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55話 アルザベール城は小幡城?

 二人が連れられた警察署に着くと、長舩さんは二人の聴取に。モミジはそこにある遺体の調査へ連れられていった。そして私は小さな待合室でひとり放っておかれた。

 私に何か出来ることがあるわけでもないとはいえ、この扱いはどうなのか。 

 長い時間待たされて、ようやく私の元に来た人物は意外な人だった。


 「どーも咲夜さん。お久しぶりです」 


 「あれ? 竜崎さん。どうしてここに?」


 なんと防研異世界調査室の管理官の竜崎さん。相変わらずのボサボサ頭で、管理職としてはどうなのか。


 「長舩三佐が病院へ行きましてね。で、私がかわりに現場を見に来たんです」


 「ああ、そう言えば防大の学生が大ケガしたらしいですね。お見舞いに行ったんですか」


 「いえ、長舩三佐が負傷したんですよ。とりおさえた子の一人がひどい怪力らしくてね。どうにか関節を極めて押さえたそうですけど、骨が折れたらしいんです」


 「え? あの子たちってそんなに強かったんですか」


 現役自衛官の長舩さんの骨を折るなんて、どんだけ?


 「それにしても竜崎さんって管理職ですよね。現場に来ることもあるんですか?」


 「部下に割り振る仕事ですので、普通は無いですね。まぁ今回の事件は異世界問題の大きな転換点になる予感がしたんで、来てみたんですよ。とりあえず参考人の少年たちの取り調べに立ち会いました」


 「はぁ。で、何かわかりましたか」


 「ええ。まず例の仮面は【魔神の仮面】と呼ばれていて、寿命と引き換えに願いを叶えるアイテムだそうです。参考人は『寿命十年と引き換えに金五百万円を得る』といった使い方をしていたようですね」


 「十年で五百万円? いくら何でも割に合わなすぎでしょう」


 大人になって普通に働いたら一年から二年くらいの年収か。それで十年はボッタクリだ。


 「自分の寿命ならそうですね。ですが『仮面を他人に使わせて金は自分の懐に入れてしまう』という使い方をすれば、その手の人間には実に有用なアイテムです」


 「……ああ、なるほど。さすが魔族は悪人と相性が良いですね。あの少年たちも不良っぽい感じでしたが、すでに裏社会のやり方を身につけているんですね」


 「はい。仮面で稼いだ金で、はみ出した少年たちをまとめあげ、三十人くらいのグループの大将になっているようです。仮面は手下の子達に使わせていたようですね」


 「胸クソ悪い話です。で、あのバケモノはどうしてその二人を狙っていたんです?」


 「そのバケモノの名は明戸浩平。渋谷の半グレ集団のボスでしたが、仮面のウワサを聞きつけ、仲間を引き連れて奪いに来たそうです。ですが二人に返り討ちにされましてね。二人はつかまえた明戸の寿命も金にしようと仮面を被せたそうです」


 「だけど思うようにいかなかったわけですか。何があったんです?」


 「仮面の使用方法は、仮面を被って願いを言うと仮面から寿命の代償を問われるそうです。で、契約が成立すれば、望みがかなう。二人は解放と引き換えに金を望むよう迫ったのですが、そこで明戸は思わぬ願いを言ったのです」


 「その結果があのバケモノ化?」


 「はい。明戸は手ひどい拷問を受けたのでしょう。よほど悔しかったのか『俺の寿命を全部くれてやる。だからマットとメラを殺させろ』と叫んだそうです。で、アレです」


 「マットとメラ? 日本人のようでしたが」


 「二人の通称ですよ。不良グループ【ファントムマスク】のリーダー間桐亮二ことマット、副リーダー米良田修ことメラと呼ばれているそうです」


 うーん、厨二病全盛期だね。チーム名がファントムマスクで、通称がマットとメラか。


 「あ、そう言えば死因のない死体! あれって、もしかして寿命を奪われ尽きた結果なんじゃ?」


 「はい。状況的にもそれがもっとも合理的な理由でしょう。ですが間桐と米良田が使わせたのはティーンエイジの子供らだけで、命を奪ったことはないそうです。たしかに被害者(ガイシャ)はみな大人でしたし」


 「ってことは?」


 「仮面はアレの他に複数個あるのでしょう。遺体は五つだけですが、出回っている数を把握しないとなりません」


 くっ! 思った以上に事態は悪化しているな。気づかないうちに、そんなに魔族の侵入を許してしまったなんて!


 「それで二人が仮面を手にいれた経緯とかは? どこからアイテム化した魔族なんて手に入れたんです」


 「それなんですがね。さっきまでの話はリーダーの間桐から聞いたものなんです。で、仮面を手に入れたのはサブの米良田らしいんですよ。その米良田は、明戸と戦った女性……つまり咲夜さん。あなたにでなければ何も話さないと言っているんです」


 「私に? どうして」


 「さぁ。もちろん咲夜さんが引き受けなくとも、どうにか話させる手段はあります。時間はかかりますが」


 「時間なんてかけてられませんよ。一刻も早く仮面の出た経路を割り出さなければならないのに。私が聞いてすむことなら、やりますってば」


 「やってくれますか。では、お願いします」


 そんなわけで私は取調室へと向かった。ひとりだったが、もちろん中の様子も話も別室でモニターされている。

 さて、取調室で主役然と座っているファントムマスク副リーダーの米良田という少年は、金髪に染めた髪をおかっぱにした幼い感じの少年だった。もっとも、どこかくせ者っぽい感じがして油断のならなそうな男の子だったが。


 「来たね。久しぶり、野花咲夜さん」


 え? 知らないけど。


 「誰だっけ。どこかで君と会ってた?」


 「春前ごろだったか。アンタが童貞を募集して、男どもを集めたろう。あん中に俺も居たんだよ。まったく、あんなブスで経験するんじゃなかったぜ。純潔守ってりゃ、面白れえ経験出来たのにな」


 「……ああ、思い出した。非童貞見破ったら、トランク持ち逃げしようとした連中のひとりだったね。手クセの悪い奴は条件満たしててもおことわりだよ」


 「まぁ、いいさ。咲夜さんが思い出してくれた所で、約束どおり話してやるか。アレはある日、ピエロみたいな仮面を被った男にもらったんだよ。寿命と引き換えに願いを叶える仮面(マスク)だって言ってな」


 道化の仮面……やはりルルアーバか!


 「そ、それっていつのこと? そのルルアーバ……じゃなくて男からどういった経緯でそれをもらったの?」


 「答えてもいいがね。その前に咲夜さんの強さの秘密を知りたいな。マットは寿命十年分でパワーをアップさせた。それでもバケモノになった明戸にはまるで歯が立たなかった。その明戸を倒したアンタの力の秘密は何だい?」


 ああ、長舩さんの骨を折ったのはその力のせいか。渋谷の半グレ連中を撃退したのもそれで納得だ。


 「それは言うわけにはいかない。話さないなら取り調べのプロに頼むけど?」


 「まぁいいさ。話してやるよ。もらったのは先月の十日ごろ。だから一ヶ月前弱といったところか。ヤツは仮面を『世の中を面白くしそうな奴を選んで配っている』と言っていたよ」


 一ヶ月も前から? ってことは、もうずいぶん前から、奴はアルザベール城を抜け出して暗躍していることになる。


 「それから咲夜さん。アイツから『もしアンタに出会ったのなら伝えて欲しい』って言われている事がある」


 「わ、私に? いったい何を言ってきたの?」


 「『アルザベール城で待っている。おもてなしの準備は十分にしている』だとさ。アンタ、あのピエロと仲がいいんだな」


 くっ、つまり罠の準備は十分ってことか。これは迂闊にアルザベール城へは踏み込めないぞ。とにかく、どういった経路で城から抜け出して街に入っているのか徹底的に調べないと。

 取調室を出ると、すぐに竜崎さんの元へ向かった。


 「竜崎さん、大変です。ルルアーバは一ヶ月以上も前から城を抜け出して仮面を配っているそうです」


 「聞いてましたよ。ですが……もしやあの城は【小幡城】かもしれません」


 「はい? いえアルザベール城と言いますが。なんです小幡城って。どう見ても異国のお城でしょう」


 「いえ、そうではなく……いや、ここで言うのはやめましょう。そのかわり岩長くんに伝えてください。『あの城は小幡城かもしれない』とね」


 何やら暗号めいた伝言を頼まれてしまったが。

 ともかく帰ってお兄ちゃんに伝えてみると、お兄ちゃんは血相をかかえてこれまで集めたアルザベール城の調査資料を読み漁った。


 「くそっ竜崎め。よく気がついたな。たしかに奴の睨んだ通りかもしれん。となると、これはマズイぞ」


 「『マズイ』って……そんなにスゴイ罠がアルザベール城にはしかけられてるってこと? やっぱり一ヶ月後に踏み込むって話は無しになりそう?」


 「……ああ、その計画は修正だ。オレたちはすでに罠にハマっている」


 「ええ? じゃあ、いつアルザベール城を攻めるの?」


 「明日だ! 急いで真琴を呼べ。今からアルザベール城攻略の準備をはじめるぞ!」


 ええええっ!!? 何で急に? 小幡城って何なの?

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― 新着の感想 ―
[一言] 「小幡城」って何か歴史的な由来がある例えなんだろうか? この米良田って少年、まだ何かありそう?
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