表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
163/265

52話 死因なき死体

 都内某所にある、とある雑居ビル一角の小さな喫茶店。私はそこへ長舩さんとの情報交換のために入っていく。

 この店は自衛隊と契約をしていて、外部の者と内密な話をする時などは奥の部屋を利用させてもらえるようになっているそうな。


 「以上、新宿の魔物は確実に弱体化しています。お兄ちゃんによると、来月頃には動くことも出来なくなるので、掃討作戦に入れるそうです」


 「なるほど、新宿解放がそんなに早くに実現できるとは朗報だ。さっそく部隊の編制にかかろう」


 「こっちの話はこれだけですが、そちらの話は何でしょう。竜崎さんから預かっているお話があるそうですが」


 「うむ……これだ。女の子の君には刺激が強いかもしれんが」


 長舩さんは懐から封筒を出し、そこに入っている三枚の写真を広げた。そこに写っているのは言葉通りに、皮膚が多少変色している痩せた体の変死体。


 「大丈夫です。向こうじゃモンスターに殺された人間を何人も見ていますから。しかし……外傷らしいものは何もありませんね。健康状態は良くなさそうだし、皮膚も多少変色している。死因は毒ですか?」


 「いいや。検死では毒の類いは検出されなかった。さらに言えば、死因は分からず仕舞い。ただ、どれもひどく衰弱しているのが共通だ」


 「なるほど、不思議な死体ですね。ですがこれって警察の仕事ですよね? どうして異世界研究の自衛官がそんな事件を調べて、しかも私にそれを話して…………ああ、そういう事ですか」


 長舩さんには、魔族が人間やその他の生物の生命力を魔力にして取り込んでいることを説明している。つまり竜崎さんは、これが魔族の捕食かもしれないと疑っているのだ。


 「うむ。この死因なき遺体はすでに五体も出ている。君達に監視カメラの設置をしてもらいながら遺憾だが、水もれを起こしている可能性はある。もちろん監視チームは昼夜問わずの仕事は怠っていないが」


 だけど獣並みの知能な魔物ならともかく、ルルアーバのような知恵のある奴が隠形の術を使ったなら見破るのはほぼ不可能だ。

 監視カメラも二百個とりつけるのは苦労したけど、アルザベール城周囲を隙なく監視するには足りないし。


 「この死体、直接見せてもらうことは出来ますか? 魔族の仕業なら見れば分かると思うんですけど」


 「いいとも、そのくらいは出来る。今すぐに行こうか?」


 「あ、いや『すぐ分かる』のは私じゃなくて仲間の方なんです。モミジはこういった調べ物が得意でしてね」


 なにしろチート解析能力【錬金鑑定眼】持ちだからね。


 「わかった車で迎えに行こう。魔物が都内に侵入していたなら、えらい事だからな」


 マズイ。そうなったらお兄ちゃんの新宿奪還作戦の予定が狂う可能性も出てくる。

 長舩さんの車で送ってもらい、拠点のアリサソフト都内営業所に居るモミジに写真を見せてみる。


 「なんや、生きモンが生きるのに必要な何かを抜かれた感じやな。実物を鑑定眼で視んと、魔物のせいかどうかは分からんがな」


 やはり鑑定士センセイには実物を見ていただくより他はなし。

 モミジ先生の小さな玉体を車にお乗せになり、遺体安置所へご招待だ。


 しかしみんなで車に乗ってしばらく走っていると、繁華街近くでちょっとした渋滞につかまった。どうもただの渋滞ではなく、先の方でひどい騒ぎが聞こえてくる。


 「なんだろうね。やけに向こうが騒がしいけど」


 「ふーん? こっちの世界はいつも騒がしい気がするんやけどな。あれも『あいどる』とかの『いべんと』やないんか?」


 「こんなストリートのど真ん中でイベントなんかあるわけないよ。あ、もしかしてゲリラ?」


 たしか昔、プロのアイドルが道交法違反を覚悟でゲリライベントを通りでやったって話が聞いたことがある。まさかこの時代にそんな骨のあるアイドルがいるのだろうか。


 「違うな。あれは悲鳴だ。放ってもおけん。送迎途中で悪いが、見てくる」


 長舩さんは路肩に車を停め、歩道に出た。

 私も悪い予感がしたのでモミジといっしょに出てみる。

 と、騒ぎの向こうからバイクの爆音が聞こえてきた。


 「なっ、バイクが歩道に!?」


 長舩さんの言葉通りに、悲鳴の方向から二人乗りのバイクが疾走している。

 しかもそれは、人を跳ねているのもかまわず突き進んでいるのだ!


 「うっひゃああ暴れ馬? あの乗りモンにも、手ェつけられん興奮の時ってのがあるんやな」


 「ないよ。あれは完全に人間が操作しているもので、興奮してるとすれば人間の方だよ。さすがにバイクの突進じゃ、現役自衛官の長舩さんでも荷が重いな」


 私は護身用の警棒をとりだし「私に任せてください」と長舩さんに声をかけ、「スタスタ」とバイクの突進に向かい歩いてゆく。


 ――「どけエエエっ! ひき殺すぞ!!」


 もう何人もひき殺しているだろうに。

 人を殺してまで、いったい何をそんなに急いでいるんだか。


 「スキル【つばめ返し】!」


 高速獣迎撃剣術スキルで突進するバイクの前輪を破壊。

 走行の加速のままにつんのめって投げ出されるDQN。


 「「うわあああっ!!」」


 人跳ねDQNどもとはいえ、私までこっちの世界で殺しはしたくない。

 落下の予想地点で待ちうけ、飛んでくる二人組DQNを警棒の薙ぎでふたたび空中に浮き上がらせる。


 「ゴフッ!」「ゲホッ!」


 加速の衝撃を完全に殺したので、地面に落下しても二人ともケガはない。それを長舩さんがすかさず取り押さえる。


 ワーーッ パチパチパチ


 「すっごーーい」「あの子って達人?」とかの歓声が沸き上がり、「パシャリ」「パシャリ」とカメラのシャッター音が鳴り響く。

 遠巻きにバイクの暴走を見ていた野次馬たちはヤンヤヤンヤの喝采で私に近づいてくる。しかし……


 ビュウウウンッ


 警棒を鋭く一薙ぎ。近づいて来ようとする彼らを止める。

 水を打ったように静まりかえり、固まる野次馬たち。


 「近づかないで。まだ終わっていません」


 バイクの暴走と爆音で気づくのが遅れた。

 このDQNが走ってきた向こうからは、悲鳴がまだ止まない。

 そしてあろうことか、この日本で魔物の気配が近づいてくる。

 

 「離せ! 逃げねぇとヤバイんだよ!」「バケモノになった明戸が来るんだよ!」


 人間がバケモノになった? いったい何が……

 いや、考えている暇はなさそうだね。あとで二人から話を聞けばいい。

 だけど今は、あそこの『魔物モドキ』を倒すのみ!


 「ブウウウウウウウッギィイイイイイイイイッ!!」


 まるで獣のような唸り声をあげて飛び出してきたのは、奇妙な悪魔を模した仮面をつけた人間だった。されどそのスピードとパワーは人間とは思えないほど。

 進路途中のガードレールやら標識やら植樹やらを怪力で破壊しながら走ってきている。それが真っすぐにこちらに……いや、DQN二人を目がけて突き進んでくる。


 「長舩さん、その二人をぜったい離さないで。どうやらアイツはそいつらを狙っているようです。そいつらが逃げたら、追っていって被害が拡大します」


 長舩さんはうなずくも、捕らえられているDQNどもはわめく。


 「冗談じゃねぇ!」「俺らに殺されろって言うのかよ!」


 「無関係で罪のない人達がケガするより、関係ありまくり罪犯しまくりな君達が殺される方がいい。私はそう考えるよ。もっともそれは私がヤツに負けた場合の話。負けないけどね」


 警棒の握りは軽く、脱力にて跳躍の予備動作を作り、足取り迷わず歩みゆく。

 通りを恐怖におとしいれる怪異に向かう私に、決戦の空気を読んでまわりの人らは息を呑んでジッと見守る。

 されど、そんな空気を読まない浮かれた嬌声がひとつ。


 「うっひゃあ、男前やなサクヤさん。がんばってえな」


 モミジは私に駆け寄ってきて首に腕をまわす。そして……



 「ムッチュウウッ」

 と、熱い熱いディープキスをした!


 「パシャ」「パシャ」「パシャ」「パシャ」「パシャ」と、決定的瞬間を逃さないシャッター音が鳴り響く。


 「帰ったら、いっぱいシような。待ってるさかい」


 可愛く頬を染めて小走りに離れるモミジ。だけど……


 日本の人前でなにしちゃってくれてんの!? 

 別の意味で注目される視線が突き刺さって痛いよ!!


 いくら他のハーレムメンバーがいないせいで!

 毎夜メインヒロイン並みの扱いになっているとはいえ!!!

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] サクヤ、こっちでも毎夜、ヤってるんだ。 他人を批判する資格はないな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ