、目的は今度こそ私達を政府のどこかの機関に入れようと話をもっていくつもりだろう。

 プリンセスホテルのドレスルームにて真琴ちゃんと衣装をととのえながら、その事について聞いてみた。


 「この会食で首相がどう話をもっていくのかお兄ちゃんから聞いてるよね。私は当然断るつもりだけど、真琴ちゃんはどうするの?」 


 「私も受けるわけにはいかないんです。私が強力な白魔法を無制限に使えるのは、股間のコレを通して岩長さんが魔力を送ってくれているためなんです。政府のお仕事とか受けるようになったら、女に戻れません」


 「なるほど。術の魔力は外づけだったのか。それじゃあ、そういった話が出ても受けないという方向で。相手が首相だから断りにくいかもだけど」


 「はいっ」


 ドレスルームから出ると、案内役の竜崎さんが待っていた。

 めずらしく髪をちゃんと整えているが「やりたくない」感を出してる顔は隠せない。


「やぁ、野花咲夜さん、南沢真琴さん。お綺麗ですよ」


 「こんなコスプレまがいな事よりメラの奴を追いたいんだけどね。ルルアーバは奴の側にいる可能性が高いし」


 「それはウチの捜査班が追っていますよ。今朝、米良田に動きがありました」


 「ええっ! それはどんな動きです?」


 「米良田は停学中にもかかわらず学校に登校したというのです。用務員にもぐりこんだ捜査員がいるので、多少は学校内の動きもわかります」


 「学校にも手をまわしていたんですか。さすがですね竜崎さん」


 「米良田の配下の少年は学校にも多くいますからね。学生という身分から、動くのは学校というのは十分考えられますので」


 「でもウチの学校で米良田が何かしようとしてるんですか。ちょっと心配です」 


 真琴ちゃんが心配する通りメラの通っている高校は私たちの母校。たしかに心配だけど、ここは潜入捜査員の報告を待つしかない。


 「では、お二人をプライベートルームへご案内いたします。外国の要人と懇意にされる場合にも使われる特別なルームです」


 増税首相め、本気度が違うな。

 選挙がヤバイんだろうけど、そんなのは増税やりすぎた自業自得であって、ちゃんと国民の報いを受けてほしい。私に配慮する気は一切ない。


 通された部屋は誰しもが思い描く貴族の邸宅そのもののような部屋。

 天井からは蝋燭の火を模した電球のついた大きなシャンデリアが垂れており、室内の家具や調度品も英国風のアンティークで統一されていた。

 部屋の中央には飴色の光沢を放つ木製リビングテーブル。それを挟む形でアンティ-クチェアが置かれていた。


 その上座には岸部首相。その隣にはドレスアップした愛魅果ちゃん。

 岸部首相はテレビとかで見た通りのメガネ首相。そのメガネの奥の怜悧なまなざしは、あらたな増税を画策しているよう。『増税メガネ』のイメージが強すぎて『増税しそうなヤツ』以外に見れない。


 「ようこそ野花咲夜さん、南沢真琴さん。ま、かけたまえ」


 着席を促す首相の顔は少しばかり不満のカケラのようなものが見える。大本命のお兄ちゃんは出席せず小娘な私達をおもてなしじゃ、そうなるかもね。

 でもドレスアップした愛魅果ちゃんはやっぱり可愛い。来た甲斐があった。


 「日本を突然におそった大災害の大元を早期に解決していただいたことには深く感謝いたします。この席は日本政府機関を代表しての感謝の現れと思っていただきたい」


 「はい、たいへん名誉に思います。ですが災厄の元凶のルルアーバという魔導師には逃げられており、奴をどうにかするまでは安心できません」


 「うむ。その危険な魔導師が暗躍しており、日本の安全を脅かしているそうだね。そういった異世界から来た脅威への対処、および情報共有のため、ぜひ君らには政府公認の機関に所属してもらいたいと思っているんだがね」


 さぁて、来たぞ。これをどうやって回避するか。


 「おっと、そう言えば孫の愛魅果も野花咲夜さんには助けられているんだったね。愛魅果」


 くっ、このタイミングで愛魅果ちゃんを出してくるとは。さすが外務大臣経験者の首相。断りにくくさせる技術は高いな。


 高校生とは思えない威風堂々の淑女のたたずまいで、愛魅果ちゃんは微笑む。やっぱりこの淑女らしさはロミアちゃんを思いださせる。


 「野花咲夜さん、あぶない所を救っていただいて本当にありがとうございました。この場であらためてお礼を述べさせていただきますわ」


 ―――――!!?


 ――ガタッ

 反射的に椅子から立ち上がった。そして、そこから大きく跳びすさった。


 「咲夜さん?」


 「どうしたのかね。なにか気にさわったかね?」


 いきなり剣士の動きをした私に、部屋の人間すべてが剣呑な雰囲気に包まれる。

 いや、愛魅果ちゃんだけは変わらず淑女の微笑みのまま。その意味は――


 「首相閣下、その子はお孫さんじゃありません。すぐにここから出てください」


 「なにを言っているのかね。どう見てもこの子は愛魅果……」


 ―――「さすがです、サクヤ殿。このアミカに粉するのは、かなり苦労したのですが」


 ザワザワザワッ……

 皆がいっせいにざわめいた。愛魅果ちゃんの声がとつぜん男のものになったのだ。

 いや、愛魅果ちゃんじゃない。奴こそは探しもとめていたアイツ!


 「ルルアーバ、よく気配まで変えることが出来たね。気配を読みそこなうなんてはじめてだよ」


 「いえいえ。話したとたん気づかれてしまうなら、その程度ということです」


 本当か? タイミングといい、正体バレしてあっさり認めたことといい、予定通りといった感は否めない。

 それに正体バレしたというのに、ルルアーバは愛魅果ちゃんのふん装のままで優雅に座っている。その様は声以外はお嬢様そのものだ。


 「余裕だね。武器を持ち込めないここなら、私の攻撃なんて自分を殺せないとでも思っているんだね」


 「咲夜さん、岩長さんが言ってきました。今すぐメガデスを送るそうです」


 そう。お兄ちゃんと一部がつながっている真琴ちゃんが居るので、ここの様子もお兄ちゃんには筒抜けなのだ。


 「ふふん、今回は前みたいにカエル女と踊るような事はないよ」


 いきなり床に魔方陣が現れ、そこからメガデスが出てくる。

 床から大剣が出てきて、周囲のざわめきはいっそう大きくなる。

 そんなざわめきをよそに、メガデスを抜いて愛魅果ちゃんのルルアーバにつきつける。


 「勝った。この距離でメガデスが私の手にあるなら、君が何をしようとも逃げることは出来ない」


 「そうですね。いかな術も、サクヤ殿の振り下ろす剣より速くは出せません。この間近で魔断の剣を見ては生きていられませんね」


 ここまで詰めているのに、何もしようとしないルルアーバに多少の不気味さを感じた。

 されど宿敵を前にやる事はひとつだけ。ただ、この剣を振り下ろすのみ!


 「ルルアーバ、最期だ!!」




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